隣国ユーリシア王国
隣国のユーリシア王国に入ると、馬車は王城の前で停止した。
馬車を降りると、大きな建物が目に映る。俺たちが住む王宮よりは小さいが、王都内では一際目立っている。
王城内に踏み入ると、多数の騎士たちや王族らしき者たちが出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。私は、この国の第一王女で、ミーシアと申します」
「だ、第二王女のアリシアです」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。まさか、王族の二人に迎えていただけるとは光栄の極みでございます」
第一王女は俺よりも少し年上で、第二王女が俺と同い年くらいだろう。流石は王族というだけあって、挨拶一つだけでも気品が感じられた。しかし、良い雰囲気でいられたのは、この瞬間だけだ。
俺たちは、変わっていく場の空気感を察した。この場にいる大半の者達が、俺たちのことを舐めているような目をしていることに。どうせ、俺が大した実力の人物ではないと誰かから聞いたのだろう。それに加えて、周りにいる護衛の騎士たちが若いのを見て、より大したことがない連中だと見られているのだろう。
その空気感は王女様も察しているようで、何とか空気感を変えようと明るく振る舞っているのがバレバレだ。
「わざわざ出迎えてやろうと思ったら、出来損ないと噂の王子に、それに群がるガキばかりじゃないか」
せっかくの王女の行動は、馬鹿な貴族の言葉で呆気なく終わった。ただ、馬鹿な貴族の発言を止めたり非難したりする者はいなかった。またしても、第一王女が何とかしなければならない状況となっている。
「ドルムンド伯爵、それ以上の発言は控えてください」
「ミーシア王女、何を言っているのですか?王族でありながら、魔力が全くと言っていいほど感じられない者が、実力主義である我が国に踏み入ることなど許していいわけがないでしょ」
「そんなことは今は関係ありません。このままだと、国家間の問題へと発展しかねませんよ?」
「国家間の問題など、我らの力があれば、どうとでもなるでしょう」
他国に訪れて僅かな時間しか経っていないが、既に酷い言われようだ。ただ、魔力が全く感じられないというのは正しい発言だ。正確に言うと、相手が魔力を全く感じないように、俺が自身の魔力を抑え込んでいる。その為、他者から見れば魔力のない弱いやつだと感じるに違いない。ましてや、実力主義の国家であるこの国なら尚更だ。
とはいえ、俺たちも黙って聞いているわけにはいかない。真っ先に動いたのは、ユリウスだった。
「そろそろ黙ってください」
ユリウスはドルムンドという男に近づいた。そのスピードは早く、他の者は止めることが出来ないでいた。ユリウスは不意を突くと、腰に掛けていた剣を振るった。
振るわれた剣は、ドルムンドの右腕を斬り払った。
自分の斬られた片腕を見て、ようやく痛みを感じたのかドルムンドの悲鳴が遅れて響き渡る。ドルムンドの悲鳴を聞いたことで、周りにいる者達も何が起こったのか理解したようだ。
当然、周りの目が敵を見るかのような目へと変わっていく。騎士たちは一斉に剣をとり、俺たちを取り囲んだ。
「き、貴様。何をしたのか分かっているのか!」
「・・・・・・・」
「何とか言わんか」
ユリウスは、周りからの声に反応することはなくジッと佇んでいた。その様子が、余計に周りをイラつかせているようだ。
落ち着きのない相手方とは違い、俺たちは至って冷静である。ただ、相手方にも唯一冷静さを保っている人物がいた。
「皆さん、剣を下ろして落ち着いてください」
「しかし姫様、このままでは我々のメンツが・・・」
「そんなことを言っている場合ではありません」
やはり、実力主義国の第一王女を務めているだけのことはあるようだ。
第一王女の言葉で、周りにいる騎士や貴族たちは落ち着きを取り戻した。騎士たちは手にしている剣を鞘へと納めた。
いい雰囲気とは言えないが、一応落ち着きをみせた。俺としては、この場で戦いになれば、それはそれで面白いと思ったが、そうはいかないようだ。
ユリウスが俺の下へと戻ってくると、同じタイミングで第一王女のミーシアが近寄ってきた。
「アレン王子、たしかにドルムンド伯爵を含めた貴族たちの対応にお怒りなのは理解できますが、腕を斬るのはやり過ぎです」
「そんなことを私に言われても、行動を起こしたのは私ではありません。それに、実力主義を謳っている男に対して、ほんの実力の一部を見せただけじゃないですか」
「下手をすれば、この場で争いになったかもしれないんですよ?」
「さっきの男の言葉を借りるかたちとなりますが、私たちも国家間の争いになることを問題視はしていません。貴方方が戦を望むならですが」
俺の言葉に、ミーシア王女は納得がいっていない様子だ。
遂に、場を落ち着かせたミーシアまでもが剣を握ろうとしていた。第一王女のミーシアが剣を手に取れば、止める者がいなくなり、戦いになるのは間違いない。
戦いになるのを、この場にいる者達全員が感じ取った。相手方の騎士だけではなく、俺たちも剣を手にとった。
「両者控えよ」
突如現れた男の言葉が、ピリついた空気感を壊した。
この場にいた全員が、その男の方へと目を向けた。男を見ると、相手方の騎士や貴族たち全員が、その場に跪いた。
俺たちも手にしていた剣を鞘へと戻した。
突如現れた男が誰なのかは分からないが、一先ず、この場では戦いはおきなさそうだ。