表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

もう怒った

 急接近する小都香に士鏡は話しかける。

「どうしてクナイをナイフのような構えで握っているんだ?」

「刺しやすいからよ」

「跳んで逃げるしかないか」


 士鏡は地面を強く蹴った。

 【靴】の能力の実験にはちょうど良いと思った。

 今なら自分も彼女たちと同じような能力が使えるかもしれないと、そんな気がしていた。

 

 小都香のクナイは空を斬る。

 士鏡の身体は真上に高く跳びあがっていた。

 身長の5倍ほどの高さの上空を漂う。

 実験は成功だった。【靴】は士鏡の期待に応えてくれる。


「逃がさない!」

 士鏡を追うように小都香も跳びあがる。

 小都香はいつの間にか8本ものクナイを両手の指の間に仕込んでいた。

 その表情はかなり好戦的だった。


「まるで可愛い子悪魔のような表情だな」

「私の表情を眺める余裕なんてすぐになくしてやるんだから!」

 小都香は士鏡より2メートルほど下の空中から狙いを定める。

「ハッ」


 掛け声とともに小都香が8本ものクナイを同時に放った。

 クナイを放つ瞬間彼女は悪戯っぽい笑みを士鏡に向ける。

 さあ、どうする? 

 とでも言いたげな挑戦的な笑みだった。


 士鏡は直観に従い、右足を曲げると同時に自分の右膝を胸の方に引き寄せる。

 そして勢いをつけてクナイの飛んでくる方へと右足を蹴り出した。


 直観は正しかった。

 士鏡の身体の真正面のエリアに、靴を起点とするシールド結界が展開された。

「おっ」


 ビリビリビリ。

 半透明の結界に触れてクナイが士鏡の身体の正面で停止していた。


 小都香は無言で丸い愛らしい瞳を大きく見開いている。

 士鏡は整った顔で涼し気に分析する。

「俺はこの【靴】で、こんなことまでできるようになったのか」


 士鏡は自分が【吸血鬼化】しなくても異能力を使えたことが嬉しかった。

 吸血鬼化したら最強。

 吸血鬼化しなくてもそこそこ強い。

 これはいい。気に入った。と士鏡はクールに微笑む


 小都香は頬を少し赤く染める。

「かっこいい、爽やかな笑い方をするのね。でも私、イケメン相手だからって容赦しないから!」

「いいな、そういう女の子の方が好感が持てる」

「上から目線でなんかムカつく!」


「それは悪かった」

「ふんっ。謝っても許さないわよ!」

 小都香はキリッとした知的な表情を見せた。


「シールド、そんな感じね。どうやって破ろうかしら? 何が効果的?」

 小都香は焦る様子も見せず冷静に士鏡の足元を観察する。

 小都香の視線の先を士鏡も眺める。

 蹴りだした士鏡の黒靴を中心に全身を包み込むように半円状の半透明の青い球体が維持されたままだ。

 これがシールドで、8本のクナイはすべてこのシールドとの接点で綺麗に固定されているのも変わらない。


 自分の新しい能力をさらに実験してみようと士鏡は思った。

「思案中のところ悪いが、このクナイは俺の自由にできる気がする」

「わっ、攻撃もできるってこと?」

「いくぞ!」

 士鏡は頭の中で念じてみる。

 クナイ、小都香の着物の(すそ)を狙って飛んでいけ!


 すると8本のクナイは同時に180度回転した。

 そして猛烈な勢いで指示通りに小都香を目掛けて襲い掛かる。

「ちょっとキミ、生意気!」


 能力の時間切れか、重力で自由落下しながら小都香は士鏡を見上げて怒る。

 ふくれっ面をしていた。

 身千以とはまた違う感じの表情豊かな娘だ、などと思う余裕が士鏡にはある。


「もう私怒った」

 小都香は自分の下駄の鼻緒を『藍色』に輝かせた。

 下駄の鼻緒がカラフルな藍色に光る。

 確かこれはヤバいやつだ。と士鏡は思い出す。


「これは――」

 8本のクナイが小都香の着物の(すそ)に綺麗に命中する。

 はずだったが、クナイは着物の裾を通過した。

 すり抜けたクナイが後方の地面に突き刺さる。


「俺の攻撃を防いだようだな」

「ええ」

 小都香は平然としていた。彼女はそのままスタッと地面に着地する。

 士鏡も続いて彼女の正面に着地した。

 高い位置からの落下だったが両足の黒靴が衝撃をすべて吸収してくれた。

 

 小都香は人懐(ひとなつ)っこい笑顔でほほ笑んだ。

「私の身体の真ん中を狙わなかったの? キミ、優しいのね。別に大丈夫よ。私、こうやってすべての物理攻撃を無効化できるから」

「すごいな」


「ちょっと、ふたりとも!」

 慌てた様子の身千以が士鏡と小都香の間に割って入る。

 そして身千以はピシッと告げた。


「物理攻撃は無効化できるけど、小都香の能力は防御向けなのよ。反撃には使えないわ。さっきの魔獣から逃げていたことからもわかるように長期戦向けの能力でもないしね。だからけんかはここで終わりにしましょう」

 小都香は()ねたようなむくれた表情になった。


「そりゃ、『紫』の身千以の能力にはかなわないわよ。でも、あの魔獣は魔法も使うから逃げただけよ。私が本気を出せばもっと戦えるもん!」

「でも小都香の能力は1日12回までしか使えないという制限があるでしょ。長期戦になって能力を使い切った後はどうするつもり?」


「わかったわよ。どうせ私は『紫』のひとつ下のレベル『藍』ですよーだ!」

 小都香は口先を尖らせる。

 可愛いらしい仕草だった。


 しかし可愛さは今は関係ないと士鏡は思う。

 士鏡は小都香が自分よりも年下のように見えたこともあり、優しめの口調で忠告しておく。

「どうして俺をいきなり攻撃したのかは知らないが、こういうのは次からはやめて欲しい」


 小都香は士鏡をじっと見つめた。

「靴男はね、身千以がこの2か月間『異世界東京』でずっと探していた能力者なんだよ。だから私ね、闘ってみたかったの」

「靴男、とは俺のことなんだろうが、とにかく急に襲い掛かるのはやめてくれ」


 小都香が不満の声を漏らす。

「えー」


「小都香!」

 身千以が苦い顔をした。

「ごめんなさい士鏡。おてんばの後輩が失礼なことをして」

 身千以は後輩の非礼を重ね重ね謝った。


「別にいいよ」

 と士鏡は声をかけるのだが、

「いいえ、後輩の不始末は先輩である私の責任よ」

 と、身千以は10回前後もペコペコと頭を下げ続けた。


 最初は無関心に自分の髪をいじっていた小都香も、11回目のお辞儀で見かねたように身千以の前に出る。

「はーい。そこまで。私が謝らなきゃ! ごめんなさい」

 小都香が士鏡に向かってしっかりと頭を下げた。


 そしてその後元気に頭を上げ、ニコッと無邪気に笑った。

 その笑顔に釣られて士鏡は不覚にも笑顔を返してしまう。

 士鏡は異世界人の可愛さに危機感を抱きつつあった。


「異世界の人間は、吸血鬼の女の子のように容姿に優れているのだな」

 小都香は照れながら笑った。

「あー、褒めてくれるのは嬉しいけど、変なたとえはしないでよ。ぷっ。吸血鬼なんておかしいー。架空の生き物の話をするなんて、なんか子供みたい、なつかしー。ぷぷっ」


 何かを思い出したような表情を見せた後、小都香の頬の赤みが増す。

「そういえば、私が昔読んだ絵本だと、吸血鬼って獲物を捕らえるために美しい外見をしているらしいけど、私ってあの、そんなに美少女に見えるかな? 見えないよね? ちょっと可愛い程度よね?」

「いや、すごく可愛い」

(そして美味そうだ)

 士鏡は一瞬、獲物を捕らえる捕食者の目つきになって小都香を見つめた。


 しかし照れ隠しに俯いた小都香はそれに気づかない。

 そのとき、隣から不満そうな声が聞こえたので、士鏡は我に返った。


「ちょっと士鏡、どうして私の後輩ばかりそんなに褒めるのよ」

「君も褒めて欲しいのか?」

「違う、私は、別に」

 身千以は()ねたようにそっぽを向いた。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ