銃護の誓い
拙作「魂の銃」のアンサー的な作品となります。
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「約束を果たしに来た」
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開拓者たちが無軌道に集い、混沌とした町テニシス、そこが俺の生まれ育った故郷だ。
親父は保安官でお袋は酒場の娘、絵に描いたような、開拓の町のよくある一家、俺のじーちゃんは俺が産まれる前に撃ち殺されちまったらしい。
そんなじーちゃんの親友だったウボンデじーさんは俺にとっては本当のじーちゃんみたいな人だった。
「待ってろよ、じーさん」
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「デクタっ、また水汲みさぼってっ、あんたお兄ちゃんでしょっ!! 」
「かーちゃん、うっさい、俺は忙しいんだよーだ」
幼い子供の頃、お袋に怒鳴られては俺はウボンデじーさんの所に入り浸った。
「じーさんっ、また、話聞かせてくれよっ! 」
「はー、坊主か、またミアンにどやされるぞ」
「かーちゃんなら、さっきも怒鳴ってたよ、キシシ」
溜め息を吐きながら、工房に来た俺を邪魔者扱いせずに作業しながら、いつも色んな話をしてくれた。
じーさんは町じゃ一番の腕利きのガンスミスで、ついでに金物の修理なら刃物や鍋なんかもしてくれるんで、皆重宝してたんだけど、頑固で偏屈、人付き合いが苦手な武骨なじーさんって思われてた。
確かに言葉は乱暴だし、表情もいつも厳めしいけど、じーさんは俺には優しかったんだ。露骨に甘やかす訳じゃないんだけど、死んじまったじーちゃんの孫ってことで、可愛がって貰ってたと思う。
だからじーさんは、この町の話、俺のじーちゃんの話、俺の親父やお袋の子供の頃の話を沢山してくれた。
でも、じーさんは死んじまった俺のじーちゃんのことが大好きだったみたいなんだ。
あいつは凄い奴だったって話はあんまり聞かなかったけど、色んな楽しい話、苦しかった話、バカな話、それをしてるじーさんは、とっても楽しそうだった。
親父のことも大好きだったし、死んじまったじーちゃんのことも、じーさんの話を聞いて、興味がでて、親父や町の人たちにもじーちゃんの話を聞いて、「俺のじーちゃんはスゲー人だった」って思ってて、だからだと思うんだけど、俺は小さい頃から保安官になりたかった。
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じーさんは、じーちゃんが殺されたことが、本当に悔しかったんだと思う。
そりゃ、大切な友達を殺されて、赦せる奴なんていないよな。
でも、じーさんは実の子供の親父より、じーちゃんの死をずっーと引き摺っていたんだ。
親父が使ってる銃はじーちゃんの形見で、ウボンデじーさんが造った銃なんだけど、じーさんはそれにそっくりな銃を何丁も造っては鋳潰していたんだ。
「あいつのための銃をつくらにゃ」
そんな風にボソッと溢すじーさん、周りの人たちと余計に交流が減って、体を悪くして元々出不精なじーさんが更に工房に篭るようになったら、町の人たちはウボンデじーさんはザンダに憑かれちまったんだ、なんて酷い噂までしてた。
親父は俺のじーちゃんとウボンデじーさんは本当に仲が良かったから、町の人がじーちゃんがウボンデじーさんを呼んでるって話すのは仕方ないって笑ってた。
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「坊主、保安官にだけはなるな」
ある日、俺はじーさんにこう言われた。
起き上がるのもしんどそうなじーさんは、それでも鉄を打っては銃を造ってたんだけど、心配した親父は何度も休むように言って、でも聞いて貰えなかったんだ。
一人でじーさんのとこに来た、まだ数えで15だった俺に、じーさんはゆっくりと話しだした。その頃にはじーさんはあまり話すこともしなくなってたんだけど、じーさんは手を止めて俺の前に座って語りかけて来たんだ。
「坊主、保安官にだけはなるな」
「なんでだよ、じーさん。俺は保安官になるぜ」
真剣な顔で言ったじーさんに、夢を否定された俺は不満タラタラで反論した。
「……、言ってもきかんか、そりゃ、そうだな、あいつの孫なんだ。なら、デクタ、じーさんに約束してくれ、保安官になるなら、絶対に守らにゃならんことを。それを守るって約束すんなら、保安官になっていい」
一転して保安官になっていいって認められた俺は嬉しかった。じーさんは町一番、いや世界一のガンスミスだ。鉄砲撃ちになるんなら、じーさんの銃を腰に差すのが俺の夢だったから、余計に嬉しかったんだと思う。何より、ずっと坊主って呼んでたじーさんに名前で呼ばれたのが嬉しかった。
そして、じーさんはいくつかの約束を俺にしたんだ。
「デクタ、銃を持つなら、何を自分は護ってるか、それを間違えるな。銃は人殺しの道具だ。簡単に命を奪っちまう。だから、銃後に護るものの事を忘れたら保安官はただの人殺しになっちまう」
「デクタ、保安官なら、必ず二丁差すんだ」
「デクタ、保安官なら、絶対に死ぬな。保安官が死ねば、銃後に護られる者たちは盾も、剣も無くして、ただやられっちまう、絶対に保安官は死んじゃならん。先ずは己を守れんもんにはなるな」
じーさんの言ったことの意味は良くわかんなかったけれど、約束すれば、保安官になっていいって認められるんだって、俺は「いいぜっ」って、握り拳を上げて答えたんだけど。
じーさんはどこか寂しそうな顔をしてた。
なんか、気不味くて、だから俺は、反対にじーさんに約束をしたんだ。
「なぁ、じーさん、その作業台の上の銃、完成したら俺にくれよ。死んだじーちゃんのためなんだろ、なら、孫が使うのが一番さ」
そう、おちゃらけて言った俺は。少しして、ヤベッ、怒られるかもって思ったんだけどさ。
じーさん、すこしびっくりしたみたいな顔して、それから、こうホッとしたみたいな、クシャっと柔らかく皺だらけの顔を歪ませて静かに笑ってた。
「そうだな、それが一番かもしれん」
「えっ、いいの、ヤッターっ、約束だかんな。よーし。いつかは親父の銃も貰って、二丁差しのガンマンになってやる。あっ、守るもんって言うなら、じーさん、俺はじーさんも守ってやっかんな」
嬉しくて嬉しくて、俺は調子に乗った約束をじーさんにしたんだけど。
「坊主に護られる日が来る前に、儂は死んどるだろうな。まぁ、そんときが来たら頼んだぞ、デクタ」
大笑いしながら言うじーさんは嬉しそうだったんだ。
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それから暫くして、じーさんとじーさんが造っていた銃が姿を消した。
親父は懸命に探したものの、結局行方は分からずじまいだったんだ。
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数えで18を超えて、俺は保安官に見習いとして加わった。親父に仕込まれた腕は、並みのガンマンにはもう負けないくらいにはあった。
腰にはまだ、じーさんの銃は無かったけれど、俺は町のガンスミスから買った銃で二丁差しをしていた。
じーさんの行方は杳として知れないまま、十年以上が経ち、俺は親父からじーちゃんの形見の銃を譲り受けた。
親父は俺やお袋、下の弟妹たちのために、体の効くうちに職をかえると話して、俺に銃を託してくれた。
それから、俺は一丁差しになった。
約束を破ってるのはわかってる。
でも、どうしても、じーさんの銃を腰に差したら反対のホルスターに違う銃を差したく無かった。
「じーさん、確かに二丁差してねーけどさ。じーさんが銃をくれるって言ったんだぜ。俺はまだ、貰ってねーんだ。約束破りならお互い様で許してくれよな。その代わり、俺は絶対死なねーから」
そんな事を無人になったじーさんの工房で呟いた。
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それから、さらに五年が経って。俺も数えで30を超えちまった。
相変わらずの一丁差しで「一丁差しのデクタ」なんて呼ばれるようになったが、じーさんのことを探してるのは俺だけになっちまった。
一人の旅人が町に訪れる。
正直、開拓者の溢れる町だ。ゴールドラッシュも一昔前で、砂金で一発当てようなんて輩はだいぶ少ないが、そうでなくても、人生の再起にかけたならず者なら、ひっきりなしにやって来る町なんだが。
その旅人は穏やかな顔をして、白髭と白髪を手入れした。身形のいい老人だった。
正直、話しかけたのは違和感しか無かったからだ。なんでこんな紳士が、荒くれ者の町に来たんだかってな。
「じーさんは何しに来たんだ」
そのまま真っ直ぐな問いに、そのじーさんは気を悪くすることもなく、笑顔で答えてきた。
「老い先短いと感じてから、ほうぼうを旅しては珍しい話を集めて回るのが楽しみでしてな」
なんともお気楽な身分だと思ったが。何となしに意気投合して、俺はこの旅のじーさんと滞在中に良く話すようになった。
そんなじーさんと酒場で話していた時だった。
「しかし、流石にガンマン、腰元の銃は立派ですな。そう言えば、あちこちでその銃と似たような銃が出てくる話がありましたな」
じーさんのいったのは、あくまでもシングルアクションの回転式拳銃という意味の似ているだろうが、何でか俺は予感めいたものを感じて、その話の続きを促した。
「おおまかな内容はこうです。強欲で悪逆な人間の元に現れて願いを叶える銃があると持ちかける悪魔がいるというんです」
「願いを叶える銃? 」
意味が分からず鸚鵡返しした俺に、じーさんは詳細を語ってくれた。
「悪魔が言うには空弾倉のその銃を持って願いを唱えると、弾が装填されるんだそうで、そのあと、シリンダーを回して度胸試し宜しく自分の頭に向かって発砲して、生き残れば願いを叶えてくれるんだそうで」
なんだそりゃ、何発装填されるか知らないが、命かけてルーレット回すようなもんだ。
「そんな与太話、試す奴がいるのか」
「そこはそれ、悪魔というのは人を乗せる、騙すのはお手のものですからな。まぁ、成功した者はいないそうですが」
いよいよキナ臭い話だ。成功者がいないなら、じーさんは誰からこの話を聞いたんだって話だし、前提の願いを叶えるって部分も証明しようがない。
それでも、俺は何故かこの話が気になって仕方なかった。
「じーさん、俺もちょいと昔話させてくれ」
だからだろう。失踪したじーさんの話をしたのは。
「ふむ、成る程、ならば、そのガンスミスの男と銃は魂ごと悪魔に連れ去られたんでしょうな」
さも当たり前のように結論つけたじーさんだが、その可能性はあったとして、絶対とは言えない筈だ。でも、俺はその考えが正しいと確信してしまった。
だが、そうだとして、じーさんの魂もじーさんの銃も取り戻すことは相当に困難だとわかっただけだ。
どうすれば、その悪魔と接触出来るのか、そんなことを考えて固まる俺に、目の前のじーさんは朗らかな笑顔のまま言い放った。
「ふむ、では私もお手伝いしましょう。貴方と悪魔の持つ銃が縁深いものなら、貴方の存在さえ知れば、悪魔は必ず貴方をターゲットにするでしょう」
「なんで、断言出来るんだ」
「簡単なこと、悪魔はガンスミスの魂を苦しめ、その絶望を糧に力を得ているのです。貴方を手にかけることになれば、その絶望は計り知れませんからね」
成る程とは思ったが、果たしてどうやって呼びよせるつもりなのか。
話を進めるうちに、薄々と感じ始めたこのじーさんの薄気味悪さが増す。
「なーに、まだ若い悪魔ひとり、喚び出すなんて雑作もありませんよ」
恐らくは隠す気がないのだ。それでも真面には答えないだろう問いが口をつく。
「じーさん、あんた人間なのか」
その問い掛けに、じーさんは人の良い顔のまま、何でもないことのように言葉を発して来るんだった。
「人間ですよ。一応、今はね」
好好爺然とした身形のいいじーさんの、人好きしそうな笑顔に俺はゾッとした。
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はっきり言えば、到底信用出来る話でも無ければ、俺の予感もただの思い込みだが、それでも一縷の望みを賭ける想いで、俺はあのじーさんの言葉に従うことにした。
新月の夜、町のはずれの四つ辻に俺は立っていた。
月明かりもない真夜中の人の通りも無い辻の中央で、俺はランタンの灯りを頼りに、じーさんに言われた通りに悪魔に呼び掛けた。
「銃の悪魔、俺の願いを叶えてみろ」
暫く待てど何も起こらず、何をやってんだかと虚しい気持ちになりかけた時、目の前で旋風に砂埃が上がり、一人の男が現れた。
「ふーん、何故か興味をひかれて来てみたけれど、願いねー」
一見すれば、ただの優男風の目の前の男には、両耳の上に一対二本の曲がりくねった角が生えていた。
「俺は約束を果たしに来た。それが俺の願いだ」
「約束~? 」
訝し気に言った悪魔は、次の瞬間に破顔した。
「あー、この銃の縁者か、取り返しに来たって訳だ。これは傑作だな。良いさ、挑戦すればいい。何処で聞いたか知らないけれど、頭を撃って生き延びたんなら、晴れて銃はお前のもんだ」
ゲラゲラと嗤いながら宣う悪魔に、俺は静かに息を吐き出す。
全ての約束を果たしに来たんだ。
悪魔はもし俺が成功しても、「銃」だけ渡してじーさんの魂は返さない心づもりだろう。
渡された銃は間違いなくじーさんの銃だった。そしてウボンデじーさんがこの中にいると、俺は確かにそう感じたんだ。
「待ってろよ、じーさん」
俺は改めて悪魔を見て、願いを唱えた。
「俺、デクタは全ての誓いを果たしに来た」
そう宣言した途端、手に持った銃は僅かに重さを増した。
シリンダーを外せば五発装填されているのが見える。
俺はシリンダーを戻して、回転させると、銃をこめかみへと向けた。
ウボンデじーさんがやめろと叫んだ声がした。
「じーさん、絶対に死なねーよ。約束だかんな」
呟いて引き金を引く。撃鉄は空弾倉を叩いて静かに鳴った。
悪魔はふざけるなとか、バカなとか、ひたすらに喚いて騒いだ後、玩具を取り上げられた子供のように膨れながら、ぶっきらぼうに言った。
「これで願いが叶う。良かったな」
そう言ったあと、悪魔が仄かに嗤ったのを俺は見逃さなかった。こいつは結局、じーさんを解放する気はない。俺の手元で苦しみ続けることを期待してやがる。
俺はそれに笑い返してやる。俺の願いは銃を取り戻すことじゃない。
約束を果たすことだ。
もう俺はあの頃の調子に乗った子供じゃない。
俺は約束を果たせる男になって来たんだ。男と男の誓いを果たしに来たんだ。
じーさんは俺が護る。そのための力が沸き上がるのを感じた。
じーさんの銃から怨嗟の声が木霊していく、あの悪魔を殺せと煩く喚いてくる。
言われなくてもやってやるさ。
俺は銃を悪魔に向けてトリガーを引くと、そのまま撃鉄を四度起こす、刹那の五連射は正確に心臓を撃ち抜いたが、流石に悪魔と言うのか、奴は反撃しようと迫って来た。
素早くじーさんの最高傑作を、ずっと空だったホルスターに差すと反対から相棒を抜く。
また一つ、あの日の約束が果たされる。俺が譲り受ける筈だったじーさんの銃をやっと腰に差せた。
「遅ーんだよ」
向かってくる悪魔とじーさんに悪態を吐きながら、俺は六連射で心臓を撃ち抜く、ほら見ろ、お前の手なんぞ借りんでも、じーさんの銃は最高なんだよ。
じーさんの最期の傑作を汚した罪はたっぷり償って貰うさ。
相棒をホルスターに戻して、もう一度魂の宿る銃を抜く。
空薬莢を排出して、俺ははっきりと宣言した。
「お前を殺す」
空弾倉に六発装填される。
「大盤振る舞いだな」
直ぐ様に連射で、また繰り返し、奴に絡みついた怨念は手を伸ばし、掴みかかっては地獄へ引きずり込もうとしているようだ。
身動きも出来ずに撃たれ続ける悪魔は情けない声で命乞いを始めた。
「やめろ、撃つな、もう撃たないでくれ」
懇願する悪魔に容赦なく弾を浴びせかける。同情して手を抜けば、その瞬間に殺されるのはわかっている。俺が圧倒出来ているのはじーさんの魂が籠った銃に力を借りてるからだ。
「俺には護るべき町も人もいる。俺が死ねば、悪態ついても泣いてくれる人もいる。だから死ねねーんだよ。じーさんが教えてくれたことだ。お前にゃ分からねーだろうがな」
銃後に護る人を忘れるなって誓いは、何よりも俺に、死ぬんじゃないって願をかけてくれたじーさんの想いの塊なんだ。俺に死んで欲しくないって願ってくれた銃護の誓いなんだ。
それに気付けた時にゃ、じーさんはお前に浚われちまってた訳だ。情けなくて、情けなくて狂いそうだが、それでも、俺はじーさんを助けてみせる。それが最後の恩返しなんだよ。
万感の想いを込めて撃ち続けた時間が過ぎて、薬莢を排出したシリンダーに弾は装填されなかった。必要無くなったからだ。
悪魔は怨念にしがみつかれて、膝をつき両の腕を広げて空を仰ぎ見る。まるで神に赦しを乞うような姿で絶命した。
やがて、白く灰のように崩れて風に壊されていくと、足元の無数の空薬莢も、まるで花びらのように崩れて舞い上がり、ヒラヒラと消えていった。
アボット山の稜線がうっすらと明るくなる。
「夜明けか」
随分と長いこと闘っていたようだ。
手元の銃を見れば、じーさんはもう行っちまったみたいだ。
「一言くらい、挨拶させてくれよ、せっかちが」
雲一つ無いってーのに、雨が流れて顔を濡らしやがる。晴れやかな気分にはなれそうにねーな。
感傷に浸る間もなく、拍手の音に振り替えれば、あの旅のじーさんが歩いてくるのが見えた。
「いやー、まさか倒してしまうとは、人間の意思というのは侮れませんな」
飄々として、もう好好爺とした雰囲気は何処へやらだ。
「お前も人間なんじゃないのか、一応は」
「ええ、ええ、人間ですよ、今は。我々は嘘はつけませんから」
「隠す気がないのが清々しいな。この嘘吐きめ」
「腹芸と言って下さい。貴方も随分と上手かったですよ」
何を言っても風に流されて堪える様子はない。ため息を吐き、言葉も捨てる。
「ありゃ、真っ正直に言っただけだ。勘違いしたのはバカのほうだろ」
そう言うと大笑するじーさんは一呼吸おいて、俺に言った。
「何にせよ。面白いものを見せて貰いましたし、あの悪魔も排除してくださった。私はアルムスバル、旧い名ゆえに覚えている者も皆無ですが、困った時は喚んで頂ければ力になりましょう」
「今回、力を借りといて何だがな。神か悪魔か知らねーが、必要ない。我が家には二人のじーさんから得た家訓があんだ」
興味深そうな顔をしたじーさんは顔で続きを促した。
「ふんっ、死ぬときはベッドの上で大往生、わかったか」
盛大に爆笑するじーさんは親指を立てると膝を叩きながら返してきた。
「あぁ、最高の答えだ。ただいくら腕に優れても、どうしようもない時もある。なに、取って喰おうなんて輩じゃない。本当に必要な時は遠慮なく喚びなさい」
そう言ってじーさんは消えていった。
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あれから俺は「死神のデクタ」なんて呼ばれる程に賞金稼ぎとしても名を馳せた。
親父よりも若いうちに引退して、二丁の相棒は息子に託した。
孫たちに囲まれて、ベッドの上で話をせがまれる。
「あなたたち、おじーちゃん休ませてあげなさい」
息子の嫁に窘められて、口々に不満を言う姿は若い頃の儂そのまんまだ。
願わくば、この子たちに託される相棒が、いつか棚の上で飾られる綺麗な宝物以上の価値を無くす世界が来ることを。
儂はそんなことを想いながら、少し眠りについた。
大きなベッドの上で。
実は元々はこちらが先のお話でしたが、主人公が悪魔を殺したい動機を深掘りするうちに前作が出来まして、先に書いて投稿しました。
此方もお読み頂きありがとうございました。
感想お待ちしておりますщ(´Д`щ)カモ-ン