散歩コースは魔王城を含む
なろうラジオ大賞6の参加作品です。
「よお」
「ああ」
「ランは元気だ」
「見ればわかる」
「剣は暴れてないか?」
「かわいいものだ」
短い会話ののち、魔王はランと過ごす。
30分経ったら終了。
「明日は聖女が来る」
「ではマンドを迎えに行かせる」
「じゃあな」
「ああ」
勇者と魔王は戦う宿命というのがこちらの常識だが、偶然にも双方前世を日本で生きた記憶持ちだったので、争いを避ける方向で互いの意見が一致して今のような関係になった。
血気盛んな奴らの小競り合い程度はあるが、毎回そのときに対処するので騒ぎが大きくなることはない。
魔王と別れ、歩き始めたところでランが唸り声をあげた。気配を探ると数体の魔物が俺を狙っていた。無謀な奴らはたまにいる。
「大丈夫だ」
「クウン」
「心配ない」
ランはきゅるんとした瞳で俺を見上げる。可愛い。
会話している間に奴らの気配が消えた。魔王の側近が消したようだ。俺がやりたかった。
ランは安心して再び歩き出す。花や虫と戯れるのを見守りながら散歩は続く。
ランはチワワで、魔王の前世での愛犬だ。魔力を半分犠牲にして魂と肉体を復活させたらしい。
それをなぜ俺が所有しているかといえば、平和の証だから。決して争わない誓いのしるしとして互いの大事なものを預けた。
俺は勇者の剣、魔王は愛犬を。
魔王は断腸の思いでランを俺に託した。毎日の散歩コースに魔王城を含むことを条件に。
「もっと一緒にいたいよな」
ランはわかっているのかいないのか、俺の足を踏みながら尻尾を振った。
俺は癒される毎日だが、魔王は気の毒だ。
勇者の剣は己の使命に忠実で、魔物を操ってまで何度も魔王を襲うそうだ。気が休まらないだろう。
ゴール地点に到着した。
ここには俺の家に繋がる転移陣がある。許可された者だけ行き来できる。
「お疲れ様です」
出迎えたのはシェパードに似た獣人。キレたら狂犬。
「いつも悪いな。明日は聖女が来るからよろしく」
「月に一度のマンドの苦難の日ですね」
聖女はモフモフ信者だ。そしてマンドはチャウチャウの獣人。マンドに一目惚れした聖女は、マンドに会いたい一心で能力を鍛え、力を認められ散歩の権利を得た。
家に戻り食事をし、ランは眠ってしまった。
ランを見ていたら、昔飼っていたタマを思いだした。
自分も魔力を半分捨ててタマを呼ぼうかと考えた瞬間、遠くからドス黒い殺気を感じた。
――あいつだよな。剣なのに執着が怖え……魔王さん、いつもありがとうございます。
平和な日々はこうして続いていく。
ちなみに、熱で苦しむ子の横で執筆しました。罪悪感しかありません。しかも内容がこれとか……
チャウチャウは私が好きで出しただけです。
今年のラジオ大賞の参加は二作でおしまいです。
今年もありがとうございました。