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超短編小説『千夜千字物語』

『千夜千字物語』その40~品行方正

作者: 天海樹

「遊園地デートなんてどう?」

昼間の方が何かと都合もいいし気持ちにセーブをかけられると思い

「それでいいよ」と返事をした。

好意を持っていた彼からの誘いは嬉しかった。

二つ返事で答えたかったけれど罪悪感が躊躇させた。

それでも承諾したのはよくよく考えてのことだった。


快適な家、贅沢な食事、自由な時間を与えられ気にもかけてくれる。

大事にされていると結婚したての頃はそう思っていた。

でも最近それが違うとわかった。


遊園地では二人とも年甲斐もなくはしゃいだ。

こんなにも騒いだのって何年ぶりだろう。

それにこんなに男の人を身近に感じたのは久しぶりだった。

そう意識し始めたら少し動揺してしまった。

「なんか食べない?」

そう言って二人で売店前に並んだ。

何を食べようかとか、次乗るアトラクションはどれにしようかとか、

いろいろ話しているうちにあっという間に順番がきた。

行列に並ぶのも楽しいひと時だった。


でも夫は違っていた。

夫なら私を席に待たせて買ってきてくれるだろう。

彼なりの気遣いなのかもしれないけれど、

本当にしたいことはこんな単純なことだった。


夫がしてくれることは

女性がしてもらって喜ぶもの。

だからちょっとした不満を口にするだけで

身内からもワガママだと言われる。

品行方正でいるしかなかった。

でも本当は私が望むものでなければ

それは何の意味をなさない。

私を傍に置いておきたいだけで、

決して私を求めているとは到底思えない。

それでもこれから30年、40年、

意味もない形ばかりの幸せを受け入れ続け、

品行方正で過ごさなければならないかと思うと

正直やりきれない。


さんざんアトラクションを満喫した後、水族館に行った。

遊園地の賑やかさとは打って変わって

幻想的な世界に静けさが漂っている。

外の開放感によって誤魔化されていた二人の距離が、

ここにきて相当近くなっていることに気づいた。

彼も同じ思いなのか口数が急に少なくなっていた。

それがまた私を一層ドキドキさせた。


外に出るとすっかり日が落ちていた。

駅へと向かって寄り添って歩く。

右手が彼の手に触れるとやさしく握ってくれた。

彼の薬指の指輪が罪悪感を濁し、

夢の時間を継続させる。

今ならまだそれぞれ帰る場所はある。

でもこのまま別れたくない。

やっぱり彼のことが好き。

そう思うと握る手に自然と力が入り、

応えるように彼も強く握り返してくれた。

気持ちはきっと同じ。

いまはこの幸せが永遠に続いて欲しいと願うだけ。

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