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黒猫の世界征服

 黒猫丸を筆頭に、各軍艦が港へゆっくりと入っていく。港には大勢の人が詰めかけていて、ラセルが手を振ると怒涛のような歓声があがる。


「ふふ、兄上の人気ってすごいでしょ? 嫌われものなんて嘘だってわかりますよね?」


 シリルがニッコリと笑って、拡声器をラセルに手渡した。


 ラセルは国王陛下の演技に入り始めた。もったいぶった仕草で拡声器を手にする。


「ここに集まってくれてありがとう。私が第61代国王に就任したラセル・ブレイヴ・キャッツランドだ」


 一気に観客のボルテージが上がる。ものすごい歓声だ。


 ラセルは私を引きよせて紹介し始める。


「そして、私はヒルリモール公爵家から妻を迎えた。この妻は聖なる力を持っている女神だ。キャッツランドをより栄光へ導いてくれるだろう!」


――とりあえず、手を振っておいて。


 そう思念で言われたので、私はやや引き攣りながら手を振ってみる。どうも私は彼のように俳優にはなれないようだ。緊張する……。


 そんな私でも観客は歓迎してくれたようで、ものすごい歓声で応えてくれる。


「私はこの最愛の妻と、片腕のシリル王弟と共に、国民が幸せになれるような国を造りあげたいと思っている。みんな、ついてきてほしい!」


 ラセルはカリスマ為政者らしい、力強いスピーチを終えた。


 国民の歓迎ムードに圧倒されつつ、私達は用意された馬に乗った。


 王宮までは近衛騎士と第七騎士団、そして魔術師団に護衛されながら騎馬で向かう。


 私はいつものようにラセルと同乗しながら向かうことに。沿道にはたくさんの人が詰めかけている。南国のキャッツランドは常夏の気温で、歩いてる人達もみんな解放的なファッションをしている。


 豊かでいい国なんだと思う。たくさんの猫もいて、馬の行く先々を寝転がっている猫が邪魔をしてくる。


 それを警備兵達がそっと抱き上げて道の端に寄せている。猫は大切に保護される存在で、地域猫として優雅に暮らしているそうだ。


「王宮にも猫がいるよ。俺は猫ともコミュニケーションが取れるんだ」


「そりゃ、あなたも猫だもんね」


 猫はフリーパスで王宮やあらゆる場所へ入ることができるそうだ。その分掃除も大変だけど、猫は信仰対象なので人々も苦にならないようだ。


「実は……カナも猫になれるんだよ」


「えっ……えぇぇぇっ!?」


「王妃の刻印が着いただろ? それでキャッツランド王族の神力がカナに移った。猫同士の交配により、新たな猫人間が生まれる。これは王弟妃も同じで、だから国王と王弟の子供だけは猫になれるんだ」


 猫同士の……交配…………。


「つまり、普通の夜の生活では国王や王弟の子供は誕生しないんだ。猫にならないと……いてぇっ! カナ、暴れないで」


「猫同士の交配って……えぇっ!? 私は王子10人産むとしたら10回猫で、黒猫のあなたと交配しないといけないの!? そんなの聞いてませんけどー!」


 


◇◆◇




 猫になるのは実は簡単だった。猫になるぞって思うだけで猫になれたのだ。


 鏡に映る私はハチワレの模様で、黒猫のラセルが「ハチワレは末広がりで縁起がいいな」と喜んでいる。


 そんな時ドアがノックされたので、慌てて私は人間の姿になった。ラセルはなぜか黒猫のままだけど。


 入ってきたのは栗色の長髪の髪をゆるく結んだ、優しそうな人だった。そして、そっと黒猫を抱き上げる。


「おかえり、ラセル。そして、初めましてだね、カナ。私がキースの兄のウィル・ヒルリモールです」


 ラセルが甘えるようにスリスリしながらウィルお兄様の紹介をし始める。


「この人がヒルリモール家の当主だよ。キースの兄貴で、俺もずっと『おにぃ』って呼んで兄のように慕ってるんだ。おにぃはずっと宰相補佐官をしていたんだけど、いい機会だし、宰相として俺の治世を支えてもらうことにした。別に今の宰相のままでもいいけどさー、あの人ももう50過ぎじゃん? そろそろゆっくりしてもいいんじゃね? って思ってさ。私怨じゃないからな!」


「は、初めまして。カナ……です。弟さんには大変お世話になってます。あと、本当にごめんなさい。勝手に隠し子設定にしちゃって」


 慌てて自己紹介をする。戸籍上はこの人の妹ってことになるんだよね。


「いいんだよ。むしろヒルリモール家から王妃誕生なんてめでたいことで、父も母も喜んでいるんだ。隠し子はラセルが考えた嘘だと母もわかっているから。母はラセルに甘いから全然怒ってないよ。気軽にヒルリモール家に遊びにきてね」


 親しみやすい、いかにもキースのお兄様って感じの人だ。そしてまたドアがノックされて、今度は弟が入ってくる。


「じゃあ、黒猫の国王様。新しい宰相も決まって、カグヤの王太子も来ているし、今後のことを話し合いましょ」


 キースは正式にラセルの秘書官となった。ラセルは黒猫から人の姿に戻り、私にもついてくるように言った。


 国王の執務室には、シリルとルナキシア殿下が待っていた。



「さて、今日から新生キャッツランドだ! 楽しい国にしていくからな。でも、俺はうちの国だけが栄えればいいとは思ってないんだ。世界中の人々が明日の生活に怯えることなく、楽しく平和に暮らしていけたらいいなって思ってるんだ」


「世界中……スケールが大きいね」


 そう呟くと、シリルがきらりと目を光らせて、話を引き継いだ。


「そのためには世界秩序を乱す国は排除する。これから話すプロジェクトは、数年単位の時間を要することになります。そしてプロジェクト成功のカギを握るのは、義姉上です」 

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