風船の字
昼下がりの授業を受けていた。日の温かさとクーラーの風が、おしくらまんじゅうをしている。おっとり先生が、ホワイトボードに「児童」と書いた。幼い字だった。幼さの原因を作ってるのは、「児」の字だ。「児」の「日」部分が横にぷっくり風船のように膨らんでいる。もうちょっと空気を入れたら、ぱんっと可愛い音を立てて破裂しそうなくらい膨らんでいる。「縦棒」と「レ」を取ったら紐のついた風船になる。ホワイトボードの中をぷかぷか漂う風船になる。
私はノートに真似をして書いてみた。上手く書けない。お手本を見ようと顔をあげると、ボードの中の風船は消えていた。先生は新しい話を始めた。先生はその後に何回か「児童」と書いたけれど、どの「児」も空気が足りなかった。
授業が終わると、私はノートに書いた風船を消した。頭の中に理想の風船を浮かべて、教室を出ようとした。
その時、ある生徒がホワイトボードの前に立った。消えた風船を指でつついて、空想の中で割っていたのを、私だけが見た。