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おまけSS:アレクの目覚め③

 アレクは魔力を持っていなかったため、これまでは魔術の授業がない平民の学校へと通っていた。もう通う必要もないほど学力はあったが、友達もいるから、と、アレクはそのまま学校へと通った。


 そんなアレクも今年でジュニアアカデミーを卒業する。来年はアカデミーへと進学をさせようかと思っていたのだが。


「父上、俺、学校行かずに働きますよ」


 アレクは進学の話に断わりを入れてくる。


「俺、前世では魔術師団の副師団長だったんです。今さら学校通っても意味ないじゃないですか。上級魔術師のライセンスも取ったし、もう魔術師団で働けます」


「いやいや、まだ15歳じゃんか。もっと遊んだ方がいいって。可愛い女の子との出会いだってあるしさ。友達もできるじゃん」


「そんなチャラチャラした理由で進学するなんてお金が勿体ないですよ。俺、魔道具師のライセンスも取ろうと思ってるんです。いろんな魔道具作りたいし、そっちの方が学校行くより楽しそうだし」


 サイラン・アークレイは魔術ヲタクである。そのヲタクの記憶を見事に引き継いでしまい、アレクも休日は一日中図書館に籠っていることが多くなった。


 でも、せっかくイケメン王子に転生したのに勿体ない。アレクにはもっとキラキラとした青春を送ってほしいのだ。


「ほら、カグヤのミカヅキ総合アカデミーからも、魔術専門アカデミーからも勧誘の手紙来てるぞ。魔術専門の方は特待生だってさ。金はかからないぞ。それに外国を見るのもいいもんだって」


 ぐいぐいと手紙を押しつけても、アレクは渋い顔だった。


「これもいいんじゃないかな。ヒイラギ皇立学園高等部。ケネトも通ってるし。それにヒイラギ皇国の皇都マテオは、先輩の故郷じゃないか。お墓参りとか」


「前世の親のお墓なんて知らないし。あー、でも。シンシアのお墓参りは行きたいかな」


 シンシア、はサイラン・アークレイの想い人である。彼女が早世してしまい、残念ながら結ばれることはなかったようだが。


「お墓参り行けばいいじゃないか!」


 ガッとアレクの肩を掴むと、少し迷うような様子だ。


「でも、お墓参りのために留学費用払うのバカバカしくないですか? それなら移動魔方陣ですぐ行けるし」


 アレクはつれなくそう言って、ウキウキとした様子で図書館へと向かって行った。



◇◆◇



「うーん……どうやって説得しよう」


 ベッドの上で愛しの王妃・カナといちゃいちゃしながら悩みを相談する。


「別にアレクが行きたくないなら別にいいじゃないの。あの子は図書館に籠ってるのが一番幸せなんだから」


 カナはクールにそう返す。


「そんなヲタクな青春じゃなくて、もっとキラキラした青春をだな」


「なにそれ。あんたヲタク馬鹿にしてんの?」


 カナはどちらかといえばヲタクである。失敗したと思った時に窓がコンコンと叩かれる。嫌な予感しかしない。


 シャム猫がそこにいた。


 窓の猫用出入り口から入ってこようとするのを摘んで放り投げる。


「お前、三階から猫投げるのは虐待だぞ」


 シャム猫の正体はラセルの父――前国王である。飛行魔術でふわふわと浮いている。


「あんたは猫ではない。窓から無断で入ってくるのは侵入者だ。罪人だ」


「俺の事は王宮にいる猫と同じだと思え。あ、お久しぶりです、王妃様~」


 シャム猫はカナにそう声をかけ、ラセルの隙をついて部屋に侵入した。


「ラセル、お前にいいことを教えてやろうと思って、はるばるミクロスから来てやったのだ」


 父は現在、ミクロス王国の近衛騎士団の騎士団長をしている。キャッツランド王族であることを巧みに隠し、騎士団でヘラヘラと余生を過ごしているのだ。それもまた腹が立つ。騎士団長はラセルの夢なのに、と嫉妬もする。


「それならば、ミクロス王国にクレームの手紙を書こう」


「馬鹿! クビになったらどーするんだよ!?」


 父はラセルに国王を譲った後、止まっていた時間が動き出した。今は立派なアラフィフ男子として成長している。実年齢は既に80歳を超えているのだが。


「そんなことよりラセル。俺の特殊能力、気まぐれな予知夢レイヴィスプリコグニティブドリームは衰えてないぜ。いい夢をみたんだ。それを教えてやろうと思ってな」


 そう言われると追い返せない。もしかすると重要なことかもしれない、とラセルは身構える。


「王妃様~、なでなでして」


 シャム猫はカナにすりすりとしている。カナは渋い顔でシャム猫を撫でた。


「お前の次男坊だけど、ヒイラギ皇立学園に進学させた方がいいぜ。そこにはね、なんと。前世の恋人がいるのだよ! あの次男坊は、その娘と恋に落ちるのだ! それで生まれてくる娘は――、あ、ここまで言うと面白くないか」


 ご機嫌な様子で父はお告げを述べる。


「次男坊には、これも外交の一環とでも伝えておけよ。お勤めの一つだと言っておけばいい。彼は王子だ。その意味もわかるだろう」


 父は上機嫌で窓から帰って行った。



 アレクには父の言うとおり、外交の一環であり、王族としての義務と伝え、ほぼ無理やりの形でヒイラギ皇立学園へと入学させた。


 そしてもうすぐ一年が経つ頃に手紙が届いた。



『父上、シンシアに逢えたよ』と――。


【完】



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