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魔獣からの断罪! サイランside

「けど、先輩は助けられないな。フランツや二人組と違って主犯だし。むしろルーカスよりも主導権を握っていたから罪は超重い。それにここはカグヤだ。俺の国じゃないから、俺の好き勝手はできない」


 それを聞いてサイランは、ホッと溜息を吐いた。もうギロチンでよいのだ。生きていたくはない。


「助けてくれなんて思ってないから別にいいよ。というより、お前に助けられたくないしな」


「俺がカグヤにどーんって大金を積んで、死んだことにしといてこっそり頂戴、もできなくはない。けど、その金は国民の血税だ。いくら国王でもテロリスト一人と大切な血税を引き換えにはできない」


 わかりきった理屈をこねこねと練る。クソガキ国王は何がしたいのだろうか。


「先輩は罪を償わなければならない。今、俺達がやってることの意味わかるだろ? 俺達は、先輩の故郷を滅ぼそうとしている。従兄殿の怒りが収まりそうにない。火を付けたのは先輩だ。先輩のせいで、罪もないナルメキア人がたくさん死ぬ。その中には、かつての先輩やシンシアのような孤児も含まれる」


 クソガキ国王からの断罪。確かにそうだ。ぐぅの根も出ない正論だ。


「真っ先に犠牲になるのは、弱い庶民だ。シンシアを殺したような役人は命根性が汚い。情報も庶民よりも早く入るし、開戦前に逃げ出すだろう。国王や王太子達もそうだ。あいつらは最後の最後まで守られるし、場合によっては亡命もあり得る。貴方の復讐は全く無意味だ」


「なんで、お前はシンシアのことを知ってるんだ?」


「それは俺が特殊能力で、先輩の記憶を共有させてもらったからだ。言っておくが、特殊能力で泣いたのであって、断じて俺が泣き虫なわけではないッ! 俺は悪党だから泣かないんだ!」


 サイランは眼で、クソガキが泣いているところを何度も目撃しているのだが……。面倒なのでその指摘はやめておこうと思った。


「でも良かった、先輩と共鳴できて。俺はやはり先輩の才と知識をキャッツランドのために活かしたいと改めて思えたからだ。先輩は悪人だけど根っからの悪人じゃない。頑張って可愛がれば可愛い魔術師になってくれるだろう」


 サイランにはクソガキ国王が言っていることの意味が、半分以上理解できなかった。


 記憶の読み取りや共有に優れた魔術師であるクソガキが、サイランの記憶を読んだ、これはわかった。


 お前の罪は重い、お前のせいでたくさんのナルメキアの庶民が死ぬ。だからお前は断頭台で処刑されなければならない、これもわかる。


 しかし、キャッツランドのために才を活かしたいとは意味が不明だ。首だけになった自分で何かするつもりなのだろうか、とサイランは首をかしげる。


 しかしながらクソガキ国王の考えは、斜め上を行くものだった。


「先輩は、明日処刑される。あの世でいったん罪を償った後、キャッツランドの国民に転生するんだ。俺が超禁忌の魔術をかける。記憶が戻ると同時に、能力が開花するだろう。その際、危険がないように天才魔術師の俺がサポートする。だから、俺の近親者の子として生まれるよう調整する」


「…………は?」


 ギロチンされた後、転生? キャッツランドの国民? そしてクソガキの近親者……。


「俺の子か、シリルの子で転生する。俺は国王だから子供は男で確定だけど、シリルの子だったら、性転換転生もできるかもしれない。どっちがいい?」


「…………シリルって誰?」


「俺の弟。ヤバいくらい腹黒いヤツだから、なるべく俺の子になった方がいいぞ。息子でも甥姪でもクソ可愛がるから覚悟しとけよ」


「い、いやだッ! お前の息子か甥なんて死んでもいやだ!」


「なんでだよ。クソクソ可愛がってやるよ。これは決定事項だ。先輩は罪を償った後、キャッツランドの発展のために、その才を活かすんだ」


 するとすたすたと別の足音が聞こえてくる。クソガキの彼女である聖女様だ。


「まったくもう。それって生まれた時から記憶持ってるの? 嫌な赤ちゃんだなぁ」


 気の強そうな美人だ。召喚直後の顔色が悪そうな女、という証言は嘘だろうと思うほど、肌つやが良く、全身から聖なる力が溢れている。


「大丈夫だって。記憶を取り戻すのは成人してからだから。自我が確立した後に記憶が宿る感じね。心配すんなって。絶対に可愛い子にしてみせるから」


 ぼわーん、と薄い煙が出て、クソガキは猫から見慣れたクソガキ姿に変化した。上級魔術師の衣装に杖を持っている。


「けど、カナがOKしてくれて本当に良かったよ。シリルなんてノリノリだったし」


「……私には、『ヒカルゲンジ大作戦』にしか見えないよ。大好きな先輩を子供の頃から養育して、自分好みの子にしようとしてるんでしょ?」


「なにその『ヒカルゲンジ』って?」



 聖女がくどくどとクソガキに説明している。


 ヒカルゲンジとは、聖女様の祖国に伝わる恋愛小説のヤンデレ主人公で、惚れた女の姪を幼女の頃に誘拐し、自分好みの女になるように仕立て上げたというとんでもない男のようだ。


――ヤンデレ……まさにクソガキだ。こいつは病んでいる。俺を道連れに死のうとしたんだからな……!


 恐ろしい男に喧嘩を売ってしまったものだと、サイランは今さらながら激しく後悔をしていた。



「おいおい、誤解を与えるようなことを言うなよ。俺は実の息子に恋愛感情なんて持たねぇよ! 先輩、安心してくれよな!」


――まっったく安心できない。息子になったらこいつにおしめを替えられるのか? 冗談じゃねぇぞ!!

 

 サイランはある意味、処刑よりも『ヒカルゲンジ大作戦』の方が嫌である。


 聖女が杖をクソガキに向け、シルバーピンクのオーラを注ぐ。これでクソガキの『ヒカルゲンジ大作戦』のための魔力を助力するつもりだろう。しかしサイランは全く同意をしていないのだが。


「俺はぜんっぜん同意してないッ! 嫌だって言ってんのにッ! お前に犯されるのは嫌だー!!」


「だから、そんなことはしないって。ちゃんと普通に可愛がるから」


 クソガキは杖をサイランの方へかざした。


「我が神テトネスの我儘の力により、今の輝かしい知識を受け継ぎ、選ばれし者として再び生まれ変わるように。我が魔力を継承し、キャッツランドの未来を切り開く存在となれ。我か我が弟、シリルの血を受け継ぐ者として――メモリアルレナトゥス!」


「――――――ッ!!」


 ものすごい衝撃がサイランを襲い、芋虫のままごろごろと地下牢の壁まで転がされる。



「またな、先輩」


 そう言って、また猫に戻り、クソガキは牢屋から出て行った。

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