宣戦布告③
「目の前で見ると、壮観というか何というか・・・・凄い数だね」
そう口にするフレンの目線の先には、数多くの兵士が並んでいる。顔を認識できない程度の距離感ではあるが、敵兵なのは確かだ。
同等の数が、自軍にもいるが、敵として目の前に並んでいると、迫力が違う。
それに加えて・・・・・・
「明らかに別格なのが、三人ほどいるな。おそらく、そいつ等が指揮官あたりだろうな」
「そうだね、これだけ離れてるのに、三人の魔力が感じ取れるよ。貴族かな・・・・」
フレンとユリウスも、魔力量の多い奴に気づいているようだ。
互いに兵士を配置してから、三十分は経過したが、敵兵からは動く気配が感じられない。
ルート兄さんからの命令では、敵兵が動くまで待機ということだ。先に動いてしまっては、正当性がなくなるからだという。
「動かないですね。何を待っているんでしょうか」
戦うことしか頭にないユリウスは、痺れを切らしそうだ。その証拠に、剣の柄を握っている手を離そうとしない。
「待ってるも何も、敵は警戒してるんでしょ。自分たちが大軍を配置しておいて、今になって消極的とは、カッコ悪いね」
「そう言ってやるなよ。もしかしたら、何か凄い策があるのかもしれないぞ」
とは言ったが、その可能性はないと思っている。ここで、変に深読みしてしまえば、自軍の混乱に繋がるかもしれない。
僅かな動きも見逃さないように、敵兵の様子を見続ける。
様子を見続けていると、敵兵が進軍を開始した。
その状況を、後方で指揮するルート兄さんへ伝える。
「敵兵が、進軍を開始しました。おそらく、三つの部隊に分かれて攻めて来ると思われます」
俺が報告してからの、ルート兄さんの対応は早かった。
「まず、ギールが率いる部隊が、正面から先陣をきってくれ。そして、アレンとミランダが率いる部隊は、左右から進軍をしてくれ」
ルート兄さんからの指示が出された。
指示を受けて真っ先に動いたのが、ギール兄さんの部隊だった。ルート兄さんの言葉を全て聞く前に、馬を走らせていた。
「僕たちの部隊は、左から攻めていきます。その為にも、皆さんの力を貸してください」
後ろで控えている五千の兵士たちに、言葉をかけた。
ルート兄さんからの命令ということもあって、彼らは、俺の言葉を素直に聞き入れた。
武器を手にした兵士たちは、進行を開始した。
俺やユリウス、フレンの他に、五百の兵士は馬に乗り移動をしている。隊列としては、歩行で進む者たちを前にして、馬に乗って進む者たちを後ろにしている。
この隊の指揮官である俺は、指示を送る為にも、列の一番後ろで状況を見定める。
「近づいてきましたね」
ユリウスが、敵軍に反応した。
両軍が進んでいるため、すぐに互いの兵士の顔が見える距離にまで近づいた。
そうなれば、俺がかける言葉は一つしかない。
「突撃せよ!」
「「おおぉぉ!」」
俺の言葉に、兵士たちは雄叫びをあげて応えた。
兵士たちは、進むスピードを上げた。それに合わせて、こちらと同等の数の敵兵も段々と歩みが速くなる。
気が付いた頃には、ぶつかり合っていた。
「始まったな」
兵士の声と同じくらい、鉄が叩かれた音が響く。
既に前線では、死者が出始めている。
それでも、剣を振るう手を止める者などいない。両軍の兵士の血が流れ、死体の山だけが築かれていく。
「五分五分だね・・・」
当初の予想通り、個々の兵士に差は感じられない。
このまま戦いを続けても、時間と共に互いの兵士が死んでいくだけだ。
だからこそ、俺は次の指示を出す。
「弓を構えてください」
俺が指示を送ったのは、馬に乗って後ろで待機している兵士たちだ。
指示を受けた馬上の兵士たちは、弓を構えて矢を放った。俺の指示の意図を理解していたのか、狙いを言わなくても、全員が同じ場所に矢を放った。
狙ったのは、両軍の前線にいる兵士が戦っている場所だ。
前線で多数の兵士が戦う中での、五百の矢の雨は、敵兵を射抜いていった。だが、上手に敵兵だけが射抜かれることはない。
敵兵よりは少ないが、自軍の兵士も弓の雨に巻き込まれた。
「これで、少しは数に差が生まれただろう」
味方の兵を犠牲とした策だが、文句を言う者は誰一人としていない。それが、兵士としての責務だと分かっているから。何より、敵兵の死体に刺さる弓の数が、成果を示している。
矢の雨で、多くの兵士が死んだと言うのに、敵兵は止まることはなかった。
俺は再び、弓を放つよう指示を出した。
だが・・・・
「減りましたね」
ユリウスの言葉通り、明らかに弓に射抜かれる者が少なくなった。
一回目は奇襲のおかげで、多くの兵士を仕留めることができた。しかし、二回目ともなれば、ただの弓など簡単に当たる筈もない。
どうやら、この戦に勝つには相応の犠牲を覚悟する必要がありそうだ。




