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聖女の目覚め②

 首都・ルリルに戻った私たちは、サザン夫人の首都にある邸宅の書庫にお呼ばれしていた。


 夫人は前回の私とレイナの活躍に深く感動し、できるかぎりの聖魔法の知識を提供したいと申し出てくれたのだ。


 実は私、元の世界にいた時から図書館が大好きなのだ。ガチで聖女極めてやるぜ! ってやる気ムンムンだから楽しみすぎる。


「私もカナ様には叶わないですが、できるところまで聖魔法を極めてみようかと思ってるんですよ! カナ様は目標であり、ライバルです!」


 レイナもやる気だ。


「それにしても、我が国は聖魔法研究には後れを取ってるって痛感しますよ。国元でもダンジョンこもってばかりの脳筋魔術師ばかりですから仕方がないですが」


 ビスも書庫まで付いてくる。意外と本が好きみたいだ。


「キャッツランドにもダンジョンがあるの?」


「洞窟にもありますし、海底にもありますよ。海底ダンジョンは海外にも人気なんです。国元にいるときは、よくそこで遊ぶんですよ」


 へぇ~。海底とか楽しそう。私も連れて行ってもらいたいなぁ。


「ビス様、私も連れて行ってください!」


「レイナ、危険なんですよ。ダンジョンなんかよりも海底神殿に行きましょう。夏場は一部一般公開されますし、は、初詣とかも」


「初詣!」


 なぜ初詣にどもるのかね。私は二人から離れ、いち早く書庫の扉を開ける。


 書庫は、夫人一族が住まう邸宅から中庭を隔てた先の、大きな石造りの建物にあった。


 建物の古い扉は強く押すとギィィ……と軋んだ音を立てる。


 中を開くと、あら素敵。大きな暖炉には火をくべてあり、中央には大きなソファが置いてある。


 壁一面には本棚が並べられ、分厚い本がぎっしりと詰まり、ソファの周りを囲んである。


 そして暖炉の前のソファでは、一人の華奢な男の子がお行儀よく本を読んでいる。


 私に気付くと顔をあげ、会釈をしてくれた。


 淡いブロンドのさらさらとした髪に、これまた淡いブルーの瞳。まつ毛が長い、外国映画の子役にいそうな美少年だ。


「こんにちは……。お邪魔します」


 こちらも改めてご挨拶すると、美少年は微笑んだ。


 なんと品のいいおぼっちゃま。まるで天使だ。もしかして夫人の御子息様とか?


「書庫かぁ……本が引きつめられた場所行くとトイレ行きたくならない?」


「なりませんよ」


 後ろから聞こえてくるキースと冷たく返すビスの会話が耳に入ったのかクスッと笑う。


 教養のない連中がきた、とか思われたかな。でも私は同類じゃないですからね。


 図書館行くとトイレ近くなる、はちょっと同意だけど。


「騒がしくてごめんなさい。私はサザン夫人からこの書庫を紹介していただいた、キャッツランド王国のカナ・ヒルリモールと申します」


 スカートをつまみ、先客のおぼっちゃまに貴族式の挨拶をする。


 おぼっちゃまも立ちあがってこちらに歩いてくる。背は私より少し低いくらいかな。


 立ちあがると、子役と言うよりは中学生くらいに見えた。


「伺っております。僕はレオン・ジェイ・サザンと申します」


 おぼっちゃまも貴族のに礼をする。こんな品のいい子供、私がいた世界でお目にかかることはなかった。さすがは魔法と騎士の世界だ。


 サザンと名乗るからには、やはり夫人の御子息か、親戚の方なのかな。


「おぉ~……暖炉があるっ!…って、カナ、この子誰?」


 キースが書庫のいい雰囲気をぶち壊すように、ドアを開けて入ってきた。


「そんなところで立ち止まるなよ、邪魔!」


 ラセルがキースのお尻を足で蹴飛ばし、キースが「ケツけるなよ」と怒鳴り返す。


 おぼっちゃまと比べて、うちの連中は随分と俗っぽい。貴族らしさのかけらもないね。


「……ほんとうに騒がしくてごめんなさい」


 改めて頭を下げると、おぼっちゃまは苦笑した。


 ラセルとビスは初めておぼっちゃまの存在を認識し「あっ! やべぇ」って表情を浮かべた。


 レイナはおぼっちゃまの美貌に、「ほわぁ……」っていう笑みを浮かべる。


 改めておぼっちゃま……レオンは天使の微笑みを浮かべながら入り口の方へ歩いてきた。


「母から本日、キャッツランドの聖女様方がいらっしゃると伺っています。貴女が聖女様ですね、カナ様」


「あー……あの、いや、私はそんな大層なものでは……っ!」


 私の動揺に対して余裕の笑みを浮かべ、続いてラセルに対し挨拶をする。


「お初にお目にかかります、ラセル殿下。先日から母がお世話になっております。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ございません。私がサザン家当主・レオン・ジェイ・サザンです」


 完璧な騎士の礼をし、中学生とは思えぬ自己紹介をする。っていま、当主って言ったよね? 中学生ってまだ子供の部類に入るんじゃないの?


 ラセルも瞬時に先ほどまでの俗っぽい雰囲気を消し、王子様の演技を始める。


「初めまして、レオン殿。キャッツランド王国第七王子、ラセル・ブレイヴ・キャッツランドです。お母上には大変お世話になっております」


 お上品に挨拶を返す。後続のキース達も王子様の側近モードに切り替わり、それぞれカッコいい騎士のように挨拶を交わす。


 猫かぶりもここまでくるとお見事だ。


「第七王子付きの侍女、レイナ・クロウと申します」


 レイナも挨拶を交わすと、レオンはより一層微笑みを深くする。


 天使の微笑みを間近に受けて、レイナはまた「ほわぁ」という恍惚とした表情を浮かべた。ビス一筋でも美少年は別腹だよね。


「貴女がカナ様に次ぐ聖魔法の実力の持ち主ですね。母が国家魔術師としてスカウトしたいと申しておりましたよ」


 どこまで本気なのかは不明だが、この国は本当に聖魔法の使い手を喉から手が出るほど欲しいのだ。


 このサザン家のホスト役はこのおぼっちゃま……いえ、ご当主様のようだ。この書庫を案内してくれるという。


「あ、でもすみません。案内の前にひとついいでしょうか」


 ご当主様は私たち、というよりラセルをピンポイントに定め、あざといだろそれ……という上目づかいで見つめた。


「あの……可愛らしい猫に変化できると母から伺っております。あの……抱っこしたいのですが」

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