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後輩から決闘に誘われる サイランside

 

――まさか、お前から誘ってくるとはな。


 薄暗いダンジョンの中で、サイランはほくそ笑む。


「まず雑魚は、動きを止めてから一斉攻撃魔術を決めたほうがいいと思うんだよ」


「べ、勉強になります」


 サイランの獲物のクソガキ王子は、中級魔術師相手にアドバイスをしている。クソガキも名の知れた魔術師だ。上級魔術師の正装を着ていることから、偽名を使っても正体はバレバレだ。


 サイランも同じく上級魔術師の正装を着ている。これまた正体はバレバレだが、決闘を揉み消す自信がある。クソガキも腐っても王子。その自信があって誘ってきたのだろう。


――さっさとボスを倒してコイツと殺りあいたい。


 負ける気がしない。武者震いを抑え、サイランは手抜きの防御結界を作った。



◇◆◇


 数刻前―――


「アークレイ様、敵もあそこに籠ったままですし、そろそろ海上戦の準備をしませんか?」


 サイランが海賊の拠点があるチクリン島へ向かおうと準備を整えたころ、眼が気になるものを捉えた。


 上級魔術師の正装を着た黒髪の男――またルナキシア配下のコスプレかと思ったが違う。艶やかな黒髪に、澄みきった黒曜石のような瞳。整った顔立ちは、サイランが以前見た時よりも美しさが増していた。


 彼は挑発的な目で、使役鳥を見た。


『ダンジョンまで来いよ』


 クソガキは、思念を飛ばす技術にも優れている。使役鳥を介してサイランにメッセージを送ってきたのだ。


 武者震いとはこのことか。杖を握る手が震える。


「貴方たちは、先に島へ向かい、海賊と合流なさって。わたくしは後で向かいますわ」


 サイランも上級魔術師の正装を着た。これは決闘に挑んでくれた後輩への礼儀でもある。


 女性の姿でもサイランは構わないが、あのクソガキのことだ。女相手では本気が出せないかもしれない。TS変装を解いて、本来の姿で向かうことにした。



◇◆◇



「あんたたち、明らかに手ぇ抜いてたよね! あたしにはわかるんだよ!」


 不満を爆発させた女剣士が、サイランとクソガキを罵倒する。



 ここ、カグヤ最大のダンジョン、タケトリの森は、複数人でパーティーを組んでギルドから許可をもらわないと入れないよう、制限をかけられている。


 魔術師の決闘防止のためだ。


 今回は7層ボス・ワイバーン討伐のパーティーに紛れ込ませてもらった。もちろん、目的はワイバーンよりクソガキなのだから、ワイバーン戦には手を抜かせてもらった。


「あんた達のギルドからの報酬、8割方マイナスさせてもらっていいよね?」


 パーティーリーダーの盾役の男は「まぁまぁ」と女剣士を宥めている。


 そこでクソガキは、結婚詐欺師のような爽やかなスマイルを浮かべ、こう告げた。


「取り分はいらないよ。肉だけもらえればいいや。俺はここに連れてきてもらっただけで感謝してるし。先輩もそうだろ?」


 サイランへ同意を求める。クソガキはサイランを先輩と認知しているようだ。


 ギルドからの報酬は、ギルドの受付でドロップ品を証拠に討伐成功の証として受けとる。


 報酬はパーティーメンバーで均等に割るものだが、クソガキはそれを放棄すると言っているのだ。


 サイランも完全同意だ。報酬はクソガキの命一つでよい。


「俺も彼と同じく報酬は放棄する。先に帰っていい。俺らとはダンジョン後で仲違いしたとか、適当に報告しておいて」


 本来は全員でギルドへ討伐結果を報告する必要があるのだが、冒険者間では仲間割れが頻繁にある。その決まりも形骸化している。


「は? なんで? あんた達、まさか……」


 女剣士はサイランとクソガキを交互に伺う。制限はかけられているものの、ダンジョン内での決闘を完全に制御することはできない。決闘に挑む魔術師は後を立たない。女剣士はサイラン達の意図に気付いたようだ。


「まぁまぁ、俺達のことは気にしないでいいからさ」


 クソガキはドロップ品を女剣士に手渡す。金で口止めということか。


 サイランもドロップ品を女剣士に手渡した。


「えっ!? もしかしてここで決闘ですか? 見てちゃダメですか!?」


 中級魔術師が目を輝かせる。上級魔術師の決闘というビッグイベントに興奮しているのだろう。


「悪いけど遠慮してもらおうか」


 サイランが睨みつけ、中級魔術師を追い払う。なんとかパーティー達と円満に別れることができた。



「さて、改めて自己紹介必要? アークレイ先輩」


「不要だ。お前のプロフィールは頭に入っている。しかし目の前で見ると、いかにもクソガキだ。クソガキ以外に言葉がない」


 クソガキは悲しそうな表情で俯いた。


「俺……貴方に憧れてたんだ。学生時代はずっと影から眺めてたりして。だから貴方にあそこまで嫌われてるって知ってショックだった。俺の何がダメだったのかな」


 いきなり愛の告白である。陰からこそこそと眺めてるとか、なかなか乙女なクソガキだ。


「悪いな。好かれて当然、みたいな押しつけがましい性格と、生意気そうな顔が嫌いなんだ」


 可哀想だが全否定である。案の定クソガキは泣きそうになっている。


 クソガキと出会った人間は、十人中九人がクソガキをいい人と評し、好感を持つだろう。サイランが例外の一人だったということ。


 クソガキは悲壮な顔でこう告げてきた。


「初めに言っておく。俺は生きてこのダンジョンを出るつもりはない。そして貴方も生きて帰さない」


 相討ち作戦ということか。そうでないと勝機がないのだろう。


 しかしそう甘くはない。絶対にサイランは生きてここを出て、聖女奪還を遂げると決意しているのだから――。

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