ルカ
異形な様へと変貌したドルックは、強い殺意を滲み出している。
俺はすぐさま腰に掛けていた剣を抜いた。
近づいていたユリウスも、距離をとって剣を手にした。
「どうしますか?俺が倒しましょうか?」
「いや、たまには俺も戦わないと腕が鈍りそうだから、コイツは俺が相手をする」
「分かりました。そういうことなら、邪魔にならないように周りにいる人を避難させてきます」
ユリウスは後ろへ下がっていった。
俺が少し目を離した隙に、一気に距離を詰めて攻撃を仕掛けてきた。スピードは並みの騎士よりも早い。だが、早いだけだ。知性がないからなのか、動きの一つ一つが単調で、避けるのも簡単だ。
ドルックの攻撃を一撃一撃避け続けていく。
貴族レベルにまで増えた魔力のおかげで、攻撃力も一般の騎士なら一撃で倒されてしまうほどだ。しかし、この異業種は魔力の扱いが雑すぎる。ただひたすらに攻撃を続けて、周りの物を壊していくばかりだ。
「動きに無駄が多すぎるよ。って言っても、理解できないだろうけど」
「ダイ・・・ロ・ク・・・」
やはり、喋るのは第六王子の一言だけだ。
正直、いつでも反撃できる状態ではある。それでも俺が反撃していないのは、単純に戦いをできるかもしれないと思ったからだ。これまで出会ってきた者の中で、俺と戦えそうだと思った者は一人としていない。
圧倒的な強さを持つと、その力を試したくなる。その相手として異形の姿となったドルックを選んだが、期待外れだった。
俺は攻撃を避けるのを止めた。
「もうお前に対して、利用価値を見出せないから死んでくれ」
握る剣に、膨大な魔力を纏わせた。
俺は魔力を纏わせた剣を、敵を狙って振るった。
敵は本能的に、危機を察したのか守りの姿勢をとった。しかし、その守りも虚しく、膨大な魔力が斬撃となって敵を斬りつけた。
敵の上半身と下半身が真っ二つとなり、体が床に落ちると、それ以上は動くことはなかった。
「終わりましたか。どうでしたか?」
「そんな大したことはなかったな。ただただ気持ち悪いだけの化け物だった」
「そうですか。それはそうと、騒ぎを聞きつけた騎士団が向かって来ています」
流石は仕事の出来る男だ。俺が勝つことを見越して行動をしている。
騎士団が来る前に、荒れた部屋の中から重要そうな資料だけ回収していった。その中には、ドルックが使用した得体の知れない液体も含まれている。
外に出ると、多くの騎士たちが警戒しながら待ち構えていた。
「アレン王子、中で何が・・・・」
「ここの商会長であるドルックという男の黒い噂を耳にしたから、問い詰めてみると襲いかかってきたんだ。だから、身を守る為にも殺すしかなかったんだ」
「な、なるほど・・・」
「というわけで、騎士団は後始末を行ってくれ」
用が済むと、全てを騎士団に丸投げにして、その場を離れた。
王宮に戻り、自室に置いてきたルカのもとへと戻ろうとした。その道中で、一人の騎士に呼び止められた。知らない騎士だが、用件を察しただけに話を聞かないわけにはいかない。
思っていた通り、話の内容は国王が俺を呼んでいるというものだ。おそらくだが、国王が俺を呼んだ理由も想像はできる。
一緒にいるユリウスを先に自室に向かうように言うと、俺は国王のもとに向かった。
「それで、どういう事態なんだ?」
対面するなり、聞いてきたのは数分前の騒動についてだ。
分かってはいたが、情報を仕入れる早さは流石と言える。人材がなければ不可能なため、今の俺では同じようなことは簡単には出来ない。
俺は騎士団に説明したのと同じように、起こったことを説明した。
話したことの内容に嘘はない。ただ、ドルックの部屋から押収したものについては話さなかった。それでも、俺の話を聞いた国王は誇らしげに語る。
「あの商人については、たしかに黒い噂が流れておった。だが、決定的な証拠が掴めなかった。そんな奴を摘発するとはな。お前には、後で褒美を与えよう」
国王もドルックを摘発したいと思っていたようだ。それを、俺が摘発したことで大いに満足した様子だ。無理もないだろう。自分は何も関わることはなく、王族に対する民衆からの評価を上げることができる機会なのだから。
何かを追及してくることはなく、褒めてくるばかりだった。
国王との話を終わらせると、自分の部屋へ向かった。
部屋には拘束されているルカとがいて、それを見張るのはユリウスだ。気絶させたルカだったが、既に目を覚ましているようだった。
さっそく俺は、何も知らないであろうルカに起こったことを話した。
「お前に指示を出していたドルックという男は死んだぞ。正確に言うと、気持ち悪い姿となったドルックを俺が殺したんだがな」
「そうですか・・・・」
「悲しまないんだな?」
「ええ」
ルカの言葉が本当なのは見ていれば分かる。俺が嘘を言っていて、実はドルックは生きていると思っているわけでもない。単純に、彼女からすると悲しいと感じることではなかったのだ。
そして何より、彼女は他人の死について考えるよりも自分の心配をする必要があったのだ。とは言え、雇い主が死んだと聞いて、全てを諦めたのだろう。彼女の目が、いつ殺されても良いと言っている目をしている。
俺がここで彼女の首を斬るのは簡単なことだ。しかし、それでは面白くない。何より、勿体ない。ちょうど、俺の影として動いてくれそうな人材を欲していたところだ。
俺は彼女に提案をする。
「どうだ?俺の影として、動いてみないか?」
「私がですか・・・?」
「ああ、そうだ」
「一度は、ここで死んだ命。再び生きるのであれば、生かしてくれた貴方様のために動くと誓います」
ルカは長考することはなく、すぐに答えをだした。
ルカの戦いの面での実力は、俺やユリウスに到底及ばないが、隠密能力はユリウスに勝ると言える。
正式に、ルカが新たに俺の配下となった。
彼女を縛っていた縄を斬った。身動きがとれるようになった彼女は、真っ先に俺の前へと跪いた。その姿は、中々様になっていると感じたのは気のせいではないのだろう。