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漆鬼の右腕

巳四ツ刻

京 御蔭通り

「なるほどな(原色の鬼って記述がいくつかの史書にも載ってるにも関わらず

詳細だけが一切不明か)」

少年が背中に山のような本を積んで歩いている

「お おい 玄?

大丈夫なのかそんなに本背負って歩いて」

「問題ないよ ほとんど読み終わってるから」

「い いやそうじゃなくてよぉ」

「ひ ひぃいいい!!!!」

裏通りから人の悲鳴が響く

「や やべぇ また人斬りか

じゃ じゃあ玄も気ぃつけろよ」

ストッと玄と呼ばれた少年が本を下ろす

「またか」

玄は本の横に備え付けてあった杖を引き抜き

裏路地へと飛び込む


京 御蔭通り 裏路地

大小の刀を差した男2人が貸本屋の青年を追いかけ

「た 助けてくれ!

だ 誰か!!!」

「観念しろ

我らが維新を阻む禁書を取り扱った罰だ

その生命で償うがいい」

「嫌だ 嫌だ!!

死にたくない

本はここにある ほら

これをあんたらが処分すればいいだろ」

「よくない!」

裏路地を囲う建物の屋根上から声が響く

「誰だ!!!」

ヒュッ!!

「がっ」

刀を振り下ろそうとした男の脳天めがけて杖の一撃が突き刺さる

「知りたいを邪魔する奴は倒す

それだけだ」

「貴様!! 許さんぞ!」

男が刀を抜こうとした瞬間

「遅いんだよ」

玄が杖で刀の柄を抑えて男が刀を抜けなくなる

「!! ふんっ!」

男がそのまま刀を無視して殴りかかる

「ぶっ!」

男の顔面に玄の蹴りが直撃する

「こいつらは人斬りじゃないな

真似してみただけか

刀の手入れも全くしてない 

武士ですらないな 多分」

「あ 玄くん!?」

「おー 岩太 久々だな 本返しに来たぜ

表の路地に置いてるから今持ってくる」

「うん 今回は借りたい本が 

っじゃないよ!!!!!

いやこんなに強かったの!?

めっちゃ本ばっか読んで文士って感じのイメージだったんだけど!!!!」

「あれから色々あってな

弐天壱刀流の爺さんに武芸叩き込まれたんだ」

「!!!!????

もう意味が分からないよ

ってあの武蔵!?

武蔵だよねぇ!?」

「おぉ 詳しいな

武蔵は今12代目らしいけどな」

「す すげぇ!!

じゃなかった助けてくれてありがとうが先だよ!!

ありがとう!」

「あぁ それよりこいつら奉行所に突き出すのと

今から言う本借りていいか?」

「うん」


京 鬼地蔵町 2丁目 玄の家

本が整然と積み上がっている中に玄が座り込んでいた

「あー やっぱりこっちにも書いてないか」

玄が床をゴロゴロと左右に転がっては元に位置に戻るのを繰り返す

「一体何なんだよ 原色の鬼ってのは(...いや待てよ

松平の藩邸にある書庫ならもしかしたら

膳は急げだな)」

「人の好奇心は誰にも止められない

例え忍び込む必要があったとしてもな」



翌日 子玖ツ時

京 会津藩の練兵所前

ドガガガガッ!!!

キィィィン!!!!!!!

銃撃と剣撃の激しい音が鳴り響く

「何で会津藩士とあの下劣浪士共がこんなところで!!」

「貴様ら会津藩邸には塵も残らんと思え!!!!

同志の仇!!!!

今晴らさん!!」

「ふざけるな!!

俺たちは昼間貴様らと接触した覚えはない!!!

ただ貸本屋から報告のあった不審な者を奉行所に引き渡しただけだ」

「信じられるか!!」

ドドドッと浪士が銃弾を打ち込む

「...(あれ これ俺のせいでもあるのか

とはいえ今は絶好の機会だな

なんとか忍び込んで書を読む)」

玄は藩邸の壁によじ登ろうと手をかける

「汝 侵入者であるか?」

玄の頭上から声が発せられた

だが壁の上には誰もいない

「!!

誰だ!

いやどこにいる?」

「問うているのはこちらだ

汝は浪士か

侵入者か」

「どっちでもない」

「ならばなぜ忍び込もうとした」

スゥっと玄の首筋に刃が迫る

「知りたいことがあるからに決まってるだろ」

「なれば通すわけにはいかぬ

藩の者ならいざしらず

それに汝は正直過ぎるな」

カッと玄の手が振り払われ壁の手がかけられる箇所にはマキビシがびっしりと並ぶ

「っこのやろう!!!

忍か」

「いかにも

我は原色の鬼 漆鬼の脚となる者 ぬら」

「!?

あんた原色の鬼を知ってるのか?」

「我が主なれば 

これにてごめん!」

バフッと白い煙と共に男の気配が完全に消える

「くっくっく

面白いな これは

ますます知りたくなった」

ドヴァアアアッ!!!!

激しい濁流の音と共に辺りが一斉に静寂に包まれる

「....何が起こったんだよ」


数瞬前

京 会津藩の練兵所正面門

ドドドドッ

「くっ まずい

突破される」

「下がれ 会津の武士<もののふ>よ 

私が斬り伏せよう

これ以上月見の邪魔をされるのも癪でな」

黒き水をまとった鬼人が闇から姿を現す

「お客人のお手を煩わせる訳には」

「口説いな」

杏と呼ばれた鬼人が大太刀を抜く

それと同時に辺りの地面や大気そのものが震え始める

「ひぃっ」 「殺される」

会津の藩士が一斉に杏の後ろに飛び下がる

「安心しろ 生け捕りにしてやる

獄の中で十分と悔いることが叶うように」

「馬鹿め!!!

このスヴィンドル銃が目に入らぬのか!!!」

浪士7人が次々と銃の引き金を絞り発砲する

「馬鹿はお主らだ」

杏が太刀をすらりと円を描くように振る

「スヴィンドル銃など骨董品もいいところ」

円状に黒い水が形を広げていき銃弾をすべて受け止める

「どうせ 大馬鹿うつけ者が高値で買い漁ったのだろうがな」

「ば 馬鹿な!!!

何なんだ貴様は!!!!」

「漆鬼<しき>一刀 水尽<みづき>」

杏が刀を収めた瞬間に地面から黒い水が溢れ出し

ドヴァアアアッ!!!!

浪士の男達を一瞬にして水の檻に閉じ込める

「がばっ」 「おのれ」

男たちが溺れ意識を失う

「会津の武士<もののふ>よ

あとは任せよう」

「はっ!!」

会津の藩士が浪士を縛り上げる

「あれだけやったのに 全員生きてるのか」

「さて

今宵は月見を楽しみたいところだが

また来客か」


スタッと玄が杏の前に降り立つ

「俺は玄だ

原色の鬼を知ってるか聞きに来た」

「ほう 悪くはない勘だ

だがお主はそこの浪士の仲間ではない保証がない」

「安心しろ

ただの通りすがりだ

この通り杖しか持ってない」

「ふむ ならば教えてやろう

私が原色の鬼 漆鬼の杏だ」

「!!!!

冗談じゃないだろうな」

「さっさと帰るがいい」

「待ってくれ まだまだ聞きたいことが」

「おい 貴様! いい加減にしろ

ここは藩の者しか入れぬのだぞ!」

会津藩士が玄を羽交い締めにして押し出す

「頼む! 待ってくれ!

知りたい それだけなんだ!」

玄が叫んだ瞬間

カッと杏の懐にあった鬼石が青黒く光り輝く

「―――これは (いや試す価値はあるか)」

「杏様 こちらは外に放り出しても?」

「いや 少しだけその者と話そう

下がって良いぞ

こやつは私が責任を持って捕まえておく」

「はっ!」


杏は藩の練兵所から玄と2人で出ると

「この石を握ってみよ」

「? はぁ」

玄が石を握ると

カッと杏の懐で光った時よりもさらに大きく光る

「―――ようやく 見つけた

お主をこれより保護する

京の夜は危険ゆえな」

「? どういうことだ」

「その石は持っているといい」

「いやそうじゃなくて」

玄が杏の手をつかもうとした瞬間

「汝 主に触れること能わず」

忍装束の男が玄の手をつかむ

「あんたはさっきの」

「また会ったな 玄とやら」

「ぬら その者はよい

我が右腕となるやもしれん」

「はっ!」

「全然意味が分からないぞ

どういうことなんだよ?」

「あーあー 全くもー

全員言葉足らずなんやからー」

「....ほんとねぇ」

狐耳の少女と全身にからくり人形を付けた女が現れる

「玄くん って言うんか?」

「は はい」

「うちは玉藻 何代目かよう分からんけどね

そや ええこと教えたげるわ

あんたは鬼石 その石の唯一の適合者やねん

天下で2人とおらん

でも鬼石の適合者が傍におらんと色鬼は十全の力を発揮できひん

そんで主はあんたの力が必要になったちゅうことよ」

「この石 分解しても?

やっぱり仕組みとか知りたいですし」

「あかんよ~

絶対にあかん!

天下に2つとない一点ものなんやから

まぁ硬すぎて壊せんと思うけどね」

「あらあらあら~ 好奇心強めのいい子ねぇ

我がやとりの工房に来る気はないかしら?

むふふっ ふふふ~」

「やとりの姉さん? 怖い 怖いからもうちょい迫力抑えてな~」

「ええっと(この人達が原色の鬼のお供なのか

何か調子狂うな)」



京 会津藩の別邸

「ここが会津藩の藩邸!!」

「正確には別館やけどね

悪いけどぬらさんと相部屋で頼むわ

主は私が一緒じゃないと寝れへんし

何より安全確保が優先や」

「...そんな意外な一面が」

「た 玉藻! それは言うなと」

「ええやん 

玄くんを右腕にするも婿に迎えるもどっちにせよ

いつかはバレるんやし」

「そ それはそうだが

って婿!?」

「はー 別にええやん

先代の原色の鬼 蒼鬼だったかな 右腕の少年を金で買って婿入りさせとるよ

色鬼の力を引き出すには鬼石の力を使えるいいお人を傍に置いとかなね」

「そ それは そうだが」

「ま 安全確保の方ま任せとき

この屋敷に結界張って 式を3体ぐらい放っとくから」

「玉藻殿の符術を用いれば式神を多数操り

主を四六時中護衛できるのだ

玄殿も覚えておくといい」

「す 凄すぎる(陰陽師が使う式とは別系統なのか

仕組みどうなってるのか気になるな)」

「やー そんな褒めんといてや」

「あら 事実でしょう

あなたの式 解体して中身どうなってるか調べたいのだけれど」

「確かに!(いいこと言うな 伽羅倶梨人形の人)」

「絶対あかん! 平安の世からの門外不出

絶対秘密の一子相伝なんやからね」

「仕方ないわね」

「一子相伝なんですね」


京 会津藩の別邸 玄 ぬらの部屋

「玄 お主は今までに符術などの経験は?」

「ないですね 知識はちょっとぐらい」

玄が寝巻きに着替える

「ふむ それならば明日中はこの藩邸にいてもらうことになるだろう」

「? それは別に構いませんが

どうして明日中なんですか?」

「明日中に浪士共を一斉に狩り尽くす」

「それは...

(原色の鬼の力があれば可能なのか

だが流石に潜伏箇所がわからないんじゃ)」

「先程 会津藩士と京都見廻組によって潜伏箇所の特定が終わってな」

「...そうだったんですね」

「我らが敗れれば恐らくこの街は火の海と化すだろう

奴等は人の命を毛ほどにも思っておらん

だがこの藩邸内であれば安全だ

玉藻殿の結界もある 火も人も防げよう」

「...そんな激戦にたった3人で」

「我々 色鬼に仕えし者の使命だ

とはいえ作戦には会津藩士 京都見廻組の精鋭にも参加してもらう」

「―――武運を」

「感謝する」

「...(本当にそれでいいのか

この石の力を俺が使えればもしかしたら)」

「どうした?」

「1つだけ教えてください」


翌日 会津藩の別邸 庭

「行くぞ 覚悟は良いな」

「はい!」

俺は杏さんと一本勝負をしていた


四半刻前

「杏さん 浪士征伐に俺を連れて行ってください」

「どういうことだ?

お前はまだ鬼石を使えぬ

連れていくわけにはいかぬ」

「なら今使えるようになればいい」

「馬鹿な 鬼石はハサミや剃刀のような小道具のようなものではないぞ

本来は半年は修行を重ねねば到底扱えぬ」

「分かってます

だからここで俺は半年分の命を賭ける

殺す気で斬りかかってください」

「ふざけているのか

お主は

頭を冷やせ」

「それはあなたもでしょう

会津藩士と見廻組がいるとは言え

戦力は1人でも多い方がいい」

「くっ 

―――良かろう

だがあくまでこの太刀ではなく刃なしの模造刀だ

打ち所が悪ければ死ぬがな」

「それで十分」

「それではお二方 よろしいか」

「主が玄へ斬りかかり 

玄が鬼石の力で防げれば玄を我らと共に連れていく」

「出来ねばここに縛ってでもおいていくがな」

「異存なし(そう1本勝負だと確実に負ける

だが昨日 ぬらさんに教えてもらったのは)」

「始め!!!!!!」

ぬらの声が別邸に響き渡る

それとほぼ同時に神速の居合が杏から放たれる

「(...鬼石の力を引き出すのは)」

「はああああああっ!!!」

杏の神速の居合が胸元に迫る一瞬!

「(鬼石の力は己の信念の発露に呼応する つまり)

この力で浪士を倒して

知りたいことを知る 安全に学問をする自由を勝ち取る

そのために今 力を!!!」

玄の鬼石が青黒く光を放つ

「何っ!?」

鬼石から飛び出た黒い水の腕が

模造刀を弾き飛ばす

「っ はぁはぁ 出来た」

「勝負あり ですね」

「うむ 及第点だな

我が漆鬼の力 黒水

威力はまだまだだが」

「まーた 主は素直じゃないんやから」

「ともかく今日は私と行動してもらう

良いな?」

「えぇ」



池田屋前 未捌ツ刻

「ここに 奴らが」

玄と杏が池田屋前で立ち止まる

「ほぼ間違いないな

ちなみにぬら達の方は既に踏み込んでいる時間だ

後詰と奉行所への引き渡しは会津藩士に任せる

続くぞ」

玄は杏の背後を警戒しながら踏み込む

「御用である」

杏の黒い水が店主の男を絡め取り組み伏せる

「1人しかいない?」

「いいや 恐らく二階だろう

私に続け」

玄が店主の頭を揺らして気絶させ素早く縄で縛り上げる

「背後は俺が」

「うむ」

二階に踏み込む

「誰も いない!?」

「そんなはずは...」

玄がそっと畳に手を当てる

「いいや 畳がまだ温かい

敷地内のどこかに潜伏しています」

「ふむ だがここ以外には」

「地下とか」

「!!

まずいな 川から逃げられれば追跡は」

「ともかく急ぎましょう」


玄は井戸の側にあった倉庫の床を蹴り上げて隠し扉を発見する

「流石だな 読書家ならではか」

「こういうのは案外 知識じゃなくて勘の方ですかね」

「...そういうものか」

玄と杏が地下へと入っていく

「何者だ!!!」

浪士の1人が杏を見つけ刀を抜こうと構える

「見つかった 突破するぞ」

「はい!」

杏が黒水で浪士を地面に叩き伏せ

玄が杖で脳天をたたき気絶させる

「急ぐぞ」

杏と玄が地下を駆け抜ける



杏と玄が地下を駆け抜けていくとそこには

「飛行船!?」

「帝国の旧式の小型飛行船だ

だがこんなものまで..

一体どれほどの資金を流出させたのだ

売国奴共め」

杏が舌打ちした次の瞬間

ビィィィィッ!!

飛行船に乗っていた浪士の1人が警報を鳴らす

「まずい 奴らに見つかったぞ!!!

浮上しろ!!!」

「む 無茶ですよ!!

まだ地上部分を掘れてないのに」

「うるせぇ!!

あの黒い水使う化け物に乗り込まれたらしめぇだ!!」

「杏さん 乗り込みましょう」

「うっ 乗り物は」

「まさか」

「ち 違うぞ

馬であれば多少は慣れてきたのだ

10年掛かったが」

ゴゴゴゴゴゴッ!!!!

船体が浮上していく

「仕方ないか!」

玄が杏の手を掴んで船体に捕まる

ドゴゴドンッ!!!!

地上の地面を地割れのように崩壊させ

飛行船が上空へと浮上していく

ガッ!

ゴッと地面の土や岩を玄と杏が黒水で弾き飛ばす


飛行船 壁面

「杏さん 大丈夫ですか」

「ううっ」

「大丈夫じゃなさそうですね」

「問題ない 甲板に飛び乗るぞ」

バシャッ!!!

黒水の力で玄と杏が甲板に降り立つ

「ば 馬鹿な!!!

なぜ貴様らが!

さっきの浮上で落ちなかったのか」

「残念だったな (鬼石のおかげだがな)」

「だが関係あるものか!

今ここで撃ち殺してしまえば同じことだ!!!

京の街を紅く染める前に貴様らで前哨戦を飾るとしよう」

浪士が玄に一斉に銃を向ける

「って杏さん!?」

杏が顔を真っ青にして嘔吐していた

「見ろ 絶好の機会だ

鬼狩りと行こうじゃないか!!!!」

ダダダダダッ!!!!

激しい銃撃音が鳴り響く


「貴様らのやることは人の文化を!

歴史を!

何だと思っている!

貴様らに学問の機会を潰させない!!!!」

玄の鬼石が輝き黒水が玄と杏を包み込む

「馬鹿な 貴様も鬼なのか!!!

おのれええええ!!!!」

浪士達が刀を抜いて黒水に斬りかかる

だが刃はするりと跳ね返される

「ば 化け物め

こうなれば大砲で」

「くっ! (流石に俺の鬼石の力じゃ あの大砲は)」

「うてぇ!!!!」


「遅い」

巨大な手裏剣が大砲に突き刺さり暴発する

「ほんまに 怖いわー」

それと同時に浪士の男たちを次々と紙吹雪が取り囲み

首元を縛り上げていく

「がっ」

浪士の男が次々と泡を吹き倒れていく

「玉藻さん ぬらさんも やとりさん!」

「こちらが早く片付いた故に 

馳せ参じた」

「うちは主の御守りや

やっぱり乗り物乗せたらあかんことになっとるね」

「な 何だこれは!!

うわああああ!!」

さらには木製の巨大な伽羅倶梨が浪士を船の端から端まで蹴り飛ばす

「この船面白い 分解して調べたいわ

ね 玄くん?」

「流石にこの状況だとまずは地上に下ろす方法が知りたいですかね」

「あらそう まずは船員を全員縛り上げてからね ふふふ~」

「それより杏さんは大丈夫なんですか?」

「主は色鬼の力の代償で乗り物はね

まぁ 今回はうちらがなんとかするから大丈夫やけど」

ズガガガッ!!!

突然船の進路が右舷にずれる

「な 何だ!?」

「馬鹿め!!

たった今 墜落するように航路変更したのさ!!!

さぁ 京の炎と散れ 化け物ども!!!!」

「まずいですね 私達だけなら脱出できますが

街に落ちれば確実に」

「川に落とせば」

「あかん 川がもうすぐ2手に分かれてまう

今すぐ落とさな

でもそんな力は」

「,,,(壁に貼り付いて上昇中は杏さんは普通に黒水を使えてた

なら)」

「ぬらさん

今からこの船の速度を落としたい

手裏剣で飛行船の羽を切れますか

「可能だ

だがそれで落下したとしても川には」

「いえ それでいいんです

後は俺と杏さんにまかせてください」

「杏さん 耳を」

「う うむ ゲボっ!」

「うちも羽切ればええの?」

「いえ 玉藻さんにはこの船に積んである燃料を全部燃やしてください」

「なるほど 川に流れると大変やもんな

こういう時に頭キレる子は好きやよ」

「私は船の竜骨の位置でも探せばいい?」

「いえ 正中線を探して

船の最前から見える位置に目印を引いてもらえれば」

「ふふふ 了解 すごいこと考えるのね

ますます気に入ったわ」


「はっ!」

ズバァッ!

ぬらが手裏剣で飛行船の羽を切断した瞬間

ガクッと飛行船が落下を始める

「玄くん! 燃料は空にしといたで」

「やとりさん 頼みます!!!」

やとりが伽羅倶梨を操り船に中央に線を引く

ゴゴゴゴゴッ!!!!

船が勢いよく落下を始める

「杏さん行けそうですか?」

「当たり前よ」

「えー さっきまでゲロゲロしてたのに」

「す 少しよ」

「杏さん 俺の鬼石の力と合わせて行きましょう」

「えぇ!!!」

杏と玄が船頭へと駆け出し

ダッと船から飛び去る

「来い!!黒水!!」

玄が鬼石の力で船の船頭を掴む

それと同時に玄の黒水を杏の黒水が掴む

「流石にこの体勢からだときついですかね

一応 線は引いてもらってますけど」

「私は原色の鬼だと言ったでしょう」

「漆鬼一刀 黒水刃」

ズバァァァァァァッ!!!!!!

杏の放った太刀の一撃が飛行船を完全に真っ二つに切り開く

「よし この位置なら」

ギギギギッ!!!

と2つに分かれた飛行船がそれぞれ

2つに分かれた支流の川へとそれぞれ墜落していく

バシャアア!!!

と飛行船は切り開かれた箇所を上にして墜落した

「玉藻さん 助かりました

流石に空は飛べないし」

玉藻の式神になんとか空中で捕まって杏と玄はぐったりと肩を落とす

川に落ちた浪士達を一斉に見廻組が次々と捉えていく

「ええよ ええよ

まさかこんな面白いもん見せてもらえると思えなかったし」

「船を2つに切り裂いてそれぞれの別の川に落とすとは」

「それしかなかったので」

「そうやね

うちの式神でも流石にあの大きさは運べへんし」

「うむ さすがだ ゲロロロッ」

「....乗り物 式神でもだめなんですね」


京 鬼見山 

「お主本当に良いのか

鬼の右腕になれば今回のように危険がつきまとう」

「危険は元より覚悟の上です

何より鬼の右腕になれば幕府の書庫に入り放題なんですよね」

「....うむ そうだな」

「玄くんらしくてええやないの」

「拙者も賛同である」

「私も賛同よ ふふふ」

「よかろう お主を我が漆鬼の右腕として迎えよう

よろしく頼む」



猱羅 司忍ぬらさんと玄

京 鬼水寺

「玄殿 出立の支度は」

「はい ばっちりですよ」

「そうか なら良いが」

「そういえばぬらさんはなぜ漆鬼の脚に?

忍びともなれば里のしきたりなどもあるはずですが

里抜けを?」

「玄殿は相変わらず知りたいことに正直だな

拙者は幼少の頃よりあらゆる原色の鬼に仕えらるよう修練を積んできた」

「忍びの里にも鬼の右腕の養成所が」

「否 右腕には鬼石の高い適性が求められる

忍びの里では主に色鬼の脚や髄 諜報員や工作者を養成していた」

「そこまでの影響力もある原色の鬼か...

でも」

「何か気になることが」

「えぇ 原色の鬼が右腕 左腕 髄 脚といった仲間を必ず集めるのか ですね

ここ数日 会津の書庫に入り浸って見た文献は

すべて4人以上で行動している記載がありました

武力だけなら杏さんを倒せる者は天下にはいないでしょう

それに政治的な影響力も文官が1人いれば事足りるかと

わざわざ手間をかけて4人の部下を集める理由が腹落ちしないのです」


「平安の世のことだ

ある原色の鬼が突如として殺された

下手人はある陰陽師だったが

お主なら知っているだろう

厄災の陰陽師 安戸野聖明<あべのせいめい>」

「!?

そんな馬鹿な

彼は穢れを都から退けた英雄だと」

「それは表の歴史だ

公家お抱えの大陰陽師が都を混乱に陥れた張本人などと

世に知らせるわけにはいかぬ故な

他の原色の鬼が奴を討滅した後に影武者を立てた」

「...でも

いくら陰陽師として優れていたとは言え

1人で原色の鬼を殺せるわけが

――――あ」

「そう 公家の全員が奴に操られていた

そしてその原色の鬼は公家の者に毒殺された

公家共をも操り

都に厄災を導き 自らがそれを祓い官位を得る

全ては遠大な計画だったのだ

そして各地に赴いては民を守る原色の鬼は最大の邪魔者だった」

「それじゃあ

その原色の鬼の色は既に失われて」

「いいや 鬼の色は親子で引き継がれることはない

杏様の母上は漆鬼でもなければ原色の鬼でもないからな」

「ほっ 良かった」

「それ以降 側近1人と

一騎当千の武人か符術士を傍に付けるようになる

今の右腕と左腕だな」

「鎌倉以降の御伽草子で女武芸者が多いのも」

「あれは恐らく物珍しさが大きいだろうが

原色の鬼の武官には女が多かったのも影響しているだろう

側近は原色の鬼の側に四六時中控えねばならぬ故に

夫とするため男が多かったようだ」

「...そんな歴史が」

「すべてが真実とは限らないが

拙者が伝え聞いた里の歴史書ではそうだったというだけだ」

「ありがとうございます

俺1人じゃここまでの歴史観に辿り着けなかった」

「ふむ お主ならいずれは辿り着いていただろう

それこそ忍びの里にでも忍び込んで な」

「それは....(否定できない)」


「玄 どうだ

そろそろ我が本拠に戻ろうと思うが

出立の準備は?」

「もう出来てますよ」

「それより前の時代にも朱天童子という少年が

今でいう右腕の役割をしていた記載もあったが

そちらは後々話すとしよう」

「..分かりました(うぅ 気になる)」

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