休み
翌日になると、事は動き出していた。
第二王子の暴走や、死亡については公表せざるを得なかった。流石に、あれだけ多くの民衆に見られていては、隠蔽など出来る筈もない。
最初こそは、第二王子の暴走を止めた第三王子を英雄視する声が多く上がった。だが、その声も徐々に変わっていく。
一夜を明けた頃には、民衆の意見が二分化していた。
「やっぱり、やり過ぎだったのでは?」
「しかし、ああでもしなければ、被害は拡大していたぞ」
王城内での、とある貴族たちの会話が耳に入った。どうやら、貴族の中でも意見は割れているようだ。第三王子の行動は正しかったと言う者がいれば、殺す必要はなかったと言う者に分かれている。
そんな状況の中、国王は何も言わない姿勢を見せていた。
事の中心人物である第三王子は現状に対して苛立っている。無理もない。自身の評価が、急激に変わり始めているのだから。ましてや、王位戦の真っ只中で。
ただ、どの事情も俺には、どうでもいいことだ。
「紅茶をお持ち致しました」
「ああ、ありがとう」
ゆっくりと紅茶を口にした。
部屋の中は静かで落ち着いた空間だ。だが、落ち着きを感じさせないくらい、王城内は取り乱している。第二王子と第三王子を推していた貴族を中心に。
向かいに座るフレンが、何かを聞きたそうにしている。
俺は、どうかしたのかと聞いた。
「死なせて良かったの?一応、あの暴走状態から戻せるかもしれないのに・・・・・・」
「たしかに、まだ利用価値はあったかもしれない。ただ、それ以上に生かしておいた時に面倒になるかもしれないと思ったからな」
「面倒?特に脅威になりそうな実力はなさそうだけど・・・」
「俺が面倒だと思っているのは、実力じゃない。第二王子のサイスは、王族の中で一、二を争うくらい正義感の強い男だ。それに、諦めが悪い」
「そう言うことならば、あの薬品を渡して正解だったね」
「そうだな。どうやって薬品を渡して、使わせるかは悩ましかったが、ルカを筆頭に『影』たちが上手くやってくれたよ」
決行した作戦について話し合いをした。今となっては終わったことだが、話しておいて損はない。むしろ、今後の為と思って、話を深めることを重要視している。
話を続けていると、扉の方から物音が聞こえてきた。咄嗟に、扉の方へと目を向ける。
何故かは知らないが、閉じていた筈の扉が開いていた。その側には、メイドの恰好をした女が立っていた。おそらく、彼女が開けたに違いない。
「な、何を話してるんですか・・・・・」
どうやら、彼女には話を聞かれてしまったようだ。
信じられないといった表情をしている。
信じられないのは俺自身だと言いたい。まさか、人が来たことに対して気付かなかったとは。それほどまでに、浮かれていたのかもしれない。
話を聞いた彼女は、怯えながら立ち去ろうとしていた。当然、逃がすつもりはない。
ユリウスに捕まえるように命じた。
「どうして俺の部屋に来たのか聞いてもいいか?」
「ち、違います。私はただ、ここを通ろうとしただけで、それで・・・・・」
「まぁいいや。どのみち、話を聞かれたのならば、生かしてはおけないからな」
「そ、そんな、誰にも言いませんから、命だけは・・・・」
自身の危機を察したのか、必死に命乞いをしてきた。
どれだけ命乞いをしようとも、俺の判断は変わることはない。
『影』の者たちを呼び寄せて、女の抹殺を指示した。バレない為に、入念な偽装工作も行うことも付け加えた。
女は、死ぬ寸前まで命乞いを続けた。とりあえず、何も無かったことに出来そうだ。
それよりも俺は、言いたいことがあった。
「どうして、俺に教えなかったんだよ。気づいてたんだろ?」
「たしかに気付いてはいましたが、てっきりアレン様も気付いているものかと。わざと部屋に入れて、何か作戦があるのかと思っていました」
ユリウスの言葉に反論の言葉がない。ユリウスは、最善の判断をしていた。
問題なのは俺の方だ。
そう思っていると、少し足元がふらついた。
「大丈夫?」
「ああ、問題ない。少しふらついただけだ」
見せたことのない姿に、珍しくフレンが心配そうな様子を見せた。
女の入室を許したのは、浮かれていたのが原因だと思っていた。しかし、違うことが今わかった。俺は疲れが溜まっていたようだ。
思えば、ここ最近は寝る時間は短かった。
どれだけ膨大な魔力を有して、前世の記憶があったとしても、十三歳に満たない子どもであることに変わりはない。無理に動き続けるのにも、限界はある。
幸い、今は時間が充分にある。
「俺は少し寝るから、特に大事なこと以外は、お前たちで対処してくれ」
ユリウスたちに一言だけ告げた。そのまま俺は、ベットへと倒れ込んだ。寝転がってから、意識が遠のいていく時間が早かった。いつもなら、襲ってくる眠気に抵抗していた。ただ、今日は抵抗することなく眠気に誘われていった。
再び目を開けた時には、万全な状態となっているだろう。




