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結界強化研修②

 都市部を抜けると突如景色は豹変し、鄙びた風景が広がる。農村が広がり、豊かな自然の山々がそびえ立つ。


 朝イチに馬車に乗ってから、半日ほど。途中で乾パンの差し入れがあり休憩をしたものの、ほぼ一日中馬車に乗っている。


 夕日が傾き月が輝きだす頃に、ようやく辺境伯家に到着した。


 辺境伯家は要塞というような威圧感のある建物で、入り口にスマートな執事が「いらっしゃいませ」と出迎えてくれる。


「ビス様、ずっと馬でお疲れでは?」


「私は大丈夫ですよ。レイナは大丈夫ですか?」


「えぇ。ずっとカナ様のお嬢言葉を聞いていたので楽しくて……ふふっ」


 初々しいカップルの話題づくりに貢献できてよかったよ。


 私たちのために用意された部屋へ通される。すると、向かいの部屋から女子の集団特有のうるさい声が聞こえてきた。


「ちょっとぉ~私のここに置いておいたパンツどこよ? パンツ取るなよー」


「取ってねーし!」


「ちょっと! 大きな声でパンツって言わないで! 夫人の家なのよ! また恥じらいがないって怒られるわ」


 庶民の女って感じの下品な会話だ。ルーシブルの聖女ってあの部屋の主達かな。


 部屋の前で立ち止まっていたら、部屋の主の一人がドアを開けた。グレーに近い髪をポニーテールに結った、レイナと同じくらいの年の子だ。


「あんた誰?」


 いきなり失礼な子だよ。


「キャッツランド王国のカナ・ヒルリモールと申しますわ。このたびは、サザン辺境伯夫人に結界を強化するイベントの見学に招かれておりますの」


「レイナ・クロウと申します。あなた様は聖女様ですか?」


 私達はそれぞれ挨拶をする。聖女様、と呼ばれてポニーテールは「?」って顔をする。


「あー、、うちらは聖魔法が使える国家魔術師だけど、聖女っていうほどの大層なものじゃないわよ」


 ひらひらと謙遜するように手を振って、他のメンバーにも声をかけてくれる。


「なんか明日の結界張るの見学に来てる人だってー」


 外国人が珍しいのか、どれどれ? と押し合ってドアに集まってきた。


 ポニーテールの女の子がシェリー、薄いブロンドの長い髪を背中までストレートに伸ばしている女の子ががマリア、濃いピンクに近い珍しい髪色をツインテールにしている女の子がサリ。


 それぞれ名乗ってくれた。


「もしかして、おたくらキャッツなんとかって国のお嬢?」


 うっ……お嬢ではないのだが。


「カナ様は公爵令嬢です。しかし、最近まで出生の秘密に気付かれず、庶民として暮らしておられました」


 レイナが代わりに答えてくれる。


「ふぅーん。お偉いさんの隠し子ってこと?」


「まぁ……そうなりますわ」


 レイナは庶民のノリに戸惑いながら、そう答えた。


「あなた達は貴族ではないよね? 魔力って貴族しかないって聞いたことがあるんだけど」


 お嬢言葉はやめて(お嬢言葉として成立していたのかは謎だけど)普通に話してみることに。


 少しでも仲良くなって、この子達の持つ能力を知りたい。


「平民にもあるのよ、実は。この国は12歳になると鑑定師が全国回って魔力のある子供を調べるからね。うちらは全員庶民よ、庶民」


 答えてくれたのはシェリー。部屋入んなよ、と促してくれる、アネゴ系な女の子。


 さっき「取ってねーし」って言ってたのがこの子ね。お口が悪いけどいい子だと思う。


 若干人見知りな私ではあるが、思い切って中に入ってみた。


 彼女達が滞在している部屋は、服や化粧品が散在していて、女子校のようなだらしなくも汚い雰囲気。レイナの顔が引きつりっぱなしだ。


「明日は何をするの? 瘴気を払って、結界を張り替えるって聞いたけど」


 するとサリが可愛い甘えたような声で答えてくれた。


「そのままのとおりよ。でも瘴気を払うと言っても、払った振りしているようなものなんだけど。少し気休めになる程度なの」


 この子が「夫人に怒られる」って言った子ね。比較的おとなしそうな子だ。


「ねぇ、あんた達さ、最後に馬車で来た人たちでしょ? 馬車近くで馬に乗ってた赤髪のイケメンいたけど、アレも貴族? 独身? 名前なんていうの?」


 これはマリア。ブロンドの長い髪が女の子らしさを演出しているのに、口を開くと台無し。


 かなりの肉食女子と見た。この子が「パンツがなくなった」子ね。


 レイナのこめかみがヒクッと震えている。警戒心マックスになってるし。男の趣味が被ると女同士はロクなことにならない。


「あの人は貴族で、独身だけど彼女もち。名前はビスターって言うのよ」


 彼女もち……近々そうなるでしょ。


「やっぱあのクラスのイケメン貴族が売れ残ってるわけないかぁ。でも単なる彼女で独身ならまだチャンスあったり……」


「ないです! チャンス全然ないです! もうじき婚約しますから! あ、カナ様の()()()もイケメンです! 公爵令息で彼はフリーです! 彼女大募集中ですっ! 名前はキースっていうんですよ! 覚えましたね!?」


 レイナの強引の割り込みで売られるキース。でもキースもこのくらい肉食のほうがお似合いかも。



 結局この日は、どうなって結界を張るのかという話もなく、レイナのキース推しの話で終わってしまった。

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