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第3章「つながりの扉をたたく」(02)

 ――視点:奨

「――それで、こういう流れで“地域連携型モデル事業”としての申請を進める感じになります。書類のテンプレートは役場からもらってきたんで、必要なとこはもう記入済みです」

「おぉ……お前、ほんとに大学生か?」

「言われ慣れてます」

 自宅兼作業場の一角。奨はノートPCの画面を匠真に見せながら、申請書の構成を確認していた。

  机の上には、町の地図や空き家リスト、イベント備品の貸し出し表、消防団の支援スケジュール表などが広げられている。

「マジで、こういうの苦手で……正直、どっから手をつけていいか分かんなかった。助かる」

「お前が“旗”なら、俺は“手足”でいい。裏方は任せろ」

「いや、むしろそっちが旗っぽいけどな……」

 匠真は苦笑しながらも、ノートにメモを取り始めた。

「で、今週金曜が締め切りで、明美さんが通すかどうかの“仮査定”が入るって話だったな」

「そう。“内容と整合性”“町との連携度”“住民への波及性”――この3点が審査基準になるらしい。だから、参加者の“顔”をもっと明確に入れる必要がある」

「つまり……“名前”じゃなくて、“物語”ってことか」

「そう。この町に住んでる“誰が”、なぜこれを望んでいるか。顔が見える構成にする。数よりも“熱”で押すんだよ」

 匠真はペンを止め、深く息を吐いた。

「なあ、奨。お前って、なんでこんなに真剣なんだ?」

「……?」

「俺が祖父のことをきっかけに動き出したのは分かる。葵さんは絵で繋がってたし、まいは感覚で動くタイプだ。でも、お前は、誰より現実を知ってるくせに、誰よりも動いてる」

 奨はしばらく何も言わず、やがて、ひとつのファイルを開いて見せた。

「これ、見覚えある?」

「……あれ? これ、子どもの絵じゃないか?」

「春光小学校の6年生が、総合の授業で“町の未来を描こう”ってテーマで描いた作品。俺の弟が担任してて、こっそり見せてもらったんだ」

 一枚には、町の広場に笑顔で集まる人々が描かれていた。

  色鉛筆の筆跡。ちょっといびつな建物。飛び交うカラフルな風船。

  でもそこには――たしかに“希望”があった。

「俺はな、匠真。こういう“描かれた未来”が、ただの“絵空事”で終わるのが嫌なんだよ」

 匠真は目を伏せ、ゆっくりと頷いた。

「じゃあ、それが“現実”になるところまで、俺たちで持っていこう」

「そういうこと。俺たちが、あの子らに“やろうと思えばできるんだ”って姿を見せなきゃ、誰がやる」

 ふたりの間に、一瞬の沈黙。

 それは決意のための静けさだった。

 その後も作業は夜まで続いた。

  奨はExcelと格闘し、匠真は町内の協力者に電話をかけ、葵には絵の使用許可に関する文書を取りまとめてもらう。

  慎吾からは“ありがとう文庫”に関する配置図、祥平からはマルシェの予備出店予定、そしてまいは広報用の写真素材を共有フォルダに次々とアップしてくる。

(みんなが、それぞれの形で“ありがとう”を担いでる)

 それが、どんなに小さなピースでも――

  この町の“ありがとう”が、少しずつ組み上がっていく気がしていた。

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