誰の為
目を覚ますと、一日経って陽が昇っていた。
昨日よりも体が軽くなっているのを感じる。やはり、俺は疲れていたようだ。
「おはようございます」
ユリウスがベッドの側に待機していた。
俺が起きたことを確認すると、いつものルーティンの為に側を離れた。
ベッドから出て、着替えを済ませていく。
着替えると、ユリウスが淹れた紅茶を飲む。
一息つきながら、ユリウスとの話を始める。
「それで、何かあったか?」
「はい。アレン様が眠っている間に、次の王位戦について発表がありました」
「どんな内容だ?」
「次の王位戦は、一週間後に行うそうです」
俺が寝ていた時のことについて報告をしてくれた。
話を聞く限り、想定外のことは起こっていないようだ。兄さんや、姉さんたちも特に動きは見せていないらしい。
話を終えると、部屋を出た。
王城内からは、昨日のような忙しなさは感じることはなかった。
「おい、どこに行く気だ!」
王城内を歩いていると、後ろからの力強い声に呼び止められた。
声を聞いて、誰なのかは容易に想像できる。だからこそ、聞こえないフリをして立ち去りたい。しかし、それは叶わないことだ。
寄ってきているのが足音で分かる。
「ギール兄さんじゃないですか。どうされたんです?」
「チッ、その気味が悪い喋り方は止めろって言っただろうが。いや、そんなことよりも、どういつもりだ?」
「何のことでしょうか?全く想像がつかないのですが」
「しらばっくれるな。お前が持ちかけてきた計画と、結果が違うじゃねぇか」
分かりやすく感情を表に出している。
今のギール兄さんには、俺がどんな言葉を並べても納得することはないだろう。ただ、俺も引き下がるわけにはいかない。引き下がってしまうと、ギール兄さんを調子づかせてしまう。
だからこそ、平然と対応する。
「たしか、ギール兄さんに持ち掛けた計画は、ギール兄さんが第二王子のデマを流して陥れる。そして、あわよくばギール兄さんの好感度を上げようという作戦でしたよね」
「ああ、そうだ。だが、計画と違うじゃねぇか」
「違うと言われましても、あの場で第二王子を殺したのは、ギール兄さんですよ。仮に、殺さず抑え込んでいたら、今頃は英雄扱いされていたでしょう」
「ッ・・・・・・!」
ギール兄さんは、言い返してこなかった。
通路の真ん中だけあって、周囲の視線を感じる。それは、ギール兄さんも同様だろう。故に、この場では、これ以上の追及はなかった。
言い足りなさそうな表情で去っていった。
立ち去るギール兄さんの背中を見てフレンが呟く。
「イイの?恨まれて、何されるか分からないけど・・・」
「その時は、何とかするしかないだろうな」
王城内では貴族たちが話し合う姿が、多く見られる。
残っている王族の誰につくべきなのかを悩んでいるのだろう。
貴族にとって、王位戦は自分の立場を大きく左右されるタイミングでもある。当然、王になった王族側についていた貴族は、出世する者が多い。逆に、敵対していた者は、貴族としての立場が弱いものとなる。その為、誰につくのか見極めるのが重要だ。
そんな中で、貴族の内の一人が話しかけに来る。
「アレン王子じゃないですか。今日は、何かご予定でも?」
「いえ、今日は特に予定はないですよ」
「そうですか。それよりも、先日の演説は素晴らしかったですね。流石は、ユーリシア王国の第一王女。そんな彼女と繋がりのあるアレン王子も流石としか言いようがありません」
分かりやすく機嫌を取りにきた。
言葉にはしていないが、俺につこうとしているのだろう。
男の言葉に、肯定も否定もしない。ただ受け流して、その場を離れた。
「王族の争いも凄いけど、他の貴族同士での争いも大概だね」
「そりゃあ、奴らからしても大一番だからな」
側にいるフレンとユリウスも、王城内での貴族たちの雰囲気を感じ取ったようだ。
王族が歩くだけで、戦う時のような空気感となる。
この空気感の中で、戦い抜いた者が王として君臨することになるだろう。
貴族たちの熱量は、王族たちを焚きつけるのに充分なものだった。




