最悪の終わりと始まり
敵は全滅。それが、真っ先に受けた報告だ。
観客などを含めた、こちらの死者数は四十七人。負傷者数は、百五人。決して良い結果と言えるものではないが、あの状況を考えれば、最小限に収まったと言える。
「それで、シエナ王女はどうした?」
「王女様なら、あそこで指示だしをしてるよ。ホントに、よくやるよね。王女様なんだし、偉そうに休んでればいいのに」
「お前とは、考え方が違うんだろ」
流石は、第一王女というべきだろうか。
自分も疲れている筈なのに、一瞬で民衆たちを落ち着かせて対処にあたった。数分前に大きな事件が起こっていたとは思えないくらいの落ち着きぶりだ。
彼女の指揮のおかげなのか、数分前にあった大量の瓦礫は一つとして残っていない。
いや、そんなことよりも、俺がするべきことは他にある。
「おい、お前は一体何をしていたんだ?護るべき主人が戦っていたのに、何時まで経っても戻って来なかったよな」
俺が戦いを終えた数分後に、何事もなかった顔でユリウスは戻ってきた。
どうして戻って来なかったのか。この理由だけはハッキリとさせておく必要がある。別に、怒っているのではない。ただ知りたいだけだ。
「何をしていたかと言われましても、私はコロシアムの出場者の控え室で待っていたら、見知らぬ者に襲われたので、あの女と共に対処にあたっていました」
「あの女?」
「はい、初戦で戦っていた女です」
初戦で戦っていた女ということは、シエナの護衛の女か。
二人とも、それなりの実力があるのに、結構な時間を費やしていた。それほどの強敵だったのか、数が多かったということだろうか。
そう思ったからこそ、俺は労いの言葉をかけた。
「いえ、気にしないでください。敵は数十秒で殲滅できたのですが、あの女が戦いを挑んできたので、それに応じていたら時間が経っていただけなので」
思わず聞き返しそうになった。流石のユリウスでも、そんなタイミングで敵ではない相手からの挑発に応じるわけがないと思っていた。実際は、そう上手くはいかなかったようだ。とは言え、ユリウスを一方的に責めるわけにもいかない。原因は相手にもあるからだ。ただ、疑いたくなってしまう。戦っていた二人が、両方とも王族の護衛を務めていることを。
色々と聞きたいことはあるが、今は他にやるべきことがある。
事態は収束したとはいえ、全てが解決したわけではない。その為にも、シエナ王女とは話し合う必要がある。話をするために、俺は彼女を待った。
俺を気遣ってくれてのかは分からないが、思っていたよりも早く話の場を設けてくれた。話をするためにと案内されたのは、人気のない場所にある建物。そこには、シエナ王女の護衛である彼女もついてきた。
人目を気にするということは、周りに聞かれてはいけないことを想定してのことだろう。
「それで、何について話すの?」
「あの襲撃者たちについてだ。確実に俺たち二人を狙っていたぞ」
「そうはいっても、心当たりがないからね」
「流石に現段階で、アイツ等の動機を推理するのは不可能なことに近い。だが確実に、また何処かで襲撃されるだろうな」
「その根拠は?」
「俺が戦った相手が、背後に誰かがいるのをほのめかしていたからだよ」
シエナ王女と話していて分かったことが一つある。彼女は嘘をついていないということだ。俺を殺すために、一芝居うっているとも少しは考えたが、冷静に考えればありえない。動機も理由の一つだが、もし彼女が背後の人物だったならば、今回の襲撃は損しかしていない。
それに・・・・・
「襲撃を指示した奴が、どんな奴で、どんな理由なのかは関係ない。私の所有する場所を荒らしていったんだから、相応の罰を与えるわ」
明らかに、キレている。
さっきまでは、人目もあったから抑えていたのだろう。
怒る気持ちは当然のことだ。俺だって、自分の所有する物を壊されれば、怒りがこみ上げる。何より、アイツ等の存在は今度の俺の計画に邪魔でしかない。
だからこそ、彼女に話を持ちかける。
「アイツ等を殲滅するのに協力してくれないか?」
「協力?具体的には?」
「情報をくれれば、それでいい」
「協力と言うんだから、そっちが手にした情報も提供してくれるんでしょうね」
情報の交換。それで彼女は合意した。
彼女ならば、襲撃を受けても問題はないだろう。彼女自身の実力は分からないが、側に優秀な護衛がついている。
そして二人で話しあった結果、今回の事件は、王族に恨みを持っての犯行ということで公表することになった。
話が出来たのは、僅か十分ほど。
シエナ王女は直ぐに、王女として仕事に戻った。
俺も外に出て、事件の起きた場所に戻ろうとした。だが、扉の前で足が止まる。
扉の前に、『影』のリーダーであるルカが現れた。彼女には、他の仕事を任せていた筈。こんな場所に来るのは変だ。
何か重大な理由があるのだろう。事実、彼女の表情から焦りが感じられる。
こんなことは初めてだ。
「何かあったのか?」
衝撃的な情報でも伝えにきたのか。理想なら、今回の襲撃についての情報だっら嬉しいのだが、そんな嬉しい情報ではないだろう。
彼女の様子から察するに、良くない情報なのは確かだ。
実際、今も話すことを躊躇っている。それだげ、俺に伝えにくいことなのだろう。俺にとって良くない情報なんて想像するのが難しいが・・・・
数秒の間をおいて、ルカが閉じていた口を開いた。
「国王様が、お亡くなりになられました」
「・・・・・・・・は?」
一言で端的に伝えられたことは、言葉に長さには釣り合わないくらい重い内容だった。
想像していなかった内容に、少しの間、開いた口が閉じなかった。
何が起きた。それを考えるだけで、俺の頭を埋め尽くされた。




