新たな刺客
ここ数日、新たな問題な発生した。
それは・・・
「死ね、第六王子」
再び暗殺者が仕向けられるようになったのだ。ただ、前回と違って、グレント兄さんが仕向けてきたわけではないようだ。
とは言え、俺が暗殺者に後れを取られることはない。確実に返り討ちにしていく。これまで狙ってきた暗殺者は五人で、どの暗殺者も質が高いと言えるほどではなかった。
困ったことに、暗殺者たちを仕向けている奴が誰なのか分からないでいた。だが、分からないのなら調べればいいだけのことだ。
「アレン様、ようやく突き止めることが出来ました」
「どこのどいつだった?」
「ゲーテ商会という商会の会長であるドルックという男です」
一時的に護衛の任を外して、ユリウスに暗殺者を仕向けた者について調査してもらっていた。
ユリウスが口にしたゲーテ商会とは、この国の中で良い意味でも悪い意味でも、それなりに名の通った商会だ。商会長のドッルクからは、黒い噂が絶えないと聞く。
何故、そんな奴が俺に暗殺者を送り込むのか。そんなことは、考えるまでもなく予想はつく。
誰なのか分かったのなら、後は対処するだけだ。
「お、おはようございます。お元気なんですね」
俺に挨拶をしてきたのは、ユリウスではなく、数日前に預かった少女だ。少女の名は、ルカという。数日前の恰好とは大きく変わって、年相応な少女の恰好をしている。彼女を連れてきた時は、二回目ということもあってか誰も何か言う様子はなかった。おそらく、無視されているというのが正確なのだろう。
流石に、少女と言えど何もさせないわけにはいかないので、ルカには給仕を任せている。
「ユリウス、朝食を頼む」
一人の頃は、自分で食事を作っていたが、最近はユリウスに任せている。腕前は王宮内の一流料理人に勝るとも劣らない腕前だ。それに、ユリウスには、この世界にはない前世の料理の知識についても教えた。そのおかげで、三食ユリウスに任せられるようになった。
ルカには、食事運びだけを頼んでいる。
ニ十分も経たないうちに、食事は運び込まれれてきた。
「お待たせ致しました」
テーブルの上に、料理の乗った皿や飲み物が入ったグラスが置かれていった。
グラスを手にして飲み物を飲もうとした。しかし、飲む直前で手を止めた。
「ユリウス、彼女を押さえつけてくれ」
俺の指示に反応したユリウスは、ルカに逃げる隙を与えないスピードで彼女を押さえつけた。突然のことに、彼女は理解が追いついていなかった。
当然、理由があって彼女を押さえつけた。意味もなく少女を押さえつけるようなことはしない。
「やっと行動に移したか」
「な、何のことでしょうか?」
「とぼけても無駄だぞ。それなら、お前がこの水を飲んでみるか?」
「・・・・・・」
俺の言葉にルカは沈黙を貫くことしかしなかった。無理もないことだ。テーブルに置かれたグラスの水の中には、毒が入っていたのだ。色だけ見れば分からないが、異臭のようなものが微かに感じられた。ユリウスが、何かするとは微塵も思っていない為、必然的に容疑者は絞られる。
「何で分かったの?」
「何で?だと。こっちは、お前が来てから紅茶を水に切り替えて、いつ毒が盛られても気付けるようにしていたんだよ」
「どうしてグラスに入れると思ったの?」
「は?そんなの簡単なことだ。お前が来てから、食事をとる前に飲み物を飲むようにして、お前に俺が食事をする前に飲み物を飲む奴だと思わせたからだよ」
俺はルカからの問いに正直に答えた。
ユリウスに押さえつけらているからなのか、抵抗する様子は一切見せないでいた。むしろ、どこか余裕さえ感じさせる様子だ。
ただ、彼女が行動に移してくれたおかげで、俺も余裕を持つことができる。
ルカの目の前に座ると、俺が考えていることを聞かせた。
「おそらく、お前はゲーテ商会のドルックという男と繋がりがあって、俺のことを何らかの方法で報告していたのだろう。しかし、ドルックのことが俺たちに知られてしまい、無理にでも暗殺を決行するしかなかったというところだろう」
「どうして、私がドルックという男と繋がりがあると思ったの?」
「お前、馬鹿なことを聞くなよ。俺が、あの裏路地に行ったのは偶然だが、そんなタイミングで誰かに追われた少女を簡単に信じるわけないだろ。案の定、預かった瞬間から暗殺者が送り込まれて来て、お前を疑わないわけがないだろ」
「で、でも、私はあの男に脅されて仕方がなく・・・」
なるほど。彼女が妙に余裕を持っていた理由が分かった。俺が子供というのと、自分も子供だということで、情に訴えれば何とかなると思っているようだ。どこでそんな情報を聞きつけたのだろうか。大方、ドッルクという商人から、俺が奴隷を雇うような優しい子供などと聞いているのだろう。たしかに、そう振る舞うようにしているのかもしてない。しかし、俺は情に訴えられて心が動くほど優しい人間ではない。
「どんな理由で、どんな奴だろうと、俺に害をなすなら容赦はしない」
「ッ・・・」
「とは言え、お前のことは後回しだ。先に片付けなくちゃいけない奴らがいる」
ルカを気絶させるようにユリウスに合図をだした。
気を失ったルカを置いて、俺とユリウスは部屋を出た。二人とも、戦う準備は出来ている。俺は剣をメンテナンスに出している為、予備の剣を装備した。
まさか、ドルックという男も予想をしていないだろう。暗殺者を送り込んでいた第六王子から反撃されるとは。