水増し請求
水増し請求だと思った。
最近は人を騙す犯罪が多いと聞くから、自分がターゲットにされたのかもしれない。
個人情報保護だとかよく言うけれど、何をするにも、どこもかしこもすぐに不必要な情報まで求めてくる。名前もフリガナも住所も電話番号も生年月日も年齢も性別も、書かされ放題の書き放題、さらけ出し放題で世間様に流出しまくり。
東京の03や大阪の06といった、自分と全く縁の無いはずの市外局番からも時々電話が掛かってくる。電話機のディスプレイにそういった番号が表示されたときは、受話器を取らないようにしている。また、市内局番からの電話も、市内からの番号に安心するという心理につけこんだ詐欺かもしれないから、極力出ないようにしている。
水道を、私がこんなに使ったはずが無い。
水道局がとうとう、期日までに支払わなければ水道を止めるという内容の手紙を送ってきた。役所までもが、善良な市民を騙して金を巻き上げようとするだなんて信じられない。
さすがに水が出なくなったら困るから、水道局に連絡した。どこか漏水していないか、水道管に異常が無いか、早めに水道業者に見てもらった方がいいと言われた。
でも、異常なんて特に何も無いはずだから、私は水道業者には連絡しない。
見られても困る。
異常は無いという異常を、以前から何となく察していた。おかしいな、と感じることは幾らかあったから。
布団の中でスヤスヤ寝ていて、フッと意識が浮上したとき、まだ外も暗い時間、家の中の様子がぼんやりと感じられたりして、台所から水の音がする。ジョロジョロジョロ、キュッキュッキュ、あれはきっと洗い物をする音で、私が寝ている間に水道を使っているのだと思う。
でも私が使っていないのに、なぜ私が支払わなければならないのか。
腹が立つから、蹴りあげるつもりで、台所の床下収納を勢いよく踏んでやった。
きっとビクついて、恐々として身を縮めているに違いない。
「水を無駄遣いするんじゃないよ!」
もう一度、ドンっと踏んで大きな音を鳴らす。
戦国時代には有名な武将が水攻めをしたというから、悪さが続くようなら私も真似をして、床下収納ごと水に沈めてやろうと思う。
食器洗いくらいしかまともに出来ない役立たずのくせに、水も金も無駄に遣いやがって。
人を騙して金を取るような奴等も、お役所仕事しか出来ない頭でっかちな役所の人間達も、床下のコイツも、本当にどいつもこいつも、ろくな奴がいなくて困る。