ごろつきの襲撃 ラセルside
「なんで俺らだけ仲間はずれ?」
ラセルは不満げにキースに話しかけた。
「レイナと女の子同士の買い物とかあるんじゃない? 男には見られたくないような」
「あえて護衛にビスを選んだ意味は?」
「そりゃ、レイナの彼氏だからじゃん。俺らは違うじゃん」
「そか」
ようやく納得したラセルは、メインストリートを抜け、公邸へ向かう道に入る。人気のない、川沿いの大きな道だ。
ふと、ラセルがピクンと気配を察知する。いつでも剣を抜けるようにしておいた。
「キース気付いた?」
「なにを?」
何もわからずきょとんとするキースに、ラセルは軽く溜息を吐いた。
「わかんねーのか……お前さ、もうちょっと真面目に剣術やったほうがいい。くるぞ」
「だからなに……ぎゃっ」
いきなり草むらから大勢の屈強な男達が現れ、二人を取り囲んだ。
「よぉ、クソガキ。久しぶりだなぁ」
見覚えのある男がいつもよりもご立派な剣を持って現れた。ナルメキアの人攫いの連中で、ラセルとは顔見知りである。
「……ルーシブルに出稼ぎか? ここは警備兵が厳しいぜ。転職したのか?」
ラセルは軽口を叩くけど、ふと様子がおかしいことに気付く。
――こいつ、こんなんだっけ?
ある程度の実力者なら、やり合う前に相手の実力わかるものだが、これまでの人攫いのまとうオーラや殺気とは異なっているのだ。
それに一人二人のみではなく、全員がなんとなく強そうなのだ。
いつもなら素手でなんとかなる。しかし今日はそうもいかないような気がする。わざわざルーシブルまでやってきて、声をかけてきたのだ。
「転職は転職で違いねぇな。てめぇは俺ら以外にも恨み買ってるらしいなぁ? あぁ?」
男から殺気がむらむらと盛り上がる。
「ラ……ラセル、この人達、なに!?」
キースはあからさまに怯えて、剣を持つ手が震えている。
「ごめん、巻き込んで。ナルメキアで俺がよく遊んでいた人攫いだよ」
「げぇっ!?」
ラセルは当りを見渡す。囲まれているが、一点突破でキースだけでも逃がすことができるかもしれない。正直なところ、キースは足手まといだ。
「キース、序盤は俺から離れるな。合図したら一点斬りこんで逃げろ」
「バカ! そんなんできるわけないじゃん! お前は俺の主君なんだから!」
「足手まといなんだって!」
「主君置いて敵前逃亡するわけにはいかない! 俺は最後まで戦うからね!」
「……そか。それもそうだな。俺も頑張って可能な限りお前を守るよ」
――キースのせいで難易度が上がったぜ。まぁいいや。
「今日こそぶっ殺してやるからなぁぁぁ!」
殺気たっぷりに振りかぶってくる男と対峙しながら、キースを後ろに下がらせる。
「キース、一瞬目を瞑って。……シャインボム!」
数が多すぎるので、後方の敵に目くらましの光爆弾を浴びせて行動不能にしてみた。攻撃魔法ではないため街中でも使用可能だ。
ラセルは前方の敵に全集中し、こちらから急所を外しつつ斬り込んだ。ごろつきにしてはいいスピードだったが二人ほど一度に斬り捨てることができた。
キースにも前方で自分の目に届く場所で戦うことを指示しておく。危なくなったら可能な限りフォローするためだ。
「変な魔法使ってんじゃねぇよ!」
別の男が振りかぶって受け止めたが、なかなかのパワーだ。
――ただのごろつきじゃない。なんかドーピングしてる?
蹴りあげて距離をとったところでまた斬り捨てる。またシャインボムを使用し後方を戦闘不能にしてから、前方の敵を5人一気に斬り捨てた。
「な……何人いんのこれ?」
「ざっと50人くらい?」
「じゃ……じゃあ前もシャインボムすればいいじゃんか!」
「それじゃフェアじゃないだろ」
ラセルはまたこちらから踏み込み、今度は4人斬り捨てる。急所を外して大勢斬るのはなかなか大変な作業なのだ。
キースも全力で戦ってくれて、なんとか半分まで減らせるようになった。
「そろそろ疲れてきたんじゃねぇのか?」
リーダー格の男が余裕な表情で聞いてくる。確かに25人斬りは少々疲れてきた。
キースは肩で息をしているくらいだ。
キースめがけて3人で斬り込んでくる。さすがにこいつにこれはムリと思い、ラセルが無理やり介入し、1人を蹴り飛ばし、もう1人に斬り込んだ。
しかし、そのタイミングでリーダーの攻撃の対処が遅れ、二の腕が斬られてしまう。
「ラセル……!」
「大丈夫だから」
あまり大丈夫ではないのだが、キースがパニックになるのを防ぐ。
「お前らなー、2対50は卑怯だって。本気で行くからな!」
簡単にヒールをかけて、とりあえず全力で前方10人相手にし、後方にはサンダージェイルをかけて、雷の檻に入れておく。
「よ……よし……あとは……檻の中の連中と……お前だ……」
ようやくリーダー格と差しで対決の時だ。さすがに疲れてきたが、その時、身体が急にだるくなった。
「……お前、剣になんか毒塗っただろ?」




