推薦者
国王が王位戦の開幕を宣言してから、数日が経過した。国王は、あの場所で王位戦の最初の内容について発表をした。
あの瞬間の民衆の盛り上がりを見て、このイベントの大きさを再認識させられた。
「最初は、これですか・・・」
「ああ、ホント面倒なことを考えてくれるよな」
ユリウスが手にした紙には、事細かな内容が記されている。事細かと言っても、厳密にルールが定められているわけではない。むしろ、内容を見る限り、本当に王位を決めるイベントなのかと思うくらい雑なルールだ。
ただ、そこに隠されたメッセージを、見た者ならば理解できるに違いない。王になるのならば、知恵を働かせて、使える手は何でも使えということだろう。
ユリウスが紙を見ながら困ったような表情を浮かべる。必死に何か良い案がないのか考えているのだろうか。そんなユリウスに期待はすることなく、フレンとの話し合いに移った。
「どうだ?何か良い案は思いつきそうか?」
「良い案は、いくつか思いつくけど、他の兄姉の動き次第だね。それによっては、最善の策が最悪の策になるかもしれないし・・・」
「たしかに、あの姉や兄たちなら何をしてもおかしくないからな」
「そうなんだよね・・・・どうすればいいのか分かんないや」
既に、戦いは始まってると言っていい。誰なのかは分からないが、会話を盗み聞く人の気配を感じる。兄姉の中の誰かからの差し金なのは間違いない。
盗聴者に気付いたユリウスは、バレない程度に警戒心を高めた。
俺とフレンは中身のない会話を続けた。数分間も無駄な会話をしていると、盗聴をしている人の気配が消えた。自身の主人に報告へと向かったのだろう。第六王子は敵にはならないと。
「いなくなったね。やっぱり、もう動きだしてるんだ」
「多分、第五王子か第二王女のどっちかだろうな。一応、俺も『影』を送り込んでおくか」
『影』の者たちを呼び寄せると、二つの命令を与えた。一つは、第二王女や第五王子たちの様子を監視して報告すること。二つ目も、王位戦に関する大事な命令だ。
命令を聞いた『影』たちは、言葉を発することはせず静かに行動へと移した。
「そんなことよりも、これをどうにかしないとだよ。え~っと、推薦者による演説を行い、それを聞いた民衆が投票を行い票の少なかった二名が脱落か・・・」
「脱落とは言うが、そんな易しいものじゃないぞ。この王位戦で敗けると、王位継承権を失うことになるんだ」
「王になる資格が失われることを考えると、必死さが理解できる気がするんだよね」
王位戦の最初の戦いの内容は、推薦者を用意した戦いとなっている。推薦者の指定は細かいことは決められておらず、犯罪者以外ならば、どこの誰でも構わないとされている。
約二週間後に、王位戦の参加者は、自信を推薦する者に民衆の前で演説を行う。その演説を聞いた国中の人々が、気に入った人へと投票をする。
今回の一番のポイントは、票の稼ぎ方は幾らでもあるということだ。推薦者による演説はあるが、バレなけれ民衆を買収することだって可能だ。流石の父も、単純なズルには警戒を張っているだろうから、買収は不可能に近いだろう。ただ、知恵させ働かせれば、どんなズルでも許させれるルールとなっている。
「姉さんや兄さんたちが、誰を推薦者とするかだな・・・」
「私の予想だと、第一王子は商人だと思うね。あの男が一番賢そうだし、賢い者なら有名な商人を推薦者にするだろうね。まぁ、それが分かっていてもコネと、その商人に認められる必要がありそうだし」
「言いたいことは分かるよ。俺にも商人とのコネがあればってことだろ。たしかに、商人とのコネが無いのは痛いが、他国の王族との繋がりがあるだけでも充分だろ」
第一王子のルート兄さんは、おそらく何も策は練ってことないだろう。作戦を立てなくても充分な、推薦者と人望を備えているのだから。
二週間後に向けて、話し合いを本格的に進めていく。
「紅茶をお持ちしました」
ユリウスから紅茶の入ったカップを手渡された。その行動一つだけで、ユリウスの気持ちは充分に察せる。自分が頭を使うことに力になれないのを歯がゆく思っているのだろう。
俺は受け取ったカップの紅茶を一口飲んだ。
温かい紅茶が、俺を落ち着かせた。
「どうやら俺は、変に警戒し過ぎていたようだ。兄さんや姉さんたちが、どんな手を使ってこようが気にする必要なんてない。俺たちは俺たちらしく、ズルく汚く悪くやればいい。そうすれば、俺たちに自然と勝ち舞い込んでくるだろう」
「そうそう、そうでなくっちゃ」
俺の言葉に、分かりやすくフレンのテンションが上がった。
その様子を見ていたユリウスも、落ち着いた様子だ。
俺は椅子から立ち上がって、自分の部屋の窓際にまで近寄っていった。窓を開けた瞬間、涼しい風が部屋の中に入ってきた。自分に似つかわしくない風だと思いながら、風に当たる。乾いた風の方が、自分には合っていると思う。それでも今の俺には、ピッタリなのかもしれない。
前世の記憶があり、どんなに悪い者でも、未知なことには新鮮さを覚えるようだ。