ごろつきの襲撃② ラセルside
「えぇぇぇっ!? 毒!? と、とりあえずお前は下がってろ。俺が命に代えても守るから!」
キースがラセルを庇うように前に出て、リーダー格と応戦する。スピードはキースが上なのだが、ポーションであり得ないくらいブーストされたパワーで押され、後ろに倒れた。
「クソガキの取り巻き、死ね!」
「くそぉぉ!」
キースはすぐに立ち上がり、不完全な体勢から本気の突きをした。結果的に決まり、リーダー格の男が倒れた。
「キース……一番いいところ……持っていくなよ」
ラセルはふらふらになりながら、ちょっと卑怯かもと思いつつ、後方の敵を雷の檻の上から魔法の網をかけて、完全に閉じ込めた。
――あと10人相手すんのしんどいしな。毒回り始めたし、やばいかも。
「ラセル、大丈夫かよ」
キースはほぼ涙目だ。主君のピンチと、こんな数の相手と実戦したことがないのだから当然だろう。
「だい……じょうぶ」
そう言って、倒れているリーダー格の男の前に座った。リーダーは恨みがましい目で見上げてきた。
「誰に頼まれた? 俺、そこまで恨み買った覚えないんだけど」
「へんっ! 誰が言うか!」
――仕方ない。あれやるか。
いつもの眼で読み取る術をかける。しかし毒が回りかけた身体で完全な形にはならない。とりあえず、自分のプロフィールが書かれてある紙を持った男と対峙している記憶が見れた。
――うーん……記憶にないなぁ。誰だろう?
ヒールで中和させてはいるが、なかなか強い毒性のものだ。ガチの殺意を感じる。そして後方からレイナとカナの声がかすかに聞こえ、ものすごい勢いで駆けてくるビスの姿が見えた。
「殿下……ッ!」
レイナとカナも慌ててこちらに駈け出してくる。ビスもこの場面を見て動転してのはわかるが、できれば二人を最優先に守ってほしいのだが。
「何があったんですか!?」
ビスが咎めるような目で睨んできた。
「なんか、ラセルがしょっちゅう喧嘩を繰り返してたごろつきが、恨みたっぷりに襲ってきたんだよ~」
キースがラセルのせい、のような言い方をするが、まったくそのとおりなので、ラセルは苦笑いしかできない。
「ごめんごめん、そういうわけなんだ。なんか知らないけど、俺って結構恨み買ってるんだな」
カナが駆け寄ってきて、ラセルの血だらけの腕を見て驚愕している。
「あんた何やってんの!? パーフェクトヒール!」
さすがは聖女のパーフェクトヒールはものが違う。毒性すらも完全に身体から消してくれた。
ビスとキースが手分けして、ごろつき40人を縄で縛る。縛ったそばからレイナとカナがヒールをしていく。ごろつき相手とはいえ、キャッツランドの王族が殺傷行為をするわけにはいかないからだ。
「よし、元気になったし檻のやつら、まだやる? やもうしんどいし、できれば投降してほしいんだけど」
40人斬りを目の当たりにした残り10人も無事投降してくれて、計50人を捕縛することができた。ラセルは人攫いリーダーのところで再度屈んでもう一度記憶を読む魔術を施す。
――やっぱり覚えがない。誰だろうなぁ……。
その男はやや変装しているような気配がした。そしてあのプロフィールはどこから持ってきたんだろう。魔術師協会……?
◇◆◇
「キース、俺って、命狙われるほど恨み買ってるのかな。なんかヘコむわ~」
公邸に着いて、キースとビスを呼んで話をする。
キースもビスも、主君の危機を救えなかったことにイライラしていた。
「その眼で見た人、本当に心当たりないの? あいつらナルメキア人なんだから、ナルメキアの人でしょ?」
「ないんだよなぁ。見たこともない人だったし」
「案外、女性関係じゃないですか? その人物の好きな女性が殿下のことを好きとか?」
「……でもラセルってモテないんだよね~」
――うるせーわ。
「けど、あいつらが見た俺のプロフィールって、多分魔術師協会のやつだと思うんだよね。魔術師協会にアクセスできるやつかなって」
とりあえず、よくわからないけどラセル殿下が知らないうちにどこかで恨みを買ったんですね、という結論で落ち着いてしまった。
ラセルがもう少し遡って眼で終えればよかったのに、と後々になって気付くのだった。




