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彼女の異世界チックな話

 頬をつねられて涙目になった彼女はしかし、強がりな性格のようだ。

「い、痛くないわ」

 そう言って平気なふりをする。そんな彼女の目は怒っている。


 士鏡は彼女のその目と、痛そうな表情を見てやはり現実だと認識する。頬から手を離した。


「さっきつねられた俺の頬と、今の君の反応からして、これは現実だと認めることにする」

「人の痛覚で現実かどうか確かめないでよ。女の子の頬をつねるなんてひどいわ」


 ここで彼女と喧嘩(けんか)をしても仕方がない。

 そう判断した士鏡は彼女の目を見て謝る。


「仕返しのつもりだったんだ。ごめん」

「ま、まあ、私は全然痛くなかったんだけどね」

「ほんとか?」

「ええ、だからあなたが私の頬をつねったことは許してあげる」


 異世界人の美少女は形の良い口元をとがらせて、士鏡にからかうように告げる。

「でも、この村の(おきて)では女性の頰をつねった男性はつねった相手と結婚することになるんだけど、どうする?」


「えっ」

「それが代々続くこの村の伝統的な決まりなのよ」

「変な決まりだな。どうしよう、結婚――」

 深刻な表情で士鏡は悩む。


 それを見て美少女はくすり、と大人びた笑い方をした。

「なんてね。今のは冗談」

「君の冗談は怖いな」

 士鏡のセリフを聞いた途端に美少女は再び目を怒らせる。


「ちょっと! 怖いってどういうことよ」

「あっ、いや」

「私と結婚するのが怖いって意味かしら?」

「――」


 怒りを無理に抑えたような彼女のにこやかな笑顔を見て、話の流れが悪いと感じた士鏡は露骨に話題を変える。


「と、ところで、この世界で俺は【靴男】という才能のある人間らしいが、それについての話を詳しく聞きたいな」

 美少女の表情が真面目な顔つきに変わった。

「いいわ。よく聞いて」

 美少女が両手で忍者のように印を結ぶと、何もない正面の空中に大きな文字が出現した。

 空中に浮かぶその文字は【修復】という二文字だった。

「修、復?」


 美少女は頷いた。

「ええ、修復よ」

「修復が俺に与えられた異能力なのか?」

「能力じゃなくて任務よ」

「俺の任務? 能力についての話の方が聞きたいんだが」

「そう焦らないで私の話を聞いてよ。さて、まずあなたには『魔王の姫』とこの村の関係を『修復』して欲しいの」

「なんで?」

「あなたは【靴男】と言う特別な存在だからよ」

「特別な存在?」

「そうよ、【靴男】のことは村の古い文献である【忍びの伝承と予言の書】にも記されているわ。【靴男】なら魔王の姫と村の関係修復も可能なのよ」


 士鏡は告げられた任務をやんわりと断ろうとする。

「俺、文献を読んだりするのはちょっと面倒かな。その仕事は他の人には頼めないのか?」

「文献は別に読まなくてもいいわ。私が教えてあげる。でも、依頼は【靴男】であるあなたにしか頼めない。あなたは忍者村に初めて来る【靴男】なんだから」

 彼女のワクワクしているような表情は可愛いかった。


「なによ」

 士鏡が見つめていると彼女はむっとした表情になってしまった。

「何でもない。えーと。俺がその『魔王の姫と君の村の関係の修復』を引き受けるとして、『魔王の姫』っていったい何?」

「ウソ、そんなこともホントに知らないの?」

「ああ」


「まあいいわ。後で村長からも話があると思うけど、簡単な説明で良かったら私が今してあげる」

「頼む。知識不足が原因でこの世界で死ぬようなことはごめんだからな」


「ええ、まず魔王の姫は、魔王の娘だから『魔王の姫』と呼ばれているの」

「それはわかる。この世界には魔王がいるってことでいいんだな」

「そうよ。魔王は相当弱っていて、娘たちが代わりを務めているという噂だけど」

「それで、魔王の姫と君の村との間ではどんなトラブルが発生しているんだ?」


「『魔王の姫』は4人いるんだけどその全員がこの忍者村を自分の領地にしようと企んでいるのよ」

「なるほど」

「じゃ、ひとまず村の中央街を目指して歩きましょう、まだまだ遠いけれど」

「了解」


 そのとき士鏡と美少女の視線が重なった。

 士鏡は彼女の顔立ちの可愛さに照れそうになったので慌てて目をそらす。


 大げさでもなんでもなく、士鏡が女子に照れたのはこれが今年初めてだった。

 もちろん、だからといって恋に落ちたとか彼女に一目惚れしたとかそういうバカな話ではない。

 それでも士鏡は気まずくなり、無意識に早口になり話しかける。


「それはそうと、君が履いているその『下駄』は村人たちはみんなわざわざ買っているのか? 俺も村に入るのなら買った方がいいのかな?」

「いいえ。買ってないわ。村人たちは誰しもが念じるだけで足に履物(はきもの)を出現させることができるの」


「ははっ。また変なご冗談を」

「冗談じゃないわ。あのね、下駄や草履には『鼻緒(はなお)』の部分があるでしょ」

「うん。君のは白色だ」

「そう。その鼻緒の『色』でその人の『能力』がわかるのよ」

「驚いたな」


 美少女は声の調子を変えずに話し続ける。

「能力のレベルは5段階あって、『紫』が最強。『黄』色が最弱よ」

「なるほど。相手の強さが色分けされているのは、わかりやすくていいな」

「忍者村では誰もが自分の下駄や草履が、最強の証である紫色に輝くことを目指すものよ、修行を重ねてね」

「そうなんだ」

「まあ、スタート地点は平等じゃなくて、赤ちゃんとしてこの世に最弱の黄色で生まれてくる人もいれば、強い色で生まれる人もいるけどね」


「なるほど、わかった。色々あるけど、そして今さらだけど君たちはやはり本物の忍者なんだ」

「そうよ」

 彼女は頷く。

「私たちは下駄娘とか草履男とか呼ばれる忍者よ。下駄が何色に光ろうと、自分の履物(はきもの)から生み出す異能には誇りを持っているわ」


「何だかかっこいいな」

 士鏡は初めて決意した。この世界をしばらく満喫してみよう、と。

 そう決意すると、この世界のルールについての疑問が自然と湧き上がる。

「ところで君の下駄の鼻緒の色は『白』なんだけど、鼻緒の色が『紫』が最強で『黄』が最弱という五段階の『能力』レベルがあるのだとしたら君の『白』の能力はいったい上から何番目の能力レベルなんだ?」


「言い忘れていたわ。戦闘中以外、普段はこの村の住人の履物の鼻緒の色は常に『白』なのよ。能力レベルが他人に悟られないようにしているの」

「そうなんだ」

「でもまあ村の大半の人の能力レベルは既に噂になって広まっているのだけどね。直接尋ねないのがマナーよ」

「なるほど君の『色』は聞くなということだな」


 彼女は曖昧に笑った。

「話を戻すけど下駄の鼻緒の色は『能力』を使用した時にだけその能力レベルに応じて各色に輝くのよ」

「そうか」

「それで能力レベルの順番は強いほうから『紫』『藍』『青』『赤』『黄』色の順番ね」

「なるほど。赤、黄が弱い。それ以外の青系の色は要注意と覚えよう」


「それとね、レベルの高い『紫』『藍』『青』の能力はかなりの割合で『下駄娘』の方が『草履男』よりも発現しやすいわ」


「つまり男よりも女の方が生まれつき強力な能力を持ちやすいと」

「そういうことね。理由はなぜだかわからないけれど。男で紫色は今の忍者村では0人よ。藍色も26人だけね。村の人口は18000人で、そのうち男は7000人いるんだけどね」

「男は弱いのか、肩身が狭いだろうな」

「知らないわ」

「そうか、それに、村の人口が18000人? それってもはや街では? ヴィレッジというよりタウンだろ?」


「はっ? 何を言っているの? 確かに男の紫ざゼロというのは極端に感じるかもしれないけれど、いずれにせよ『紫』や『藍』の高レベルの能力の人は女性の中でも少数派よ」

「わかった」

「はい。これでこの世界の説明は終わりよ。しっかり覚えておいてね。きっとこれから役に立つわ」


「ああ、正直なところ【情報】と【力】を手に入れた俺は最強だ。任せてくれ」

「ふふっ、頼りにしているわ」

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