表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

1

「やっぱり、(あきら)君のこと好きにはなれなかった」  


 水瀬夏鈴(みなせかりん)は、いまにも、えへっと聞こえてきそうな顔をして言った。  

 僕は、思わずへっと間の抜けた声を出した。


「どうして……?」


「どうして? って、理由はいま言ったでしょう?」  

 彼女はそう言うと、不思議そうに細い首を傾げた。


「だって、今日だって普通にデートしたし、今日は付き合って半年記念日だったのに……」


「だから、きりがいいとこでお別れしようと思って」


「きりがいいって……そんな気持ちでいままで僕と付き合ってたの?」  

 僕は次第に息苦しさを覚えた。なんだか、水の中にでもいるみたいだ。


「だってさー、晃君ってかわいそうだったから。大学生にもなって一度も女の子と付き合ったことがないなんて。たまにはそういう人と付き合ってみるのもいいかな、と思って。試しに付き合ってみたの。でも、やっぱりだめだった」


「夏鈴さん、ひどいよ……そんな子だったなんて……」


「そんな子って、晃君が私の何を知ってるの? そもそも、私のことを知ろうとしてくれた? いつも口だけだったよね。その呼び方だって。私の方が年下だし、私は夏鈴ちゃんって呼んでほしいって何度も言ったよ?」


「それはそうだけど……僕なりには頑張ってみたんだ……」


「そう? 頑張るってことは、晃君も無理して、私と付き合ってたんじゃないの?」


「そんなことはない!」

 僕は自分でも驚くほど大きな声で言った。


 彼女も驚いたのか、一緒だけ目を丸くした。


「じゃあ、もう会うことはないと思う。さよなら」

 彼女はそう言うと、瞬く間に夜の闇に溶けていった。


 僕は街灯の下に1人取り残された。

 ショルダーバッグのなかから彼女に渡すはずだったプレゼントを取り出す。彼女がずっと読みたいと言っていた本だ。

 僕は自分でラッピングしたそれを雑に破り開けて本を取り出した。

 その場でパラパラと数ページ捲った。

 彼女と感想を言い合いたかった。

 見上げた空には、頼りなさそうな月が、ぼんやりと浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ