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砂上の城  作者: かかと
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宰相

 どんぶり勘定ですね。どのようにしても合うわけのない金額があります。国庫から出したものですが、かなりの額ですね。大統領の印鑑があるので大統領が認めているということです。しかし、このような金額のお金を持っていたところでどうせ意味のないことになります。給料ではとても出ないような金額ですから。まあ、それは活動に問題ありませんか。全ては金で動いている世の中です。多くの人がなびくことになるでしょう。それでも私は彼に仕えなくてはやっていけません。


 彼には多くの恩をもらっています。彼を支えるのが私の仕事です。全てを擲ってという訳にも行きませんが、それでもできる限りのことをすべきなのです。しかし、副宰相の動きが少しに気になるのは仕方ありません。前からいろんな噂がある人ですから。ただ、ここにある資料はかなり信憑性のあるものであります。運営というのは難しいものです。このようなスキャンダルがあることで行動が制限されるなんて意味がないこと。一般人に関しては印象が一番大事です。私生活や職務などはほとんどわかっていないし、興味があることが少ないので印象のみで決まります。


 ただ、唯一、政務でできることと言えば政策面です。有効な政策を考えれば民は楽になります。そう簡単にできる物ではないため、人気が出ることにもつながります。さてと、問題はそこではありませんね。資料を見ると非常に良くありません。程度が悪すぎます。強姦をしたと言っても大量な女を用意して犯しまくるという訳の分からないことをしています。こんなことをして何が楽しいのでしょうか。全く分かりません。嗜好というのは人それぞれですからね。ただ、犯罪になれば話は別です。


「宰相、どうしますか?」


 隣には書記官が立っていました。彼も私に仕えて長くなりましたね。融通は少しききにくいですが、実直でしっかりしている彼は私の期待にしっかりと応えてくれています。その上、最近では先回りも少しできるようになっています。資料は秀逸ですね。綺麗にまとめられています。しかし、彼もまた顔を顰めていますね。仕方ありません。副宰相ですから、現役の高官でここまでの事件を起こした人はいないでしょう。お金の関係ではあったとしてもこのような人を傷つける犯罪は聞いたことがありません。


「どうすると言っても大統領に聞くしかないでしょう。これ以上は大統領の権限ですから。」

「しかし…、大統領では許してしまうこともありませんか?」

「そうすると言われたらそうするしかないでしょう。私たちは大統領の味方でなければなりません。」

「ただ、このような状況では…。」

「言いたいことは分かりますが、私たちの目的は大統領を支えることです。間違えてはいけません。しかし、私からも言います。」


 側近が全て頷くような組織で意味がありません。それでもかなり怒られる可能性もありますね。機嫌が良いことを祈るばかりです。…自殺者も出ているのですか。これは大変ですね。補償問題にもなりそうです。それだけではありませんけど。このスキャンダルを隠しきるのは無理です。被害者の数が多すぎます。


「何か手伝えることがあればいかようにもお申し付けください。」

「そんなに固くならないでください。」

「あなた、また無理するつもりでしょうから。私は大統領よりもあなたに仕えています。だから、この副宰相を助けるつもりであれば、私は反対です。」


 彼は真剣な表情で私を見ています。本心で言っています。彼は嘘を吐くのが非常に苦手な人です。


「わかりました。その時には頼りにしています。」

「はい。」

「ふむ。革命軍はそこまで来ておるのか?」

「いえ、彼らも我らに勝つことができるとは思っていないようです。」


 大統領の顔を見ますが、彼は外を見て何かを考えているようです。最近では考えることが多くなっています。そして、悪いことをよく考えている。昔はよい志を持った政治家だったのですが、どうしても権力を持ってしまうと変わるのでしょうか。しかし、革命軍の動きも馬鹿にできません。彼らもこの国の運営をしようとは思っていません。ただ、今の政治家が許せないのでしょう。好き放題やっているような印象を受けますから。中身をよく見れば違うのは一目瞭然です。そこまで調べるほど人には時間がありません。だから、攻撃するようになります。さてと、言いにくい話もしなくては。


「どうした?」


 長い付き合いです。私の表情を見て分かったようです。


「いつもの定期連絡の他に報告があります。」

「聞こう。」

「副宰相が事件を起こしました。罪は強姦です。」

「そうか…。」


 彼はため息を吐きます。頭が痛いでしょうね。副宰相の金策は非常にうまく、今回の大統領選挙でも多額の資金が動いたのは彼のおかげで、財政がよくなったのも彼のおかげです。ここ最近の借金がなくなったのも彼の功績です。問題が彼の素行でした。特に女関係は非常にルーズで何回握りつぶしたか分かりません。しかし、今回の事件はかなり不味いです。


「しかし、今回の件に関してはもみ消すことはできません。強姦ですからね。前は不倫でしたのでモラルという範囲でしたが、強姦は犯罪です。この犯罪を隠しているとおそらく革命軍が掴むでしょう。そうならないように首を切るべきです。」

「ふむ。奴は金を集めるにはかなりの能力を持っている。すぐに切るということはできんぞ。お前が金策を思いつくのか?」

「いや、金策は正直、難しいです。」

「ならば、首を切れん。だが、半年後は切る予定だ。」


 …、もう彼を切るというのですか。彼の素行が悪いと言っても側近中の側近です。彼がいたから大統領になれたというのに。私も長く支えていますが、彼ほど有能ではありません。それこそ替えのきかない人です。


 大統領は一枚の写真を出します。…、この女ですか。ある意味切り札と言ってもよい人です。ハニートラップを常に仕掛ける女。この女を拾ったのはかなり前と聞きます。忠犬のように言うことを聞く彼女を大統領は重宝しています。ただ、私の資料の中には革命軍とつながっているという書き込みがあります。


「手配を頼むぞ。」

「本当によろしいのでしょうか?」

「何がだ?」

「この女が本当に我々に忠誠を誓っているとは思いませんよ。」

「心配ない。」


 大統領はこのように言っていますが、かなり不安です。どのような作戦か私は知りません。しかし、彼女が裏切れば完全に終わる可能性もあります。そのことを大統領はよくご存じのはずですが、何も触れていません。大統領というのはそれなりに大変なものであることは理解していますが、今回の話はやりすぎのようにも思えます。普通は側近を通すはずです。おそらくあの女がやることは分かりません。


「そうですか。分かりました。手配しておきます。」

「ああ、頼んだぞ。」


 手配と言っても手紙を出せばそれで終わりです。気づかれないように手紙を出すだけです。あとは彼女が勝手に動きます。…、何か胸騒ぎがしますね。部屋を後にして手紙を書きます。大統領は彼女に接触したのでしょうか。そんな様子はありませんでしたけどね。私はその書き終えた手紙を宅配箱に入れます。間違っても早く出したり、急に私が出すとよくありません。周りに変な探りをいられますから。


 もう一度、革命軍の資料を見ます。この男、どこかで見たことがあるのですが…、どこで見たのでしょうか。この顔を忘れるような頭をしていないはずです。何か意図的に私が記憶を消しているのでしょうか。そうだとすればもっと問題でしょうね。


「すみませんが、君はこの顔を見たことがありましたか?」


 真面目な彼に質問します。彼もかなり記憶力がいいですから。


「いや、私は見たことがありませんでした。宰相は見たことがあるのですか?」

「そうではありません。彼の顔が何か記憶に残っているのです。」

「なるほど。しかし、彼の周りには多くの護衛が付いていますし、この情報だけでも随分時間をかけて調べています。これ以上は何も出ないかもしませんよ?」

「それでも調べる必要があります。私も記憶力がいい方ですが、何かの拍子に置き換えられているということもあります。」


 彼は少し驚いた顔をしました。この方法は不可能ではありません。彼の顔を覚えさせないためにもっと大きな出来事を起し、その記憶を別の記憶に上書きさせるのです。私も使ったことはありますが、この方法は危険度が跳ね上がるためやる人は少ないのです。私は以前,二年以上、冷や飯を食わされてしまいました。今の大統領に拾われているので問題ありません。しかし、彼に拾われていなかったら、今の私はないでしょうね。閑職に追い込まれていると思います。


 彼に調べさせている間、私は政治の方を調べていきます。政治の方もしがらみが多くて簡単にはいかない世界です。そして、先代の影響力があるのでもっとややこしい…、先代、そうか。あの男はもしかして。


 …、この男、三年前の政争で暗殺されたことになっています。検視の記録も残っています。あの事件は政争というよりも紛争に近いものでした。暗殺合戦と言っても二百人以上の死者が出れば大変な事件です。このような大事件の中の一人の死者ですか。流石に記憶に残っていないわけです。そうなれば今回何かしようとしているのは先代の人たちですか。これは簡単に行きませんね。この国の先代の影響力はかなり強いのです。


「…そういえば、彼と連絡は取っていますか?」

「いえ。先ほど定期連絡が入ってきました。」


 文面を見ればなんともありませんが、これは暗号です。何かがあったということでしょう。彼は本文に空白の文字を刻みます。その刻みがないということはこの手紙は彼が書いていないということです。すでに敵の手に落ちていますか…。何が起こっているのです。ここも安全ではないかもしれませんね。とりあえず、資料を見ていきましょう。流石に大統領官邸に来るようなバカではないでしょう。


 ほとんど部下が帰った後、私は過去の事件を見ました。腑に落ちないところが多いのです。事件はしっかりと記録されていますが肝心なところが抜け落ちているような気がします。…、こことここ…、同じ名前、そして同じマーク。


「気が付かれたようで。」


 背中にうっすら冷たい汗が滴るのを感じます。おおよそ普通の人間ではないでしょう。この大統領官邸はこの国で一番安全な場所ですからね。大統領も住んでいるこの場所に忍びこむとは。


「あなたは?」

「先代の亡霊と分かっているでしょう?」

「しかし、あなた方は何をしたいのですか?この国で何をするわけでもなく、ただ単に裏から少し操っているだけですよね。」


 私がおかしいと思ったのはここだったのです。事件もしっかりと隠してしまえば大丈夫のはずです。この資料たちは一部の人間しか見ることができないのですから。


「その目的を知る必要がないと言いたいところですが、あなたも大統領も優秀です。我々がここまで出てきたのは久々ですから。別にあなたをどうしたいと思っているわけではありません。ただ、私たちの目的を知ってほしいのです。」


 彼はそのまま話を続けます。



「本当にそんなことがあるのですか?」

「ないと思いますか?」

「いえ、私の父も軍の関係ですのでないと否定することはできません。何度か話を聞いたことはあります。」

「ならば、今後のことはあなたにお任せします。今の大統領では本当のことに気が付いてしまいます。あの大統領が無茶をしないとは限りません。出来るだけ知られないように我々も作戦を進めています。」

「しかし、それならば大統領も仲間に入れた方が楽だと思います。」

「そのようには見えませんね。あなたも長年支えているのですから分かっているのでしょう。彼がこのようなことに気が付くということくらいは。」


 その通りです。彼が私の立場であれば簡単に気が付いたに違いありません。彼は抜群に優秀だった事務官でしたから。ドアの方を見ると彼の姿は消えていました。…あとは自分で考えろと言うことでしょうね。難しいかじ取りになりますが、簡単なことなのです。しかし、これでいいのでしょうか。私は何かを見落としているような気がします。


 明後日には視察があります。その時にやるべきことをやればいいだけのことです。これでいいのかと考えている余裕はありません。すでに彼の死体が発見されています。やはり殺されてしまいましたか…。彼の家族にも手が及ぶでしょうね。それにこの資料を見るには革命軍も取り込まなくてはいけません。


「葬儀の方ですが…。」

「それは良いのです。」

「…どうしてですか?彼はあなたに。」

「分かっているでしょう。すでに我々は危ない橋を渡っていると。あなた方で行ってきてください。私にはやるべきことがあります。」

「信じていいのですか?」

「信じるものはあなた自身が決めなさい。ただ、私は最善を尽くします。」


 そのまま部屋を出ました。そして、カフェテリアでコーヒーを頼みます。


「大胆ですね。宰相殿。」

「革命軍のトップですね。」

「そう言われています。自分でも嫌ですけど。」

「このままではこの国が滅びます。」

「どういうことです?それは大統領が何かをかばっているということですか?」


 私は彼の話をしました。


「…なるほど。あなたも軍の出の親を持っていますね。だから、この話を聞いてピンと来たわけですか?」

「そうです。」

「我々ここまでするつもりはありませんが、一番簡単なのは大統領を殺してしまうことです。それで統制ができるでしょう。あなたが大統領になろうとならなくても裏から手を回すことができる。我々も大義名分ができるからあなたにつくことも可能。しかし、それでは目の前のことしか解決しないのだが。」

「だからこそ、我々が会うことに意味があります。私が狙っているのは大統領の暗殺ともう一つあります。」

「そうか。俺の方でもやりたいと思っていることがあったのだが。」


 思惑が全く一致しているとは思いませんでした。


「あんたもあそこが怪しいと感じていたか。」

「いきなり出てきすぎです。焦ったのか別の目的があるのか分かりませんが、早めに潰しておく必要があるでしょう。」

「分かった手を組もうか。」


 彼は姿を消しました。油断ならない男ですね。…これで時間が稼ぐことができますかね。さてと、この組織を調べていきますか。




 当日が来てしましたね。ここで大統領ともお別れになります。彼はいつも通り執務を行い車に乗り込みました。彼女もおそらく現場に来ています。昨日の時点で私の手駒になっています。これ以上は彼女に仕事をさせるつもりはありませんが、保証はしていくつもりです。彼女は大統領が死ぬと分かると私に従いました。母を守るためには仕方ないのでしょうね。


「到着しましたね。」


 大統領は反乱軍と革命軍が共倒れするのを狙っているのでしょうね。それはあり得ないのです。私がそのように仕組んでいます。


「車を出せ。」

「えっ?」

「早く。」


 危機管理能力は人一倍優秀です。私はわざとエンジンを切っていました。再度点ける間に革命軍のトップがいます。手筈通りです。


「何か用か?」

「それはこちらの話だけどな。」


 僅かにこちらへ目をやります。問題はないのですが、いまいち確信が持てません。


「別に私は君に用はないのだが。」

「そうか。俺はあると思ったがな。」

「ないぞ。さてと、そこをどいていただけるか?政務に戻らないといけないのでな。」

「そうもいかんな。」


 女はそのままうなだれるがままにしています。これで大丈夫です。彼女が失敗したというのも演出できているでしょう。


「その女がどうかしたのか?」

「ほう。貴様の飼い犬だと思ったが違うのか?」


 まだ、顔を出しませんか…。これでは意味がありませんが、仕方ありません。いずれ私に近づいてくるでしょう。


「それは私が答えましょう。」


 大統領は驚いた顔をして私を見てきます。そうでしょうね。私も驚いています。しかし、このままでこの国が終わってしまいますからね。


「おいおい、どうしてお前が…。」

「分からないのですか?」


 分かるわけがないでしょうね。しかし、それもよいのかもしれません。彼は不幸にならずに済みました。


「では、分からないまま死んでください。」


 大統領の頭から多くの血が流れて地面に吸い込まれていきます。


「…。」


 革命軍の男は絶句しているようですが違います。とある人物を待っているのです。


「ほう。これはこれは面白いことになりましたね。」


 出てきたのは反乱軍のトップ。


「ようやく出てきたか。」

「そうですね。」


 銃口を彼に向けています。革命軍のトップもこの男が危険だと分かっているのでしょうね。


「おいおい、俺は何もしてないぞ。」

「これからするだろう。他国の人間がここに居座っても意味がないぞ。」

「…ハハ、分かっていたのか。ここの人間は優秀だな。」


 彼の頭がはじけ飛びました。


「容赦する気はないぞ。これからは俺らがこの国を守るからな。」


 …そういえばあの女はどこに行きましたか?


「どういうことだ?反乱軍の連中も何も動揺していないぞ。」


 …あの様子。普通の人たちでありません。反乱軍はこちらに戦う意志を明確に見せています。


「宰相は逃げろ。ここは俺たちが時間を稼ぐ。」

「しかし、」

「早く…。無理か。」

「そうですね。」


 すでに軍並みの人間が周りを囲んでいます。これは簡単に…。距離を詰めるような様子はありません。徐々に下がっていきます。何があるというのでしょうか。


「何かがおかしいぞ。」

「ええ、何でしょうか?」


 その瞬間に大きな爆発音とともに意識が途切れました。


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