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結界強化研修①

 この世界にも雑誌というものは少数ながら存在しているようだ。


 私がいた世界ほど印刷技術が発展していないのか部数は限られるみたいだけど、若者向けの雑誌でファッション雑誌的なもの。


 しかも写真付き。この世界にもカメラという存在はあるみたい。魔道具で作った高価なもので、庶民には普及していないようだけど。


「レイナ、どれがいいと思う?」


「うーん、、殿下って顔でごまかしてますが、服にこだわり全然ないですし、基本ダサいんですよね」


「そうなの!?」


「公務ではメイドが用意したものそのまま着てますし、プライベートでは安物適当に着てますよ。あんまりファッションにこだわりない方かなぁと思うんですよ」


 ベッドでごろごろとしながら、レイナと一緒に雑誌をめくる。


 今年のイケてる男子ファッションなるものを見て、私の手持ち金額と見比べる。


「このネックレスよくない? あーでも、50,000ルピカするじゃない! もう! 37,830ルピカじゃ足りないぃぃ」


「でも殿下ってネックレス付ける習慣ありましたっけ?」


「さぁ……あんまり興味ないから見てないね」


 私たちは雑誌に夢中で黒猫が入ってきたことに気付かなかった。


 そう、この公邸。すべての部屋に猫用出入り口が装着されて、どの部屋でも猫の出入りが自由自在なのだ。


「プライベートな服が安物で悪かったな。お守り程度のネックレスなら付けてるよ。属性が上がるやつ」


 憮然とした声に、私とレイナはおそるおそる振り返った。


 いつもより毛並みがボロボロの黒猫が不機嫌そうな目をして私たちを見上げている。


「あら! 殿下! ご自慢の毛並みが……!」


「うるせぇ! 俺はお前らが平和に暮らしていけるように、文字通り身を削って頑張ってるんだ。なのにお前らときたら……ッ」


 ぶんぶん尻尾を振りまわして、ピョンとベッドに乗った。レイナが撫でようとすると「シャーッ!」と威嚇する。なんだかとっても機嫌が悪そうだ。


「そんなことないですよぉ、みんな殿下には感謝してるんですよ~。そんなに拗ねないで、ほら、殿下の毛並みはキャッツランドの宝なんですから」


 レイナが宥めながらブラシで黒猫の毛を撫でる。猫は相変わらず尻尾を振りまわす。


「どうせ顔だけが取り柄のダサい俺なんか誰も興味ないんだもんな。わかってたけどよ。そんなこととーっくの昔に知ってたことだけどな!」


「そんなことないですよぉ。みんな殿下に興味深々ですって」


「お前は特にビス以外に興味ねーじゃんか」


「そ……そんなこと……」


 ビスのことがほわんと頭に浮かんだのか、黒猫のブラッシングが雑になってる。


 黒猫はレイナを軽く猫パンチし、レイナと私と向かい合わせで座った。


「それはいいとして。カナ、レイナ。明日はルーシブルの辺境、サザンへ向かうぞ」


 レイナと顔を見合わせる。はて? サザン?


「瘴気が充満して、サザンの北部は人が住めなくなっている。その辺の瘴気を払い、魔族との結界を強化する。ルーシブルの聖女に同行するんだ」


 そういえば、一番初めに聖女の仕事がなんなのかを聞いた時に、魔を払うって言ってたね。


「ルーシブルにも聖女がいるのね。私、いらなくない?」


 そう言うとラセルは首を振った。


「お前は召喚聖女だ。しかも月の加護を持っている。ルーシブルの聖女より潜在的な力は上だ。それに、結界強化のスキルを身につけるいい機会だ。ルーシブルの準国家機密の技術を提供してくれようとしてるんだ。ありがたく受けるべきだろう」


 浄化、治癒だけでなく、私の能力の新たな可能性を見出したわけね。少しワクワクしてきた。


「よし、わかった。明日はよくわかんないけど頑張ってみる!」


「承知しました、殿下」


 私たちはそれぞれ、承諾の旨をラセルに伝えた。



 この世界に飛ばされてきて、何をすればいいのかわからず、ただニートでいたころとは違う。私には無限の可能性っていうのがあるんだ。



◇◆◇


 辺境伯夫人と会うということではあったが、私もレイナも動きやすい服装で行くことになった。


 パーティーではなく、仕事で行くわけですからね。一応、私のことは公爵令嬢、という公式な身分通りに紹介しているみたい。


 ナルメキアで、キャッツランド政府高官のヒルリモール公爵が現地の女性と関係を持ち……という私も忘れている設定のアレ。


 平民育ちだから言葉遣いがなってなくて~みたいな事前の説明もちゃんと入れてくれたのかな。


「お、お兄様、頬が腫れていてよ。ヒールしてさしあげますわ」


 馬車の中で御令嬢の言葉遣いの練習。さすがに()()()もその不細工な顔で人前に出るわけにはいかないでしょ。


「カナのお嬢言葉、棒読みで変だね」


「うるさいですわ。仕方ありませんわ」


 私のいた世界ではこんな喋り方すんの、漫画の世界だけだ。もしかしたら、私の知らない上級国民世界ではあるのかもしれないけど。


 馬車には、私とキース、レイナで乗り合わせる。ビスは馬で馬車周りを警護してくれている。

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