コロシアム②
コロシアムの一回戦が始まった。
俺から見て右手側の男は、大きい斧のような物を武器にしている。見るからにパワータイプな感じだ。対する相手の女は、剣一本だけで、身軽な装備となっている。
パワー対スピードといったところだろう。
「おい女、殺されたくなけりゃあ、とっとと帰んな。俺は手加減なんてする気はねぇぞ!」
「・・・・・・・・」
「何も言わねぇってことは、死ぬ覚悟があるんだな」
大柄な男の話す声が、観ている俺たちの方にまで届いてきた。一方で、対戦相手の女は男の言葉に微塵も反応を示していない。当然、それに対して男は、分かりやすく怒った反応を見せた。
感情が抑えきれなかったのか、男の方から距離を詰めていく。それだけでも、観ている客は沸いている。
今はまだ、特段驚くような展開にはなっていない。
両者とも攻撃を仕掛けない中で、先に動いたのは、やはり男の方だ。
斧での大振りな攻撃から入った。様子見の攻撃ではなく、確実に敵を殺そうとしている攻撃だ。ただ、攻撃のスピード自体は速くはなく、簡単に避けることが出来るだろう。そう思っていたが、彼女の行動は違った。
対戦相手の女は、避けるのてはなく、剣一本で攻撃を受け止めたのだ。とても重い攻撃を受け止められるような腕には見えない。
「彼女なら、魔力は使っていないよ」
俺が真っ先に抱いた疑念を、隣に座るシエナが晴らした。
シエナの言った通り、対戦相手の女からは魔力を使用した気配は感じられない。だからこそ、目に見えている光景が信じられないのだ。
一回り、いや、二回り以上も自分より大きい相手の攻撃を受け止めることは容易ではない。それを観客も分かっているからこそ、コロシアム内が静まり返ったのだ。とは言え、静かになったのは一瞬で、想定外の展開に盛り上がりを見せる。
まぐれではないことを証明するかのように、続く攻撃を全て涼しい顔で受け止めた。
それを見ている俺は思う。あの女は何者なのか。観客も少なからずは思っている筈だ。
「強いでしょ?あの子」
「あの女を知っているのか?」
「名前は、ベレッカ。あの子は私の専属護衛だからね」
さらっと、とんでもないことを言いやがった。まだ全てを、観た訳ではないが、あのレベルの護衛が付いているとは・・・・・・
しかも、その護衛を自身が主催するコロシアムに出場させているとは思ってもいなかった。
戦いは未だ続いているが、見るからに戦いにはなっていない。ベレッカという女は攻撃をするタイミングは何度もあるのだが、一度も自分から攻撃を仕掛けていない。攻撃のタイミングを見逃していることはないだろう。明確な理由は分からないが、攻撃を受け止め続けている。ただ、その甲斐もあって、明らかに対戦相手の男が疲弊してきている。攻撃をするたびに聞こえていた男の声も、徐々に聞こえなくなってきた。
そして、攻撃を続けていた男の手が止まってしまう。
「さようなら、おじさん。もう楽しめそうにないから、終わらせるね」
ようやく発したベレッカの声が聞こえてきた。か細いながらも、何を言ったのかは観客全員が聞こえただろう。そして、これまでの戦いを観たからこそ察した筈だ。この戦いが終わることを。
だが、ベレッカは剣を鞘に納めた。それを見た観客は動揺する。もしかしたら、情けをかけて攻撃をしないのではないかと。
しかし、そうではなかった。
ベレッカは、疲弊した対戦相手に近づくと、何度も殴りつけて壁にまで吹っ飛ばした。しかも、自分が攻撃された回数と同じ回数をキッチリと返す形で。
壁にまで飛ばされた男の有り様は酷いものだ。装備していた鎧はボロボロとなり、顔は認識できないくらい血で染まっていた。引いている者は僅かにいるが、大半の観客は興奮を表現するように歓声を響かせる。
そして、戦いの勝者がコールされた。
「どうだった?コロシアムは」
「たしかに面白いが、ここまで圧倒的だと戦いよりも個人に目が向いてしまうな」
「言っておくけど、あの子は私の専属護衛だから、引き抜きはダメだよ。それに、貴方にも立派な護衛が二人もいるじゃない」
正直、この戦いではベレッカの実力は片鱗すらも見せていないだろう。
せっかくならば、彼女の実力を明らかにするのは、アイツに任せるか。
「あの馬鹿は、手加減を出来るんですかね?」
「多分、無理だろうな」
側で観戦しているフレンの懸念は、ユリウスが手加減を出来るかどうかだ。フレンも、この戦いのを見て、ある程度は感じたのだろう。コロシアムの出場者の戦いのレベルを。
おそらく、一回戦ならば、今の戦いのように一方的となることの方が多い筈だ。
ただ、観客は一方的な戦いでも盛り上がりを見せていた。
そして、間を置くことなく、次の戦いが始まる。
一試合目と同様に、それぞれ入場をした。だが、一試合目の雰囲気とは違った雰囲気となる。左側から入場した男の姿を観客が目にした瞬間、一気に大ブーイングが起きた。
「何だコレは?」
「あの男は、サラングレッジという名で、このコロシアムに何度も出ているけど観客からは嫌われているのよ。いわゆる、コロシアムにおける悪役みたいな扱いね」
「ほう?どんなことをしたんだ?」
「それは、観てれば分かるわ」
コロシアムにおける悪役。そう言われる男が、どんな戦いをするのかは気にはなる。
さぞかし素晴らしい試合をしてくれるに違いない。
観客は、一体となってサラングレッジの対戦相手を応援している。サラングレッジはと言うと、アウェイと言える状況でも全く同様をしていない。むしろ、余裕さえ見せている。何度も出ているだけあって、この空気感に慣れているのだろう。
両社とも手にする武器は短剣で、ベレッカと同様の軽装だ。体格にも差がなく、さっきの試合とは違って、パッと見ただけでは何も分からない。
とっちが勝つのか。気になる第二戦の始まりがコールされた。




