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砂上の城  作者: かかと
1/3

大統領

「ふむ。革命軍はそこまで来ておるのか?」

「いえ、彼らも我らに勝つことができるとは思っていないようです。」


 革命軍とは名ばかりの賊である。この砂上にあるハリボテの国は砂上に城を持つ世界でも有数の国。この国で大統領に着任できたことは我が人生の誉である。しかし、その我が人生に横やりを入れる馬鹿がいる。その横やりこそが革命軍である。この国は砂の上に城を持つだけあって技術がある。それこそ、諸外国に建築を依頼されるほどである。その技術を失わないようにするため、多くの建築家がこのこぞって難しい建築物を建てる。そうやって技術を求めていったからこそ、世界でも有数の技術を持つことになった。しかし、その技術を引き抜こうとする諸外国からの誘惑に技術者が負ける可能性もある。だからこそ、警察をより一層強くし引き抜きを阻止しようとしている。


 その警察の引き締めをしたところから革命軍と市民からの反発が強くなった。正直、市民からの反発は大したことないと考えていい。市民は何かあっても行動しないものである。ある意味無関心と言ってもよいだろう。彼らに直接影響する方策や法律などはあまりない。無関心になっているのはその影響力のなさである。このことに関しては私に責任があるため一層の努力が必要だ。私に求心力をつけるためにも。…、革命軍の資料か。どうも大量の資料が届けられてくる。革命軍にスパイを張り付けてからというもの、なかなか革命軍の資料が減らない。しかも、革命軍に入る人間の数も増えている。これ以上、増えれば二千人以上の大規模な反乱となる。総人口が十万人とかなり少ない国家では二千人という単位はかなり大きな意味を持つ。


 とはいえ、いきなり革命軍を討伐するのもおかしな話だ。今まで放っているのに。ただ、政府としても何かしらの手を打つ必要があるのも事実である。革命軍が力を持ってしまえば国を二分するような事態に陥る可能性もある。そうなれば諸外国も黙っていないだろう。そして、建築家は外へ出ていくことになる。なんとしても避けなくてはいけない事態である。


 資料にある革命軍のトップの顔が掲載されている。写真を使わずに絵で書いているのは建築家によるプライドである。個人的には写真の方がいい。絵であれば改ざんが可能だから。彼らは仕事に誇りを持っているため、改ざんのような馬鹿げたことはしないが、万が一ということもありうる。家族や親族を人質に取られていれば、その決心が揺らぐこともあるだろう。


 宰相が部屋の中に入ってくる。宰相の表情を見るにはあまり良いことでないようだ。


「どうした?」

「いつもの定期連絡の他に報告があります。」

「聞こう。」

「副宰相が事件を起こしました。罪は強姦です。」

「そうか…。」


 副宰相は以前より女問題で話を持ったことがある。どうしても女好きの癖が抜けないらしく、医者にも相談しているが改善には至っていない。問題を起こすのはともかく強姦と言うのは十中八九何かはめられたのだろう。こちらとしても今、副宰相を失うのは良くない。副宰相は金策が非常にうまく、この三年間で二倍ほどに収入を増やしている。どのようにしているのか分からないところもあるが、政策で多くの金を費やすことができるため黙認している。何か良くないことをしていると聞いている。しかし、その話をするほど副宰相に頭を上げることはできない。手回しをしているのも副宰相。


「しかし、今回の件に関してはもみ消すことはできません。強姦ですからね。前は不倫でしたのでモラルという範囲でしたが、強姦は犯罪です。この犯罪を隠しているとおそらく革命軍が掴むでしょう。そうならないように首を切るべきです。」

「ふむ。奴は金を集めるにはかなりの能力を持っている。すぐに切るということはできんぞ。お前が金策を思いつくのか?」

「いや、金策は正直、難しいです。」

「ならば、首を切れん。だが、半年後は切る予定だ。」


 借金にもほとんど返し終えている。以前の大統領が多くの借金をしていたため返すのに苦労した。国に入った半分ほどのお金は全て借金の返済に追われていた。まだ、数年だから三年で返すことができた。一体、何をやったらこのようなことになるのだろうか。大統領になった時にこの経理関係の書類を見ようとしたが、全て破棄された後である。しかも、官僚は全て辞職している。国外へ皆が逃亡しているため、何もできなかった。本当に腹ただしい。なんとしても探し出したいが諸外国は何も対応していない。何かやっていたのだろうな。もうすでに息もしていないかもしれない。


 …、資料を見ると強姦した女性の写真がある。全部で二十人か。これは強姦というよりも監禁に近い。この犯罪を隠す必要があるのか。いかに金策を担当している男は言っても反吐が出るほどに気分が悪くなる。この男の女癖は治らん。この手は使いたくなかったが、使わないといけない。引き出しから書類を出す。そこには一名の女性の写真がある。いわゆる、ハニートラップである。今回のハニートラップは彼を彼女に縛り付けるものであるけど。一人の女に集中させておけば何とかなるはずだ。


「手配を頼むぞ。」

「本当によろしいのでしょうか?」

「何がだ?」

「この女が本当に我々に忠誠を誓っているとは思いませんよ。」

「心配ない。」


 女の写真を改めてみた。大丈夫だ。この女の行動は全て把握している上に彼女の弱点も掴んでいる。彼女を拾ったのはスラム街の路上。隣に調子が悪そうな中年の女性が座っていた。その様子を見て彼女を拾った。今では彼女の母親も病気が治っている。しかし、彼女の母親は病気の予後が良くなかったため、両目を失明している。今でも、使用人をつけなければ生活できない状況だ。それでも彼女の母親は何不自由のない生活を送っている。名義は彼女から送っているが、本当に金を融通しているのは私だ。彼女はいろんな政治家に抱かれそのスキャンダルを私に送っている。その弱点はかなり重宝している。彼女の健康面も問題なくそして、凄まじいほどの美貌を手に入れている。こればかりは嬉しい誤算だった。

 彼女は歌の才能があるため表向きは歌手として、そして私の駒として女として抱かれている。その名声もあるため彼女には多くのスキャンダルがある。そのスキャンダルの多さで政治家のスキャンダルが隠されている。本当にうまい女である。


「そうですか。分かりました。手配しておきます。」

「ああ、頼んだぞ。」


 良し。これで第一弾は大丈夫か。宰相がへますることはあるまい。あの手紙が渡ればあの女もやることを理解するだろう。しかし、あの女が裏切りか…。あり得ない話ではない。時として人間は感情で動く生き物だ。理性で駄目だと分かっていてもどうにもならないようなこともある。念のため密偵を走らせておくか…。いや、止めた方がいいか。彼女を信頼しなければ裏切る可能性もある。それに動くこともあるしな。


 次の日、大きな広場に多くの民衆が集まっている。この機会を待っていた。革命軍の演説があると聞いているからだ。多くの旗を持った民衆が立っているのが見える。一種の洗脳である。政治も似たようなものか。情報を全て改ざんしてしまえば、それは民衆を洗脳していると言っても過言ではないだろうな。ただ、政府としても全ての情報を流すわけにもいかないからな。それなりに取捨択一されているが。さてと、そろそろ時間か。この国には革命軍を反対している反革命軍というものも存在している。この軍を政府は秘密裏に援助している。革命軍を討伐すると政府の印象が悪い。彼らも実力行使に出ているわけではないから。まだ、武力の衝突はしていない。そこが少し気持ち悪いところである。上層部が完全に統率しているということだから。そこまで求心力があるというのは恐ろしいものだ。


「到着しましたね。」


 宰相が遠くの方を見る。これで終わるな。…、あんなに多くの反革命軍がいたのか。確かに政府から武器を買っているとは言っても二千以上の兵士がいるとは聞いたことがない。それに武装もしっかりと着こなしている。行軍も統制が取れている。何か嫌な予感がする。


「車を出せ。」

「えっ?」

「早く。」


 車が後ろに行く。思わずシートベルトを握ってしまった。周りを見ると革命軍の兵士たちが道を塞いでいる。どういうことだ。何かがおかしい。もう逃げることはできない。


「何か用か?」

「それはこちらの話だけどな。」


 出てきた男は優しそうな男。体も痩せているが、服の中は体が締まっているように見える。彼には何か雰囲気がある。


「別に私は君に用はないのだが。」

「そうか。俺はあると思ったがな。」

「ないぞ。さてと、そこをどいていただけるか?政務に戻らないといけないのでな。」

「そうもいかんな。」


 後ろから出てきたのはあの女である。…失敗したのか。いつも成功とは限らんのだが、タイミングが最悪だな。そういえば宰相が出てこないな。


「その女がどうかしたのか?」

「ほう。貴様の飼い犬だと思ったが違うのか?」


 彼女の表情を見るが、表情が抜けている。何かがおかしい。


「それは私が答えましょう。」


 出てきたのは宰相である。


「おいおい、どうしてお前が…。」

「分からないのですか?」


 彼は銃口を頭に向けている。


「では、分からないまま死んでください。」


 意識が暗転していく。



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