不穏
次の王位戦の前日となった。
街中は嘘のように盛り上がりを取り戻した。数日前に、第二王子が死んだことを騒ぎ立てる者はいない。次の王を決めることの方が優先だと考えているのだろう。
ただ、民衆の様子など全く気にしていない者たちが、ここにいる。
「いい?ここが、ユーリシア王国で、この盛を挟んだ先にあるのが、ウルシェラ王国なの。分かった?」
「えぇ、ここがユーリシア王国で、ここがウルシェラ王国です」
「ちっがーう。もう、何でこんな簡単なことが分からないのよ」
俺の部屋で、フレンがユリウスに勉強を教えている最中だ。俺は必要ないと言ったのだが、フレンに甘やかすなと言われてしまった。
せっかくならと、フレンに先生を頼むことにした。だが、思っていた通り上手くいっていないようだ。まだ始めて五分も経っていない。
地図を広げて、指を指しながら必死に説明を続けている。
「な?理解しただろ?ユリウスには、勉強なんて必要ないんだよ」
「言いたいことは分からなくはないけど、これはマズイでしょ」
「とは言ってもな・・・・・・」
「考えてもみてよ。王子の、いや、次期国王の側近が、こんなに馬鹿だなんて知られたら・・・・」
フレンの言うことは理解できる。常識的に考えれば、フレンの言う通りにするべきだろう。
ただ、常識はずれなのは、今に始まったことじゃない。奴隷だった男を側近にした時点で、常識はずれの印は押されている。
今更、常識外れな行動の一つや二つなど気にすることでもないだろう。
何より、当の本人が何も気にしていない様子だ。
「勉学が出来なくても、圧倒的な力を身に着ければいいだけのことです。力さえあれば、文句を言ってくる者も減っていくでしょう」
「すっごい脳筋的な考えだね・・・。ねぇ、ホントに、これでいいの?」
「一応、言葉遣いは丁寧だし、言葉を交わさない限り馬鹿がバレることはないだろ」
フレンの言葉通り、ユリウスは力をつける度に脳筋になっている気がする。
俺としては、強くなってくれれば文句はないのだが・・・・・
フレンの表情から、納得のいっていないのが伝わってくる。
「時間が経てば、ユリウスも色々と覚えてくるだろうさ。それに、今は王位戦の期間中だ。そんな時に、ユリウス一人に時間は割けないぞ」
「アレン王子が、そこまで言うなら私もこれ以上は言わないけどさ・・・」
開始五分も経たずに、ユリウスの勉強会は終わった。
そんなことよりも、話し合うべきことが多くある。
話の話題が変わると、雰囲気も一気に変わった。先程とは違い、冗談を言うような空気感ではなくなっている。
基本は俺とフレンが二人で話し合い、側でユリウスが聞く形が定番だ。
机の上に置かれた地図を囲うようにして、話し合いは行われた。
「それじゃあ、一先ず、この作戦で進めていくってことでイイ?」
「そうだな。それがベストだろうな」
机の上では、話し合いに使った物が散らかっている。
こんな場を誰かに見られでもしたら、捕まるのは間違いないだろう。今この瞬間、誰かに見られたらという懸念が少しでも頭によぎったのが幸運かもしれない。
タイミング悪く、誰かが部屋に入ってこようと扉を叩いた音が聞こえてきた。
俺は追い返そうとしたが、声を聞いて直ぐに、追い返すのをやめた。
咄嗟に、ユリウスたちと机の物を片付ける。
「おじゃまするね・・・」
「ようこそ、エルーナ姉さん」
部屋に入ってきたのは、姉の一人である第三王女のエルーナだ。
まさかの人物の訪問に、驚いていないと言えば噓になる。
第三王女とは、一度しか会ったことがない。それなのに、このタイミングで俺の部屋に来た理由が何かあるのだろう。
エルーナ姉さんが椅子に座ると、俺から話を始める。
「エレーナ姉さんが、俺の部屋なんかに何の用があるんですか?」
「そうだねぇ、とくにようは・・・ないんだけどねぇ・・・・」
彼女は、王族の中で最も独特な人間と言える。それ故に、彼女と話す時は、彼女に会話のリズムを持っていかれるのに気を付けなければならない。
普段は滅多に王城から出ることがない為に、民衆からはミステリアスな王女と言われている。
王位戦には参加していないが、以前の王位戦の開幕を告げる時に姿を見せると、一番騒がれていたのは間違いない。
そんな第三王女は、俺の目を真っ直ぐ見続けていると、何かを思い出したような表情を浮かべた。
「あのねぇ、たのみたいことが、あるの・・・・」
「頼みたいこと?」
「そう、きみなら、きいてくれそうだから・・・・」
第三王女からの頼み事。俺には全く予想の出来ないことだ。
だからこそ、彼女の話を聞く価値があるかもしれない。
このタイミングで来ると言うことは、王位戦に関わりのある内容の可能性が高いだろう。そうじゃなくても、わざわざ第三王女が来たのだ。相応の対応はするべきだろう。
彼女が、どんなことを考えているかは知らないが、俺は自分の利益の為に動くだけだ。




