魅惑の王太子殿下登場
カグヤ国国境でダビステアの護衛船とお別れし、いよいよカグヤ国の港が見えてきた。神秘の国にふさわしく、綺麗な海岸線に、整然とした港の船が並ぶ。
その中にひときわ目を引く騎士の集団が見えた。
「カナ様……ッ!」
レイナが歓喜の声をあげる。言わなくてもわかる……あの中心にいるのが例のイケメン王太子殿下というわけね。
王太子殿下直々のお迎えとは……。
ラセルもキースも王太子殿下を見て「おぉぉ!」と歓声をあげた。
「やっぱ遠目から見てもカッコいいよな」
「カリスマ性がぜんっぜん隠せてないね。カッコいい~」
男からもキャーキャー言われるなんて、並のアイドルでもないわ。船がが港に到着すると、そのたぐいまれな美貌に目を奪われた。
一人豪奢な装飾がほどこされた白馬に跨り、シルバーの正装を身にまとっている。服と合わせたような輝くシルバーの髪はゆるく束ねられ、肌は輝くような美白だ。
宝石のような美しい澄んだサファイヤの瞳で、中性的な端正な容貌なのに、男性特有の精悍さも感じる。
馬から降りると足が恐ろしく長く、抜群のスタイルも披露してくれる。服の上からも引き締まった身体のラインがわかり、単なるカッコいい人、というよりはそこはかとない色気を感じてしまう。
「眼福……鼻血でそう」
レイナは鼻を押さえて興奮状態だ。ラセルとキースは船から駈け出して、王太子殿下の元へ一直線で向かう。
「ルナキシア殿下、久しぶり!」
「お会いできるのを楽しみにしてたんですよぉ」
二人を眺めて王太子殿下は魅惑の微笑みを浮かべた。
「元気そうだね。私も早く会いたくて迎えに来てしまったんだ。手紙によると命を狙われているんだってね。騎士も50人連れてきたから安心していい」
ずらーっと並んだ50人の騎士たちは騎乗から礼を取る。そして王太子殿下は美しい瞳を私の方へ向けた。
こちらに歩いてくる。そして私の前に跪いた。
「ようこそ、聖女様。私はカグヤ国王太子、ルナキシア・ナタン・カグヤと申します」
なんと手の甲にキスしてきたよ。これが騎士のご挨拶だとしても、こんな色気むんむんイケメンからこんなことをされて顔が熱いわ。
「よ……よろしくお願いしますっ」
王太子殿下はすっと立ち上がり、私を用意してきた馬車へ誘う。
「そちらのレイナ嬢もご一緒に。レイナ嬢、大丈夫ですか?」
ちゃんとレイナの名前まで把握しているのね。気配りも素晴らしい。
レイナは握りしめたハンカチを血で濡らしている。間近で名前を呼ばれ、限界を迎えたらしい。
王太子殿下はレイナの前で優しく手をかざす。
「治癒」
私から放たれるようなシルバーのオーラで優しくレイナを癒す。魔術師でも治癒ができる人は限られていると聞く。この人は治癒魔法も使えるということか。
「君たちは馬でいいだろう?」
騎士団の分の馬と、ラセルやキースの馬も用意しているようだ。王太子殿下はまずキースに視線を移した。
「キースは乗馬うまくなったかな?」
「いやぁ……全然ですよ」
「ちゃんと乗馬も練習しないとダメだよ」
弟を諌める兄のようである。
次に王太子殿下はラセルへ視線を移した。
「城に着いたら改めて話を聞くけど……。命を狙われてるって、また君は危ない喧嘩を吹っ掛けて恨みを買ったのか?」
咎めるような視線を送っている。これもまた弟を心から心配する兄のようだ。
「一部否定はしないけど……。けど、俺って自分が知らないところで結構嫌われてるみたいなんだ。自分では、“典型的ないいヤツキャラ”でいたつもりなんだけど」
ラセルはしょんぼりと落ち込んでそう言うと、王太子殿下は嘆息している。
「みんなに好かれるってムリなことだからね。君が人を助けようと剣を振るった時、助けられた側は感謝するけど、敵や敵の仲間は君を敵視するだろうから。その延長なんじゃないのか?」
そう言って、王太子殿下は慰めるようにラセルの頭をぽんぽんとした。イケメン必殺技をさらにイケメンへ使う。お耽美な世界に見えてしまう。
「……俺のこと嫌ってる人、俺の憧れの人だったんだよ」
まだ失恋のショックから立ち直れないラセルはそう言って、馬に跨った。
私達は王太子の護衛に連れられて王宮へと向かった。




