剣に祝福を
私はどうせ暇しているだろうと思い、キースを中庭に呼びだした。一番の勝負時に使う剣を持参するように伝えて。
しばらくすると、キースが何やら豪華な装飾が施された剣を持って現れた。
「おぉ~……なんか高そうだね」
「7,777,777キュウの剣だからね」
この世界の剣の値段は、ゾロ目にしないといけない決まりでもあるのかね。剣の持ち手の先には綺麗な石がはめ込まれている。
キースが私の視線に気づくと「それは魔石ね」と教えてくれた。
この世界では、攻撃魔法を人に対して撃つことを禁止されている。ただし、剣に魔法をまとわせて戦うことは許容範囲と認められているそう。
攻撃魔法を最大限に引き出すために、四大属性の魔石を剣に埋め込むのが主流で、戦場では防具にも埋め込むことも多いとのこと。
普段使いの安い剣にはそこまでしないが、各騎士が勝負時に使用する剣には、金に糸目をかけずに付与を施す。
「前回のダンジョンにもこれ持っていけばよかったんだよなぁ。なんか勿体なくて使う気になれなくてさ」
「確かに、こんなに綺麗な剣だし、あまり使いたくないわよねぇ……あ、抜いてもいい?」
おそるおそる鞘から抜いて、銀色に輝く剣を空に掲げてみる。うーん……重い。
そしてキースに剣を返す。そして、ちょっと申し訳ないお願いをしてみた。
「ねぇ、前みたいにぶしゅっとやってみてよ。今度は魔法をまとわせて」
「さすがに魔法まとわせてぶしゅっはやったことないんだけど……ちょっと怖いなぁ」
「だ、大丈夫だって。即治癒するから」
治癒についても少し勉強させてもらった。普通の治癒のほか、前回やったような広範囲治癒、そのほか、完全治癒なるものもある。
たとえ、キースの腕がぽーん、と真っ二つになったとしても完全治癒でなんとかなるはずだ。
キースは雷をまとわせる魔法が得意のようで、バリバリと飛び散るような光が剣をおおう。
私はいつでも治癒が出来るように手に魔力を込める。
ぶしゅっ! キースが勢いよくバリバリな剣で腕を斬る。
「うぎゃぁ……!」
「治癒!」
転げまわるキースに治癒をかけた。傷口は綺麗にふさがったけど、キースは衝撃で地面をごろごろと転がった。
「ちょっとカナ! 感電したんだけど!」
「うーん……確かにちょっと危ないかもね」
青い空には白い三日月が浮かんでいる。剣に祈りをささげる。
付与の効果が最大限に現れますように……現れますように……。
持ち手から銀のオーラが立ち昇る。気付くと剣からはまばゆい銀の炎が現れていた。
「おぉ……すごい。聖魔法をまとった剣になってる!」
「これで、また同じようにやってみて」
今度は完全治癒を施す体制で準備する。キースは心底嫌なようだが、ちゃんと雷を剣にやどらせてくれた。
ぶしゅっ……ばりばり……っ! さきほどよりも衝撃が強かったようだ。
「うぎゃぁぁぁ」
「完全治癒!」
傷口はちゃんと綺麗にふさがった。けれどキースの顔には脂汗が浮かび、感電の衝撃で青ざめている。
「いま、ほんとに死ぬかとおもった……」
「つまり、雷の効果は高くなった?」
まぁ、雷は聖魔法がなくても強いものだし、比較対象としては微妙かもしれないけれど。
ぜぃぜぃと荒い息を吐きながら、キースは剣をしまう。
「この実験で得られるものはあった? 聖女さま」
「あったようなないような……」
「ないのかよっ! 死ぬ思いさせておいて……ッ!」
しかし、既に出来上がっている剣に対してもある程度の効果増を見込めるならば、例えば聖魔法の魔石とか剣に埋め込んでみたらどうなるのかな。
というよりそんな魔石はあるのかな。
「キース、その剣に埋められている魔石は、もともとダンジョンでドロップした魔石を入れているんでしょ?」
「……そうだけど?」
「そこに入っている、水、火、風、土の魔石はダンジョンで拾えるけど、聖魔法の魔石ってないのかな」
そう言うと、キースは呆れたような表情を浮かべた。
「ないね。ダンジョンの魔獣でそんな聖なる力をまとったのは見たことないし」
やっぱりそうか。
「じゃあこの実験は終わりね」
立ちあがるキースだったけれど、今思いついたことがあるわ。
「ねぇ、さっきの効果がどれくらい続くのか見てみたいの。もう一回剣を抜いてみて」
剣からは聖魔法のオーラは消えていた。
「はいはい、もう一回雷つけてぶしゅっすればいいんでしょ? ……ぎゃあぁぁぁ」
何も言わなくてもキースは実験に付き合ってくれる。いい人だ。治癒をかけてあげて、改めて今日の実験は終了した。
結果として言えるのは、すでにある剣に聖魔法の効果で属性魔法の威力が増すのは一瞬ということ。
継続しての効果はこのやり方では見込まれない。
撤収……と思って立ちあがったら、レイナがこっちにかけてくるのが見えた。
「カナ様、キース様! サザン夫人が見えています。お二人を呼ぶように、と……」
私とキースを? 不思議な組み合わせだ。
キースと目を合わせると、「あぁ……」と何か思い当るふしがあるようだ。
「カナ、とにかく俺にまかせて。カナは余計なこと言わずに黙ってればいいからね、ね!?」
キースが引きつった笑いを浮かべる。なんだろう。怪しいなぁ……。




