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悪役になりたい王子の国づくり  作者: プルル二世
第一章
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第五王子

 ユリウスを王宮に連れてきてから、三ヶ月が経過した。当然、王子が奴隷を王宮に連れてきたことに周りは驚いていた。

 ユリウスは三ヶ月の間に、どんどんと体が成長していった。初めて会った時に比べると、体つきは大きく変わった。そして、ユリウスには、俺の執事兼護衛人の役を与えた。俺は試しにユリウスに剣を持たせてみたら、思っていた通り、剣士としての才能に満ち溢れていた。魔力量こそ平凡だが、剣技に関しては、教えて二ヶ月経った頃には俺と同等のレベルとなっていた。

 

「アレン様、紅茶をお持ちしました」


「ああ、ありがとう」


 ユリウスは要領がいい。そのおかげで、今では完璧な執事として働いてくれている。

 俺の右腕として充分な男へと成長していっている。俺が唯一惜しいと思ったのは、頭脳の面だ。八歳のユリウスは、これまで勉強をしてきたことがないという。今から学ばせるというのも考えたが、ユリウスと一緒にいる中で、その考えは徐々に消えていった。理由としては、ユリウスが何か思考して物事を進めていくタイプではなく、力で解決していこうとするタイプの人間だったからだ。

 俺が次に欲するのは、俺の脳となるような人間だ。しかし、今は優先するべきことが他にある。

 俺はユリウスと共に、自室を出た。王宮内の廊下を歩いていると、目の前から誰かが近づいてきた。


「そこにいるのは、不出来な弟じゃないか」


 前から近づいてきたのは、俺の兄である第五王子のグレントと、その護衛の騎士二名だ。

 第五王子のグレントは、俺より七歳年上で今は十四歳だ。そして何より、俺に暗殺者を仕向けてきた張本人でもある。毎回、会うたびに何かと突っかかってくる。いつもなら、関わらずに無視をしてやり過ごしているが、今日は違う。


「これはこれは、兄上じゃないですか。どうかされたんですか?」


「チッ、相変わらず何考えてるのか分かんねぇ奴だな。そんなことより、いつまでそこの奴隷を王宮に置いておくつもりなんだ?」


「いつまでとは可笑しなことを言いますね。俺が死ぬまでですよ」


「奴隷なんかを王宮に入れると、王族の品位が下がるんだよ。そんな使えないようなガキのせいで、王族の品位を下げられても困るんだよ」


「王族の品位?ですか。そんなものが、この国の王族にあったんですね?それと、ユリウスを使えないガキとおっしゃいましたが、兄上や、そこの護衛の騎士よりは価値がある人材だと思いますが」


 誰が見ても、俺が兄を挑発しているようにしか見えない筈だ。事実、俺も意識して挑発するように言葉を選んでいる。ただ、話していることは自分の本心でもある。

 短気なグレント兄さんは、分かりやすく感情が表情に出ていた。しかし、こんな場で王族が兄妹に手を出すことはあってはいけないことだ。それは、短慮なグレント兄さんでも理解していることだ。だからこそ、今すぐに殴りたくても踏みとどまっている。王族の品位を気にする人だから、尚のこと踏みとどまろうとする。

 とは言え、グレント兄さんが弟にこれだけ言われて、黙って帰る筈がない。


「そこの奴隷より、俺の方が下だと?ふざけるなよ。だったら、お前の奴隷と俺の護衛の騎士で決闘をしようぜ。それで、優劣がハッキリとするからな」


「いいですよ」


「ただし、お前の奴隷が敗けたら、その奴隷には死んでもらうからな」


 想定内の提案だった。自分で戦わないことも、ユリウスの命を賭けさせようとすることも。そうすれば、正当な方法でユリウスを殺すことができる。

 当事者であるユリウスは何の反応もしていなかった。ユリウスからすると、気にするほどのことではないということだろう。

 俺はグレント兄さんからの提案を受け入れた。

 決闘の場所は、王宮内にある訓練所となった。

 

「アレン様、僕は手加減した方がいいでしょうか?」


「いや、本気でやって構わない」


 訓練所につくと、護衛の騎士の一人とユリウスが向かいあった。二人が手にしているのは、木剣ではなく真剣だ。これも、グレント兄さんからの提案だ。

 明らかに、相手は余裕をこいている。実際、何も知らない者が見たら、すぐに対決を止めるだろう。大人対子供という一方的に思える組み合わせだ。


「オイ、今すぐ降伏してグレント様に謝罪するのならば、楽に殺してやるぞ」


「・・・・・・」


「オイ貴様、聞いてい・・・・・・」


 騎士の男の首が宙に舞った。見ていたグレント兄さんと、もう一人の騎士は何が起きたのか理解が追い付いていないようだ。

 ユリウスが行ったのは単純なことだ。騎士の男が喋っている間に、自身の魔力を足に集中させて驚異的なスピードで一気に距離を詰めた。その流れのまま、敵の首を斬りはらった。グレント兄さんたちは、一連の動きを目で追えていなかった。

 ユリウスが行ったことを口頭で聞けば、簡単なことだと勘違いする者も少なくはないだろう。ただ、二人が一連の今起こったことを理解できていないのが、簡単なことではないという何よりの証拠だ。


「剣を握った者の前で、お喋りなんて斬ってくれと言っているようなものだぞ。もう聞こえてないだろうけど」


 闘いとも言えぬ闘いを終わらせたユリウスが戻ってきた。

 グレント兄さんたちは死体を見て今起きたことについて理解が追い付いようだ。分かりやすいくらい驚いた顔をしていた。何に驚いているのかは、俺には分からないが、結果が兄さんにとって予想していないことなのは明白だ。

 決闘も終わり、訓練所から立ち去ろうとした。それを呼び止めるようにグレント兄さんが寄ってきた。


「どうして、あの騎士を殺したんだ!」


「兄さんは何を言っているんですか?先にユリウスの命を賭けにしたのは兄さんですよ。まさか、殺そうとしておいて自分たちは命を賭けないなんてことはありえないでしょう」


「な、何を言っているんだよ。お前・・・」


「兄さんも、そのうち理解できるようになるよ」


 俺は兄さんをその場に残して、訓練所から出た。

 これで、グレント兄さんも俺に暗殺者を仕向けるのは止めようとするだろう。少し荒療治的な感じがするが、想定の範囲内でことは進んだから良しとしよう。

 

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