笑顔
ミランダ姉さんからの唐突な問いに、俺は少しだけ考える時間をとった。俺には、ミランダ姉さんの問いの真意が読めなかったからだ。
「どういうつもりと言われましても、何のことだか分かりませんから、答えようがありませんよ」
「とぼけてんじゃないわよ。どうしてアンタが、あんな役を買って出たのかって聞いてるのよ!」
ミランダ姉さんは、俺がウルシェラ王国へ行くことに不信感を抱いているのかもしれない。
姉さんからの問いを、上手くはぐらかすという手もあるが、姉さんに対しては悪手だ。余計な詮索をされる可能性がある。それだけは、絶対に避けたい。
「僕はただ、姉さんや兄さんたちが行くよりも、子どもの僕が行けば、敵対心はないと思ってもらえるからですよ」
「まぁ、それもそうね」
姉さんは渋々納得した。姉さんのイメージする俺ならば、答えても不信感を抱かないであろう内容だ。
無論、俺からすれば建前でしかない。
「とにかく、変なことを起こそうとするんじゃないわよ!」
釘を刺すように言い放つと、言いきったからなのか何も言わずに去っていった。去っていくミランダ姉さんの背中を見ながら思わず言葉が漏れて出てしまう。
「結局あれは、何だったんだろうな」
「心配してるんじゃないの?一応、弟なんだし」
「そういうものか?」
「そういうものだよ。残念なことに、私の主様は、そういったことに鈍いようだけど」
俺の言葉を聞いていたフレンが、呆れ気味で答えた。
たしかに、フレンの言葉は事実なのかもしれない。そんなことを考えていたのは僅かな時間で、当初の予定であるウルシェラ王国へ向かう準備に取り掛かった。
準備とは言っても、そこまで時間をかけるほど大層なものではない。
準備をしている最中に、国王の護衛騎士の一人が、書状を届けたと報告に来た。
騎士が立ち去ると、すぐさま『影』たちを呼ぶ。
「『影』」
「はい、何でしょうか?」
俺の呼びかけに、一秒も経たずに目の前へと現れた。
「準備をしてくれと、彼女に伝えておいてくれ」
「かしこまりました。そのことに関連しまして、一つ報告があるのですが、彼女から何か甘い物を持ってきてほしいとのことです」
「そうか、分かった」
彼女と伝えただけでも、『影』たちには理解出来たようだ。
俺からの指示を聞くと、すぐに実行へと移した。
そして、タイミングよく、こっちの準備も終わる。
「いつでも行ける準備はできました」
今回は、相手に警戒してもらわない為という理由で、少数での訪問を国王に命じられた。その為、用意された馬車は一台だけだ。護衛には、フレンやユリウスの他に、俺の所有する騎士団の騎士たち二名がつくことになった。
現在の時間としては、陽が落ちる時間帯となっている。陽が落ちてから、馬車を進めることには相応のリスクが伴う。それでも俺は、出立する命令を下した。
「そういえば、どれくらいの時間を要するのですか?」
「このペースなら、一日もあれば着くだろ」
戦をした相手の国へと向かうと言うのに、緊張感は一切なかった。
当然、常に警戒心は持っている。だが、少し前に戦をしていたのを、忘れていたかのようだ。事実、二人はウルシェラ王国のオススメの場所の話しかしていない。
「アレン様、折り入ってお願いがあるのですが・・・・」
フレンと話していたユリウスが、遠慮気味に何かを頼もうとしてきた。俺としては、ある程度のお願いは聞くつもりでいる。とは言え、ユリウスが言い躊躇っている様子を見ると、少しだけ考えてしまう。
「何をしてほしいんだ?}
「えっと、その~・・・ウルシェラ王国の名物であるコロシアムに連れて行っていただけたらと思いまして・・・・」
「なんだ、そんなことくらいなら、用が終わった後にでも連れて行ってやるさ」
結局、俺の護衛の一人は、闘いに関することしか考えていなかった。
そんなユリウスに意見するのが、護衛の一人であるフレンだ。
「そんな場所よりも、行くなら、国内最大の図書館とされている場所でしょ。アンタも、そこに行って少しは闘い以外のことも学びなさい」
ウルシェラ王国に着くまで、二人の議論は続いた。最終的には、俺にどちらの方がいいかと振られる始末だった。どちらとも言うことはなく、両方見て回ることで何とか話は落ち着いた。
くだらない話し合いのおかげで、休むことなくウルシェラ王国にまで着くことが出来た。
王国の国境から、さらに二、三時間をかけて王都内へと立ち入る。
あまり見ない馬車だからなのか、民衆たちの視線は少なくはなかった。
「アレン様、こちらみたいです」
馬車が停まると、ユリウスが先に降りて、目の前の建物を指差した。
明らかに、王城なのは一目瞭然だ。ただ、俺たちの国の王城とは、ひと味違う雰囲気が感じられる。
そこへ、一人の女性が近づいてきた。
「ようこそ、おいで下さいました。私は、この国の第一王女であるシエナと申します。以後お見知りおきを」
出迎えったのは、近づいてきた女性からの丁寧な挨拶と一礼だった。
どうやら、優しく出迎えてくれるようだ。
彼女から向けられた笑顔に、俺も笑顔で返した。その笑顔が意味するものは、両者にしか分かりえないことだろう。




