正しい事
まもなく投票が開始される。
その投票方法が、国王によって発表された。方法自体は、シンプルなものだった。簡易的な建物が建てられ、その中に国王が入る。民衆は一人ずつ建物の中に入っていくという内容だ。
当然、建物周辺の警備に抜け目はない。
「あれでは、どうなっているのか分かりませんね」
ユリウスの言葉通り、中の様子を伺い知ることば不可能だ。その為、投票時の不正も不可能に近い。
民衆は一人数秒の間隔で、建物の出入りを繰り返している。
俺を含めた王族たちは、投票が終わるまで待つしかなかった。数時間を要するのは理解しているが、その場から移動する王族は誰一人いない。立候補した皆、自分以外の者の動向を気にしているからだ。
「皆の者、長い時間ご苦労だった。これより、結果の発表を行う」
気が付けば、夕日の昇る時間となった。
国王を含めた王族一同が、民衆の前に並び立つ。
そして、順番に名前が呼ばれていく。
「まず、投票数が一番多かった第一位は、第一王子ルート。それより僅差での第二位が、第三王子ギール」
名前を呼ばれた者が、順に勝ち抜けていく。名前一つ呼ばれるだけで、民衆の歓声が響き渡る。
残された枠は三つとなった。
少なくなっていくごとに、独特の緊張感が走る。
「続いて、第三位が第一王女のクリシア。第四位が第六王子のアレン。そして、残り一枠を勝ち取った第五位が、第二王女のミランダ」
俺の順位は四位だった。全体の結果は、予想していた通りのものとなった。
呼ばれた五人に納得の民衆たち。
だが、納得がいっていない者もいるようだ。
「国王、いえ、父上。何故俺が・・・・」
「グレント、お前は黙っていろ。父上、こんな結果、僕は認めませんよ」
「サイスに、グレントよ。王族が民衆の前で見苦しい真似をするな」
「しかし、私は何も・・・・。そう、そうです、この五人の誰かが企んだに違いありません」
「フンッ、何を言っとる。仮に、お前の言うことが真実であっても、負けであることに変わりない」
第二王子のサイスが、国王に訴えかけた。当然、受け入れられるわけがなく、受け流させる。
二人の諦めの悪さに、民衆が不快感を露にした。それを感じ取ったのか、グレントは諦めたように身を引いた。
それでも、第二王子のサイスは諦める気は一切感じられない。
「クソクソッ、そ、そうだ。力を示したら認めてくれるんじゃないのか」
「何を言って・・・」
「これさえ使えば、全員が僕のことを認めるに違いない!」
そう言って、第二王子のサイスは懐から液体の入った容器を取り出した。
その液体を、躊躇うことなく自分の体に打ち込んだ。とても見覚えのある光景だった。
見覚えのある通り、第二王子のサイスは異形の姿へと変わっていった。それに合わせて、感じられる魔力量も格段に変化していった。
突然の展開に、民衆たちは慌て始めた。
「コ・・ロ・・・し・・・」
異形な姿となったサイスは、その場で暴れだした。やはり、サイスには自我がないようだ。
ドルックと違い、魔力の量が桁違いとなっている。
暴れる衝撃で、周辺の建物などが壊れていく。
民衆たちは、避難を試みようとする。だが、人が多すぎて混み合っていた。最前列にいた民衆は、サイスの攻撃に逃げきれず多数の被害を受けていた。
そんな様子を見て真っ先に動いたのが、第三王子のギール兄さんだ。
「醜くなったな、兄上。そんなに暴れたいなら、俺が付き合ってやるよ」
暴れ続けるサイスの前に、ギール兄さんが立った。
それでもサイスは、ギール兄さんを無視して、周りのものを破壊していく。当のギール兄さんは、剣を抜いて近寄っていった。その様子を見ている他の兄妹や、父たちは何も言う気はないようだ。
魔力を纏わせた剣を、サイスに向けて振るった。
ギール兄さんの斬撃がサイスの体に傷を負わせた。こうなれば、自我のないサイスでも反応せずにはいられない。
「コ・・ろし・・・テ・・ヤル」
「さっきから、そればっかりだな。他に喋れないなら生かす理由も無くなるがいいか?」
「コ・・・・」
「理解できてないか。それじゃあ、これ以上暴れられるわけにもいかないから、死んでくれ」
サイスは、攻撃の対象をギール兄さん一点に定めた。
ギール兄さんからは焦る様子が一切感じられない。サイスの攻撃を簡単に躱していく。その様子を、避難しようとしていた民衆たちが立ち止まって見始めた。
周囲の様子など気にする素振りは見せずに、戦うことだけに目を向けている。
二人の戦いは、戦いと言えないくらい一方的な攻防だ。
サイスの攻撃は、一度も当たっていない。それどころか、ギール兄さんの攻撃を受けるばかりとなっている。その攻撃の衝撃波が、こちらにまで飛び火してくることもある。
「結局、この程度か・・・」
傷が増えすぎたサイスは、力尽きたように倒れ伏せた。間違いなく死んでいるだろう。
それを見た民衆は歓喜する。
今の民衆たちは、歓喜のあまり気付いていない。王族が王族を斬ったという前代未聞の出来事に。彼らが事の重大さに気付くのは、少し遅れてからだろう。




