祝福の首輪
「一体さっきのはなんだったの? 全然説明もないし」
先に帰って、とは言ったけど、あんなところで絡まれているとは思わなかった。私に事情を説明する気がないのか、帰ったら速効で3人で部屋に籠ってしまったし。
「この手の話はいつもあの三人で話してますから、仕方ないですよ。うちの殿下って割と喧嘩っ早いといいますか、恨み買ってるんですよね」
確かに、初対面の時からそうだった。そのおかげで私は助かったんだけどね。そう思っていたらキースが向かいから歩いてきた。
「カナ、レイナ。さっきは助かったよ。あいつら剣に毒塗っててさ。カナがいなかったらやばかったかも」
剣に毒って超やばいヤツだよ。それもまた説明ないし。しかも50人近い人数で襲撃って相当な恨みだと思う。
「一体なんなわけ? なんで50人の剣に毒持った人に襲われるの?」
「そんなの誰もわかんないんだよ。でも、人間って自分の知らないところで恨み買ってるもんなんだねって話で一応落ち着いたんだよね」
キースはへらへらと笑っていたけれど、私はその不安が胸の奥に残ったまましばらくやり過ごすしかなかった。
◇◆◇
部屋に戻り、気分を切り替えてレイナと一緒にプレゼント作成に取りかかることにした。レイナはレイナで、ビスのためのブレスレットを作るみたい。
一緒に買った留め具に紐をひっかけて……と。指先に月の精霊の魔力を集める。銀のまばゆい光が指を通じて紐に伝わっていく。
「けど、このやり方でいいのかね」
実験とはいえ、なるべく失敗はしたくない。精霊を呼んでみた。
「あなた達、祝福の力を込めるやり方は知らない?」
初めから精霊に聞けばよかったのだと今さらながら気付いたのだ。
『明確なやり方はないと思うよ』
『多分大昔の聖女は、武具か装着するお守りに祈りをささげながら魔力を込めたんじゃないかな』
祈りかぁ……。神社やお寺にお参りする時のような願い事を思い浮かべればいいのかな。そういえば、今日は怪我をしていたし。
「健康で長生きできますように、的な感じでいいのかな」
「でもカナ様、殿下は割と健康なほうですから、それだと効果がわかりづらいのでは? 今日はたまたま襲われちゃいましたけど」
確かに。大病を患っているわけでもなく、この首輪で寿命が80歳から90歳延びたとしても、効果わかるのいつ? って感じだ。
「恨み買いませんように……っていうのはどうかな」
またあんな風に襲われたら大変だし心配。
「でもにゃんこの首輪ですよね。殿下はにゃんこの時は恨み買いませんし、むしろめっちゃ愛されてます」
じゃあ……なんだろう。もっと可愛くなりますように? とか。でも可愛いってかなり主観の問題だよなぁ。
「あと、殿下って人間の時と猫の時で、使用できる能力が違うんですよ」
猫の時に使用できる能力!? それって以前キースがいってた癒しの効果…?
「癒しの他、大切なスキルがあるんです。キャッツランドの国家機密の一つですけどね」
「そんな大層なものなの!?」
「えぇ……外交上もっとも大切なスキル。これは国王陛下も使うとも言われています! 魅了です! 外国の要人の前であの姿でメロメロにさせて、キャッツランドの交渉に有利になるように導いてるんですよ」
えー……汚っ!
「キース様も三分前にガチ喧嘩をしてても、猫になっているのを見ると、喧嘩してたの忘れてもふもふしたくなるって言ってました。キャッツランドの平和は猫外交の魅了が支えてるんですよね」
なるほどぉ……。揉め事を圧倒的な可愛さでもみ消しているわけね。でも魅了の能力が増すか否か……それもまた主観の問題だけど。
例えば、繁華街を首輪なしと首輪ありで両方試しで歩いてもらって、どれだけ人が寄ってくるのか、とか統計とって測ってみるのもいいかもしれない。
「よし、じゃあやっぱり、もっともっと可愛くなるようにって祈りにするよ」
あのもふもふの感触を思い出しながら、指に魔力を込めていく。
「私は、ビス様の剣がもっと強くなりますようにって祈りにします! 圧倒的な強さで国元の騎士王選手権で優勝してもらわなきゃ!」
レイナの祈りのほうがまっとうな誕プレっぽかったけど。とりあえず、私は黒猫がもっと可愛くなるように祈ることにした。
あ、大事なこと忘れてた。
「レイナ、あそこの猫用出入り口、この首輪が完成するまで塞いでおいてね」




