プロローグ
かの有名な魔導学院初等学院合格発表の日。
1位 アイラ・フォン・ランカスター 聖属性 998点 743点 1741点
2位 カリオン・リーキンダム 火属性 701点 833点 1534点
3位 シェン・イグ・スィン 土属性 728点 752点 1480点
︙
(カリオン殿下1500点超え!すごい)
そう思うと同時に、頭をガツンと殴られたような衝撃が来た。
”アイラ・フォン・ランカスター 聖属性”
その名前を見たとたん、どっと膨大な記憶が流れ込んできた。
見に覚えのなかったはずのものが、懐かしさと嬉しさと恐ろしさを伴って頭の中でぐるぐると渦巻く。
車窓から見える街の風景、ラジオから流れる大好きな曲、芳香剤きつめの車の匂い、
そして
何よりもハマっていた乙女ゲーム
(ああ、これは――)
おそろしい事実に気がついた途端、ふっと意識が遠のいた。
(なぜよりによって君愛の世界に来てしまったんだろう)
薄れゆく意識の中で誰かの悲鳴を聞きながら、ローズは深い深い闇のそこに吸い込まれていった。
***
「永久の愛を君に」
略して「君愛」
私が前世で一番好きだった乙女ゲームだ。それほど爆発的な人気を誇ったわけではないが、一部に熱狂的なファンをもち、発売から5年経っても根強い人気を誇っていた。
コンセプトは「誰でも自由に恋愛を」
そのコンセプトの通り、他のゲームの追随を許さないほど攻略対象キャラが多く、様々な恋愛が楽しめると話題だった。メインの攻略対象キャラは10人、隠しキャラはさらにいる。私がしていた当時でさえ未だに見つかっていない隠しキャラがいるのではないかとも言われているぐらいだった。
またスチルも非常に綺麗だったことも人気の理由の一つだった。
このゲームには3つの種族と4つの国がある。
まずはじめの種族は人族だ。最も人数が多く、魔道具作りや建築など、もの作りが得意な人が多い。
4カ国の中で最も広大な領土を持ち、大陸の南西に位置する聖王国には主に人族が住んでいる。ただし王国といっても身分による差別などはもう殆どない。昔はそれこそ王侯貴族が権力を独占していたらしいが、およそ500年ほど前にエルフ族や獣連合王国と和平を結んでからは絶対王政とか中央集権制みたいな制度は廃れつつある。そのため王侯貴族といっても日本の政治家みたいな立ち位置だ。一応次期王は直系の男児から選ばれるが、時には他家や平民から次期王が選ばれることもある。実際にここ500年ほどで2回ほど王家が変わっているらしい。
2つ目の種族は獣人族。
名前の通り人間と他の生物の特徴を併せ持ち、他種族に比べて総じて身体能力が高い傾向にある。
一概に獣人族と言っても竜人族や魚人族など様々な一族が存在しているが、総じて番を一途に愛するという特徴を持ち、若い娘たちからは人気が高い。
大陸の東部にはそれぞれの一族が住まう里が点々と存在し、それらが合わさって獣連合国を形成している。そのため年に数回一族のおさが集まって議会を開き、国の方針を決めている。
3つ目の種族はエルフ族。
森とともに生き風とともに住むというかの種族は、最も人数が少なく他種族との交流も少ない。全く交流がないわけではないが、謎が多く、エルフが住まうという森樹国がどこにあるのかも定かではない。
ただ大陸の北側のどこかにあるだろうということがわかるのみだ。
エルフ族は耳が長く魔力量が多いという特徴を持つ。また美形が多いらしいとの噂もある。
そしてこれら3つの種族が混在して暮らすのが大陸の中央にある大国流道国である。
この国の首都ボゥグルは交易都市として知られ、聖王国、獣連合国、森樹国の3つの国の物流の要となっている。この都市には各国から様々な商人が集い、一年中活気で溢れている。
私は聖王国のライガード侯爵家の長女ローズマリー・ライガードとして生を受けた。
両親にはなかなか子供ができなかったらしく、初めてできた娘にそれはそれは大喜びだったらしい。欲しいものは何でも買い与えられ、蝶よ花よと育てられた。と言ってもこの世界、性別に関係なく優秀なものほどよいという風潮のため、魔法や剣術、座学などに関してはしっかりと教育されたが。
なにはともあれ侯爵家という恵まれた環境で大切にされて育った私は、優秀なものの、挫折を知らない子供にありがちな自尊心と傲慢さをも育んでしまった。
一般的にこの世界では、10歳〜19歳の子どもたちはそれぞれ3年ずつの初等・中等学院と4年制の高等学院に通う。
地域の学院であれば入学試験のないところもあるが、有名な学院であれば初等・中等・高等学院でそれぞれ個別に入学試験があり、入学するためにはその試験をパスしなければならない。優秀者であれば飛び級することもでき、問題行動のある生徒や成績不振の生徒には停学や休学、留年などの処置がくだされることもある。また年齢はあくまで目安程度であり、年長者であっても入学することもできる。そのため年齢による上下関係は少なく基本的には能力のあるものが優遇される。
聖王国の貴族の中には初等学院には通わず中等学院や高等学院から通う者もいるが、私は自分が優秀であると自負していたため入学試験ぐらい問題ないだろうと思っていたし、なんならかの有名な魔導学院の主席入学さえ可能だと慢心していた。
魔導学院とは流道国にある世界有数の教育機関である。
唯一「魔導」の名をそのまま冠することができる学院であり、「魔導科」はもちろん、「騎士科」や「魔導騎士科」、「建築科」、「美術科」など計12個の学科がある。入学希望者は各国から集まり、毎年倍率は数千倍にまで登るのだとか。
しかしこの学院を出れば出世街道間違いなしとも言われており、この学院を卒業することが貴族の子息子女の間では一種のステータスのようなものになっている。
だから両親に魔導学院の入学試験を受けたいとお願いしたのだ。両親は少し渋っていたが、「これも社会勉強ね」といって許してくれた。なぜそんなに渋られたのか理解できなかったが、あとから思えば、いくら優秀といえども本当に受かるとは信じきれなかったのだろう。それほど魔導学院の入学とは狭き門だった。
9歳の冬に魔導学院初等部の入学試験を受け、1ヶ月後の現在、結果発表を見に来ていたというわけである。
そして話は冒頭に戻る。