手に入れたもの
昨日の夜に起こった事件は、極秘のものとして扱われて終わった。パーティーに参加していた貴族の多数が殺される結果となった。生き残った貴族たちには、国王から事件の守秘義務が課せられた。
王城内に居る者の全員が働くなか、事件を解決したとして俺たちは休ませてもらっている。事件を解決はしたが、恩人として見られることはなかった。それだけ、パーティーで起こった事件の情景が忘れられないのだろう。
「これが、例の魔力を封じる道具ですか?」
「ああ。まだ完璧とは言えないが、充分使えるのは確認できたから、結果オーライだな」
「ホント、そうよね。魔力が封じられただけで、彼等が、あそこまで弱くなるとは思わなかったなぁ」
ユリウスが持つ物は、反乱軍の者が使用した使い捨ての道具だ。道具の効果は、周囲の者の魔力を封じるというもの。効果時間としては、二十分と設計している。
この道具については、俺が誰よりも理解を深めていると言っていい。理由はシンプルだ。この道具を、俺とフレンが製作したからだ。
「そういえば、これの名前を決めてなかったよね」
「『魔力封じ』で良いんじゃないか?」
「ダメだよ。それだと、製作者の一人として納得できないよ」
「それならば、『狂わす者』なんてどうでしょうか?」
物に対して、者と形容するのは変な話だが俺もフレンも、ユリウスの案を採用した。昨日のパーティーで、この道具を使用した時の光景が記憶に残っているからだ。
一先ず、計画は成功したと言える。ただ、唯一懸念するべきことがある。
「アレン様に言われて、『影』の者たちに捜索をさせましたが、見つかりませんでした」
「そうか。アイツ等でも見つけられないのなら仕方がないな」
「二人して誰のことを話しているの?」
「第二王女だよ」
この国の第二王女であるアリシアは、パーティーでの事件直後に行方をくらました。国王は、第二王女のアリシアは誘拐されたのだと主張を繰り返していた。だが、俺としては、誘拐の可能性は皆無だと考えている。
断言できる理由が、アリシア王女の実力だ。戦う姿を見たわけではないが、強いことだけは確かと言える。おそらく、国王よりも実力は上だろう。だからこそ注意を払っていたが、こんな簡単に姿を消すとは思わなかった。こうなってしまっては、捜し出すのは困難に近い。
「捜索は中止させるように伝えてくれ」
「了解しました」
これ以上、無駄な捜索に『影』の者たちを手配させるわけにはいかない。
部屋を出て王城内を歩き回ると、忙しそうにする者たちが目立っていた。理由は聞かずとも分かっていることだ。
彼等を手助けしようという思いは毛頭ない。忙しそうにする姿を尻目に、王城から出た。
思っていた通り、街中は変わらない様子だ。まさか、王城で多数の貴族たちが殺されるような事件があったとは思わないだろう。そして知る由もないだろう。
ただ、変化したところもある。裏通りの住人たちだ。裏通りに住む大勢の人間が反乱軍に参加して、全員が死亡した。その為、裏通りの人の数が少なくなっている。だが、街中に住む者たちは、裏通りの者たちの人数が変わっても気にすることなどない。
「何も知らないとは、愚かで可哀想な連中ですね」
「そう言ってやるな。知らないようにさせているのは、俺たちなんだから」
「それはそうですが・・・」
ユリウスは、この国の人たちの様子が気に食わないようだ。彼等が悪い事をしたわけではなく、単純にユリウスが気に入らなかっただけだろう。理屈ではなく感情論だ。
この国の者たちは、自国が変わっていく様子に気付けずに過ごすのだろう。そう思えば、ユリウスの言うように哀れだと言う他ない。
当分訪れることはないと思い、街中を見て回ろうとしていた。そこへ、水を差すかのように騎士の格好をした男が声をかけてきた。
「国王様が、お呼びてす。王城にお戻りください」
男の言葉に従い、王城へと戻った。
王城では、疲れ切った様子の国王が待っていた。
死んだ貴族たちの後処理に加えて、残された仕事も代わりに引き受けたようだ。あまりの疲れようには、同情の気持ちしかない。あの事件に関わった者として、気遣う振舞いだけでもしておこう。
「お疲れ様です。大丈夫ですか?」
「ああ、問題はないですよ。それよりも、明日には国へ帰られると聞いたのだが・・・」
「はい。短い時間でしたが、色々と収穫のある数日でした」
この忙しさを狙って、王城内を『影』の者たちに調べてもらったが、特に目当ての物はなかった。事実上、一国を味方につけた状況では、これ以上は何も望めなそうにない。つまり、この国に留まる必要もない。
俺の目的にまで、また一歩近づくことになった。