残りの寿命は「0」!?
一話目です。
「えみー、いつまで寝てるのー!学校遅れるわよー!」
母の千香子が少し苛立った声で一階から私を呼ぶ。
「今起きるー!」
そう返事をして私は布団を深くかぶった。私、明野恵美は平凡な高校二年生。親は私が生まれる前に離婚しており母とふたりきりで生活している。学校に行く支度を済ませ母の頭上を見る。母の頭の上にはうっすらとした文字で
「10」
という数字だけが書かれている。この文字は私が五歳くらいの時から見始めたものだ。
保育所には私の唯一の友達と言える存在の「みき」がいた。あの頃はいつも親友のみきと一緒だった。お弁当の時間、お昼寝の時間、いつも一緒だった。保育所が終わり、みきに
「また明日ね!!」
と言ったとき、みきの頭上にうっすらとした文字で
「5」
と書いてあった。そのときは文字がすぐに消えてしまったので気のせいかと思った。そしてみきと別れた五分後みきは交通事故で死んでしまった。その時以降見ようとしなくても私の視界に入った人の「残りの命」を表した数字が見えてしまうようになった。しかもそれは、基準が明確ではない。つまり、母の命は残り10分かもしれないし、10時間、10ヶ月、10年かもしれない。母のことが心配ではあったが母はしんどそうな様子はないし、今日は在宅勤務であるはずだから外出先の事故の可能性はないと予想し学校に向かった。
「えみ!遅かったじゃーん!聞いて聞いて!バスケ部の先輩にチョーかっこいい人がいるんだけどーその人が
ね今日他校と試合するの!絶対かっこいいよ〜!!ね!見に行くでしょ!?」
教室に入ると朝から元気の良すぎるくらいのハイテンションで話しかけてくるのは私の友達のなつき。高校に入ってなかなかクラスに馴染めない私に声をかけてくれたのがなつきだ。
「はいはい、わかったから!一旦落ち着いてよ〜」
夏樹といるといつも自然と笑顔になれる。だから私はなつきが大好きだ。バスケ部の先輩には興味はなかったが、なつきがすごく行きたそうにするので放課後に試合を見に行くことにした。
一時間目は体育でこの授業だけは全クラス合同で行われる。今日はバドミントンの授業だ。なつきは運動神経がよく、どんなスポーツでも得意としているようだった。そして、コミュニケーション能力も高くどんな人とでも仲良くなれた。一方で、なつきと正反対の特徴を持つ私はスポーツは苦手、恥ずかしくて慣れた人でないとまともに話せないほどだった。そのせいか、私はなつきを羨ましく感じている。
そんな私の視界の端で気になる数字が目に止まった。
「0」
「えっ・・・・」
私は思わず声を出してしまった。そこまで大きな声を出したつもりはなかったが、みんなが私に注目していた。私はとても恥ずかしくなり意味もなくペコペコお辞儀をしてその場を去った。
(それにしても「0」なわけないんだよなー、見間違いかな…)
私は数字のことが気になったがもう一度体育館に戻る勇気もなくそのまま教室に戻った。
そして放課後、なつきと一緒にバスケ部の練習試合を見るために体育館へと向かった。かっこいい先輩を見に来た女子がすでにたくさんいてなかなか中に入れない中、試合が始まった。なつきは、いつのまにか人の間をくぐって観戦席の最前列にいた。私は観客席の最後尾から試合を観戦していた。その時、向かい側の観客席の男子の頭の上には見覚えのある数字が薄っすらと書かれていた。
「0」
私は息を呑んだ。そんなことがあるはずがないのだ。「0」ということはもうすでに死んでいるか、今まさに死んでしまいそうな状態の場合のみ書かれる数字なのだ。しかし彼は時たま友達と喋っており、死人というわけでもなく、見た感じ死んでしまいそうな危険な状態には見えない。私は、彼のことが気になり向かい側の観客席に行こうとした。その時
「ブーブーブーブー…」
マナーモードに設定しているスマホの着信音がした。発信者は登録されておらず、電話番号にも見覚えはなかった。
(誰だろう…)おそるおそる電話に出る。すると慌てたような女性の声がした。
「星野市民病院の者です。明野恵美さんの携帯で間違えないでしょうか!」
「はい、そうですが…」
「お母様がこちらの病院に緊急搬送されました。今は緊急手術室で手術を受けておられます!」
頭の中が真っ白になった。緊急搬送…?緊急手術室で手術…?私はスマホを地面に落として走り出していた。今朝、母の頭の上に書かれていた書かれていた「10」という数字は「10時間」を意味していたのだ。駐輪場から鍵のかかっていない自転車を見つけ全力で星野市民病院に向かった。
「寿命が見えるなどの様々な能力を持つ少女の話」をよんでいただきありがとうございます!!
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