4話
報告の後、シュルツは自室に戻った。シュルツは第4艦隊の第3大隊に属している。
哨戒任務は各大隊が一定期間のローテーションで従事しており、何事もなければ帰還は今から15日後だった。
各大隊は基地よりさらに先の指定宙域に集合し、そこを拠点として各々の哨戒ルートへ分かれていくのである。
232小隊はその損害から本来の哨戒任務を予備部隊に任せ、早くに帰還したのだ。
つまり、第3大隊が帰還するまでシュルツ達は手持ち無沙汰になったのである。
艦隊司令部からはそれまでの間の休養が認められていた。但し、外出は認められていない。
シュルツは使用制限のなく、気軽に使える基地のシャワーを存分に浴び、ベッドへ倒れ込んでようやくホーグ達と飲む約束をしていた事を思い出した。
シュルツが急ぎ足で第3大隊付きのバーに向かうと、232小隊の面々が既に集まっていた。
シュルツに気づいた面々が軽く敬礼をすると、周囲の人間は次々とそれに気づき、敬礼をしていく。
普段と違った反応を返す皆にシュルツは内心狼狽えたが、何か言わなければと言葉を探す。
「皆、今回の任務はご苦労だった。予定外の戦闘が発生したが、皆が無事で嬉しく思う。色々と思う所も有るだろうが、今は生きて帰れた事を喜ぼう」
「…あ〜、どうしたんだ?酒の席じゃいつもは俺の事なんて気にしてないだろう?居づらいんだが・・・」
皆のかしこまった雰囲気にシュルツは困惑をさらに深める。
「みんな艦長の事を尊敬してるって事ですよ。さ、乾杯の音頭をお願いします」
ダニエルは生来の明るさを発揮してシュルツに助け船を出す。
シュルツは丁度卓上にあったコップを渡され、首を傾げながらも受け取った。
「尊敬?何言ってんだよ。まあいい、とにかく無事に帰ってこれた事に乾杯!」
シュルツの乾杯の声に、酒場からは一斉に乾杯の声が上がり、いつもの明るい雰囲気が戻った。
「艦長、ここにどうぞ」
ホーグに促され、シュルツはホーグとダニエルの間の席に座る。
「ああ、すまんな。ありがとう。で、ダニエル。さっきのはどういう事だ?」
シュルツは先程の皆の反応についてダニエルに尋ねた。
「どういう事も何も、皆んな尊敬してるんですよ。初めての実践で完勝したんですから。帝国軍と遭遇して1隻の撃沈もなく、皆んなで生きて帰って来れた。これも全部艦長のおかげって事です。
それに、最後にヴォルに射撃を命令した瞬間。あれを見て、艦長がその年で艦長になれた理由がよくわかりましたよ。俺なら間違いなく躊躇ったでしょう」
シュルツは士官学校での優秀さから若くして艦長に抜擢された。これはただシュルツの優秀さを表してはいたが、その下につく部下達は、正直不安だらけだったのだ。
実戦経験のない異様に若い艦長に命を預けなければならないのである。階級上の上下関係はさて置き、皆が不安に思う事も仕方がなかった。
だが、シュルツは帝国軍の駆逐艦を見事撃ち破り、皆を無事に生還させた。
元々懐疑的な目で見られていた事もあり、今回の成果で大きくその評価を上げたのである。
「ダニエルの言う通りですよ。小隊の皆、艦長に感謝してるんです」
ホーグがダニエルに続いてシュルツを賞賛する。
「2人ともやめてくれ。敵が駆逐艦だったから偶々上手くいっただけだ」
シュルツはそう言いながらも嬉しそうに杯を煽った。