ヒロインと攻略対象
無事、魔導学院の入学が決まった。
宿屋に戻り、両親にそう報告すると、両親は諸手を上げて喜んでくれた。
お父様なんて私よりも滝のように涙を流してよかったなぁ、よかったなぁってずっと言ってくれた。
途中から感極まりすぎてお母様になだめられたりもしてたけど。
何はともあれ無事入学が決まったのだ。
入学は1ヶ月後。
その前に一度ゲームの内容を復習しておいたほうがいいだろう。
そう思って、私は宿屋の個室でゲームの内容を書き留めたノートを開いた。
実は、記憶が戻ってすぐに覚えていることを片っ端からノートに書き留めておいたのだ。
なんせ受験勉強なんてやっていると他のことを忘れてしまいそうだったものだから、記憶ができるだけ新鮮なうちに大事なことから些細なことまで全部書いた。
まずは魔導学院について
魔導学院は全寮制で、生徒は特別な事情がない限り身分に関係なく寮で暮らしている。
だから先に入学してたアイラもカリオン殿下も寮で生活しているはずだ。
部屋は一人一部屋で、基本的に執事や従者を連れて行くことはできない。メイドも同じだ。
夏と春の年に2回は長期休暇があり、その期間には実家に帰省することもできる。実家が流道国内であれば毎回帰省している人もいるらしいが、遠いとほとんど帰省しない人もいるそうだ。
また魔導学院には計12学科あるが、そのうち「魔導科」「騎士科」「魔導騎士科」「魔導工学科」「総合科」の5学科の生徒はランダムにクラスが割り振られ、5学科の生徒が混在した1クラスおよそ80人程度のクラスが複数作られる。残りの7学科でも同様らしい。
この生徒のクラス分けの方法については本当にランダムらしく、優秀な生徒ばかりが集まったクラスができることもあれば、種族も個性も能力もてんでバラバラの人たちが集まったクラスが出来上がることもあるらしい。というのも、クラスそのものには大した意味はないからだ。
クラス全体で行うような行事ごとなどはなく、イベントは基本的にグループやチームで行う。また授業は選択式のため同じ学科でさえ同じ授業を履修するとは限らない。したがってクラスはただの交流の場のような位置づけになっている。まあもちろん交流の場としての役割はあるのだから重要といえば重要なのかもしれないが、そこは運も実力の内ということなのかもしれない。
一方でチームやグループは非常に重要になってくる。というのも魔導学院では課外学習や魔導大会などが行われるが、これらはすべてチームまたはグループで取り組むことになるからだ。
チームは同学年5人のメンバーで1チームを結成する。またこれらのチームが1〜4年生までそれぞれ1チームずつ集まって、計4チームで1グループを結成する。このときのメンバーについては特に規制はないため誰と組んでも良い。
ただし必ずしも成績優秀者と組めば有利になるとは限らない。
成績によってはイベントごとでは厳しいハンデがつくこともあるため、とにかく優秀な人同士が組めば良いというものでもないのだそうだ。
そして私はもちろん、アイラ一点狙いだ。
授業でもイベントでもチームでの活動は必然的に多くなる。バッドエンドを回避するのであれば同じチームになるのは必要不可欠だ。
決してアイラが入学試験1位だからチームを組みたいとかそんな不純な動機では決してない。
たぶん。おそらく。きっと。
他には誰とチームを組めば良いだろうか。
攻略対象キャラで固めるのもありかもしれないけど、優秀な人が多いから人気が高いかもしれない。
そんなことを考えていると、ふっとはにかんだような優しい笑顔が浮かんできたけど、その気持ちにはそっと蓋をして見なかったことにした。
(狙うはアイラ一人のみ!!!)
それ以外は追々考えればいいだろう。
さて、それでは次に攻略対象キャラについて
攻略対象キャラは女性5人(アイラ含む)、男性5人。
まず1人目は狐族のイル・キュー・スウェン
狐族とはその名の通り狐のような耳と尻尾を持つ一族で、嗅覚と聴覚に優れている。魔力はそれほど多くないものの、魔導理論に精通した一族で、昨今人気が高まっている魔導工学に関する著名人も多数排出している一族だ。なんでも秘伝の魔術があるとかないとか。
イル・キュー・スウェンはアカギツネの獣人で、狐族の族長の一人娘かつ族長候補の最有力者らしい。橙色の波打つ豊かな髪と黒曜石のような瞳、ふっくらとした艶のある唇をもつ妖艶な美人だ。
入学試験に関しては1000人中400位と中の上ぐらいの成績だったが、魔導工学に関してはピカイチだ。ただそれ以外は微妙らしい。
ちなみに1000人というのは魔導科、騎士科、魔導騎士科、魔導工学科、総合科の5学科合わせた合格者数だ。
2人目は兎族のシェラ・ラビ・ハウェイ
兎族は大きな耳と丸い尻尾を持つ一族で、特に聴覚と瞬発力に長けている。嗅覚も人間よりはいいらしいが、狐族や牙狼族に比べればそれほどでもないそうだ。
シェラ・ラビ・ハウェイは肩までの長さのふわふわのストロベリーブロンドとクリッとした大きな黒い瞳を持ち、真っ白で大きな耳でよく周りを警戒している。小動物系のかわいい女の子だ。
ちょっと天然気質なきらいがあり、よく忘れ物をしたり何もないところでずっこけたりする。
入学試験は1000人中997位だった。
3人目はエルフ族のグレイス・イルニア
エルフ族は未だ謎の多い一族で、どこに国があるのかは正確にわかっていない。魔力が多く魔導に優れており、現在の魔導工学の発展もエルフの尽力の賜物だと言っても過言ではない。エルフ族は白色系の色を持つ者が多く、尖った耳が特徴的だ。比較的長身でスラッとした美形が多いため結婚したい種族ランキング No.1 らしい。誰がそんなランキングを作ったのかは知らないが。
グレイス・イルニアも例にもれず淡い金髪と光の加減によりシルバーからターコイズブルーに光る神秘的な瞳を持つクール系美人で、魔導に関する分野では右に出るものはいないと言われている。
入学試験では1000人中103位だった。
ゲームの公式裏設定では魔導に関する筆記と分野は2位のカリオン殿下を上回るどの高得点だったのだが、時事や経済といった社会科問題と身体能力が必要な実技科目が壊滅的だったため、103位に収まったのだとか。
4人目はヒロインことアイラ・フォン・ランカスタ―
牙狼族の父とエルフ族と人間のハーフである母の間に生まれ、狼のような尻尾もエルフのような耳も持たない人族に近い外見をしている。1つ上と2つ上にそれぞれ兄がおり、一つ上の兄は義兄のためエルフ族の血は混じっていない。2つ上の兄は実兄で同じような人に近い容姿をしているそうだ。
牙狼族の嗅覚・聴覚・身体能力とエルフ族の魔力を併せ持ち、このゲーム一の天才児と言われている。
牙狼族は獣連合国の中でも主要5ケ族と言われるほど大きな一族であり、寮で生活する前は両親とともに牙狼族の里に住んでいたそうだ。
白銀色の髪に赤い瞳、白い肌を持つクール系美人で、その外見とは裏腹に、穏やかでよく笑うキャラである。
入学試験は言わずもがなのダントツ1位だった。
そして5人目は私ことローズマリー・ライガード
聖王国の侯爵家に生まれ、一途な反面、嫉妬深いツンデレキャラ。ワインレッドの髪にバイオレットの瞳を持つ少しつり目なキツめ系美人で、口調も少し高圧的。嫉妬深いこととツンデレ、高圧的な口調はしないように現在努力中だ。
学問や実技等よりも、実は刺繍やピアノが好きなインドア派。
6人目はカリオン・リーキンダム殿下
聖王国の皇太子であり、金髪碧眼の貴公子然としたキャラだ。ハキハキとした口調で誰にでも分け隔てなく接するが、好きな人には奥手な一面を見せる。
公式裏設定では、自分の好意が権力の押し付けになていないかすごく気にしていたらしい。
入学試験は1500点超えで2位という間違いない天才だが、アイラの影響で凄さが少し薄れてしまっている。本来なら数十年に一人の逸材と呼ばれるほどの天才だ。
7人目はウィークル・シストアス
聖王国の家庭で生まれ、かつてよわい10歳で難解な聖王国の古代語をマスターした神童として有名だった。サーモンピンクのくせっ毛にパールパープルの瞳を持ち、少し小柄なかわいい系男子。
実は年齢は1コ下だが飛び級制度で入学したらしい。
入学試験は1000人中82位。頭はいいが実技がからきしダメだったらしい。それでも82位はすごいけど。
8人目は猛禽族のシェン・イグ・スィン
鷲族は獣人族の中でも数少ない飛行できる一族で、鷲のような足と尾羽、手には風切羽がついている。と言っても羽ばたくだけで飛行できるほどの大きさではないため、魔法と併用することで飛んでいるのだとか。ちなみに鷲族以外でも魔法を使えば飛ぶことはできるが、あまりにも魔力消費が大きすぎるため魔力量の多いエルフ族でさえ数秒しか飛んでいられないらしい。鷲族であれば十数時間飛び続けることができるのだ。また視力、握力に優れ、細身の人が多いという特徴がある。
シェン・イグ・リベはゴマバラワシの獣人で、切れ長の目は黄色い虹彩に黒い瞳孔の切れ長の目と真っ黒な髪、色黒の肌を持ち、いつもだるそうな雰囲気を醸し出している。
羽が引っかからないように作られたゆったりとした民族衣装を好んで着用し、学院でも民族衣装を来ているため、非常に目立つ存在だ。ちなみに猛禽族の民族衣装は学院公認である。
入学試験はカリオン・リーキンダム殿下に次ぐ3位という好成績だった。
9人目はエルフ族のアーク・ミドラム
旅好きなエルフ族の異端児だ。外の世界に憧れて10歳のときに森樹国から出奔し、世界を旅して周っていたらしい。
魔導や学問よりも剣術や体術といった格闘系が得意で、現在冒険者としても活動している。年に2回ほど家族から帰ってこいと伝書鳩が届いているらしいが、一度も返信していないとか。
ファイアーレッドの短い髪とモスグリーンの瞳を持ち、からからとよく笑う笑顔が印象的な好青年だ。
入学試験は1000人中761位。なんと私のひとつ上だった。
そして最後は牙狼族のテッラ・フォン・ランカスター
アイラ・フォン・ランカスターの1つ年上の義兄にあたる。アイラの従兄弟だったが、叔母夫婦が不幸な事故でなくなったためランカスター家に引き取られた。
白銀色の耳と尻尾を持ち、長い髪を横でまとめている。牙狼族の中でも人一倍目が悪いため眼鏡をかけた爽やか系イケメンキャラ。普段は温厚な話し方をするが、話し合いだけでは手に負えない場合には武力行使辞さない構えだ。
狼だからか番に対する執着は攻略対象キャラの中でも随一で、ローズマリ―に次いで悪役になりやすいキャラでもある。一時期ファンの間でどSキャラじゃないか疑惑が立ったこともある。
昨年の入学試験では1403点で992人中1位だったらしい。恐るべしランカスター兄弟……
とまあ攻略対象キャラはこんな感じだ。
問題はアイラが誰を好きになるかだ。
実は私がゲームのアイラルートで攻略したことのあるのはカリオン殿下だけだ。なぜかというとカリオン殿下が一番攻略しやすかったから。
アイラルートで問題になるのは親密度を上げることではなく悲惨なルートをいかに回避するかだ。その点カリオン殿下は強さ・賢さ・権力と3拍子揃ったある意味チートキャラ。そのためルート回避がその他のキャラに比べてやりやすかったのだ。
つまりカリオン殿下攻略ルートであれば助力できるが、その他のキャラのルートになると私の記憶はあまり役に立たなくなるかもしれない。
(――ここがゲームとたまたま似てるだけの世界だったらいいのに)
しかし今までの出来事がある程度ゲームどおりに起こっていることを鑑みれば、最悪の自体に備えて何らかの因果関係があると考えておくべきだろう。
じーっとノートとにらめっこしてみても何も妙案は思いつかず、ローズマリーはバサリとベッドに倒れ込んだ。
バッドエンドのストーリーが頭の中でぐるぐると周り、だんだん気分が落ち込んでくる。
(どうしようどうしようどうしよう)
疲れた頭は考えることすら放棄し始めて、意識はゆっくりと夢の中に吸い込まれていった。
そうしてあっという間に月日は流れ、
ついに、物語は回り始める。