宣戦布告
第三王女のエルーナ姉さんが部屋に突如訪ねてきた翌日となった。
あの後エルーナ姉さんは、頼み事だけを言うと、それ以上の話はせずに帰っていった。部屋には、僅か三分ほどしか滞在していなかった。
頼みごとを、やるかやらないかとは、聞いてこなかった。まるで、俺が頼み事を聞くのを前提に話しているようだった。
昨日の、エルーナ姉さんからの頼みについて、早速フレンが触れる。
「受けるの?あの人の頼み事」
「ああ、受けるつもりだ。まさか、あんな頼みをしてくるとは思わなかったが、受けておいて損はないだろう。こっちが負う負担は大きいが、その分、エルーナ姉さんに恩が売れるのは大きいからな」
「私も別に良いんだけどさ・・・あの人、何を考えているか分からないんだよね」
「何を言ってるんですか。相手が何を考えていても、こちらに害があれば排除する。それだけです」
フレンもユリウスも、エルーナ姉さんからの頼みを聞いた時に、動揺は見せていなかった。内容としては、驚いても不思議に思わないものだった。それでも動揺しない二人は流石と言うしかない。
とは言え、余裕で居られるほど簡単ではないのも事実だ。それはエルーナ姉さんも理解しているのか、期限を指定してくることはなかった。
「でも、いつ決行するの?早くやるなら、すぐにでも計画を立てなきゃ」
「そこまで急ぐつもりはない。今は王位戦の方を優先して、タイミングが良ければ決行に移そう」
「たしかに、王位戦に関わりがない内容ではないしね」
二人とも、俺の言葉に納得の反応を示した。
とりあえず、何とか話はまとめることが出来た。今日は、この話にこれ以上の時間はかけられない。
予定の時間になると、騎士の恰好をした男が部屋を訪ねてきた。今回は、前回のエルーナ姉さんと違い、予定していた訪問だ。
訪ねてきた男は、王直属の騎士である。
男に連れられて来たのは、王城の中で最も気品のある場所とされている王の間だ。
そんな場所に呼ばれたのが、俺を含めた五人の王族たち。
「皆、よく集まってくれた。そして何より、勝ち抜いたことを称えよう。色々と、問題はあったが、お前たち五人の中から、我の後を継ぐ者が現れるのを心待ちにしておるぞ」
入って早々に、王が言葉を発した。
玉座に座る姿の王は、多少なりとも、王の風格が感じられた。堂々と座る王の表情は、思っていたよりも明るいものだった。とても数日前に、息子を亡くした父とは思えない。父である以前に、一国の王であることが優先されるのだろう。
前世で、同じような態度をとっていれば、冷たい人間や、非情な奴だと罵られるのは間違いない。だが、この国や世界では、そういった風潮が無い。だからこそ、俺は新鮮味を覚える。
「父上、我々を呼び出したと言うことは、王位戦の次の内容について教えてくれるんですね」
「ああ、もちろんだ」
第一王子からの確認の言葉に、王がハッキリと答えた。
五人の中に緊張感が走る。
玉座に座る王が、立ち上がった。そして、何かを話そうと、口を開いた。
だが、それに待ったをかけるように一人の騎士が部屋へと入ってきた。
「し、失礼します」
「貴様、こんな時に無断で立ち入るとは何事だ!」
「申し訳ありません。至急の用件でして・・・・」
この場に、ただの騎士が入ってくることは許可されていない。下手をすれば、罪に問われる可能性すらある。それを知っているうえで、入ってきたのならば、それ相応な用件なのだろう。
何より、男の流す汗の量から、どれだけ急ぎで来たのかは伝わってくる。
「用件?話してみよ」
「はい、先ほど入った情報なのですが、隣国であるウルシェラ王国が我が国に宣戦布告をしてきました」
「何だと!今の状況を分かっている範囲で教えろ」
「現在、ウルシェラ王国は既に軍を配置しており、目測ではありますが数は三万五千ほどです」
この場にいる全員が、男の報告に驚きを隠せていない。
勝手に入ってきたことは既に忘れているくらい、王も信じられないといった表情をしている。
男の報告が事実であるならば、王位戦どころの話ではない。いや、この場で男が嘘を吐くのにメリットなどない。それを父も兄姉も思ったからこそ、虚偽とは疑わなかったのだろう。
突然の報告に、王は頭を抱えた。
「おい親父、俺が軍を指揮するぞ」
「まぁ待て、敵軍の数はかなりのものだ。こっちは、四つの軍を配置する。四つの軍の指揮は、それぞれ第一王子、第三王子、第二王女、第六王子に努めてもらう」
「「ハッ!!」」
王からの指示が言い渡された。
驚きはしたが、焦る者は一人もいない。第三王子のギール兄さんに至っては、嬉しそうな様子だ。
軍の指揮には、俺も任命された。
この世界に来て、何度か戦のシュミレーションをしたことはあるが、実戦は初めてだ。
俺は自身の剣を手にした。これから戦が始まるのだと実感する。




