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星間戦争記  作者: 陽伊路
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2話–初遭遇

『こちら《シーホーク》、異常ありません。各艦、状況を知らせてください』


 20分後、《シーホーク》は帝国方面への最大進出点へと到達した。

 サリィは何時ものように僚艦と連絡を取っている。最早慣れたものである。

ランドリア・サリィは《シーホーク》の通信士である。非常に明るい性格でだが、どこか抜けたような性格をしている。だが、その性格故に緊急時には大きく取り乱すこともあり、シュルツとしては目の話せない乗員の1人だ。


『こちら《ガリア》異常なし。静かなもんだ』

『こちら《ワーケン》同じく異常なし。いつも通りだな』


 僚艦も特に異常はないらしい。

 この哨戒任務には3隻のバーバリアン級巡洋艦から構成される第232小隊として従事している。


「艦長、異常なしです」


 任務を忠実にこなしたサリィは艦長であるシュルツへ報告する。


「よし、次のポイントへ移動だ」


 哨戒開始から3時間。任務の半分を消化しつつあったシュルツらは、小さな異常を感知することになる。


「艦長、前方に物体を感知!人工物と思われます」


 サリィが何かを見つけたようだった。

 今までの長閑な雰囲気は吹き飛び、艦橋は慌ただしくなる。


「ホーグ、最大まで拡大してメインスクリーンに出してくれ」


 この時代、戦場のあらゆる地点ではジャミングが行われ、レーダーはおろか遠距離通信もままならない。このような状況下で唯一頼れる索敵手段は光学観測によるものだけだ。


 ホーグはシュルツの命令に従って、光学レンズに映った物体をメインスクリーンに投影する。

 人間の目には1つにしか見えないその点は、索敵システムによると3点の集合らしかった。


「これは・・・チッ、ついてない。サリィ、帝国の哨戒らしき部隊と接触した事を伝えてくれ。ダニエル、機関出力最大。いつでも全速を出せるように」


 シュルツは指示を出し、戦闘態勢をとらせた。

 その間、ホーグは物体の解析を進める。

 232小隊は全艦が戦闘態勢へと移行し、非常時に備える。


「《ワーケン》より入電、[前方の物体を帝国軍艦艇と確認。敵艦3、キョリ4000ミリス]とのことです」


「帝国軍は哨戒ルートを変えたのかもしれないな。サリィ、通信圏内に友軍艦艇はいるか?」


 いくら密に哨戒をしているとはいえ、共和国には戦力を遊ばせておく余裕はない。妨害の激しい帝国との国境線で通信圏内に友軍艦艇はいないだろう。


「応答ありません。付近に友軍艦艇はいないと思われます」


「ホーグ、敵艦の艦種は識別出来ないか?」


「この距離では難しいです。3500ミリスまで近ずけばなんとか」


 宇宙空間におけるレーザー砲の有効射程距離は3200ミリスと言われている。これ以上遠い場合、命中は期待できない。

 つまり、識別可能距離まで近ずけばすぐにレーザーが飛んでくる事を意味していた。


 シュルツが艦種に拘るのには、無論理由がある。

 帝国軍のナムレス級巡洋艦は280Bレーザー砲を搭載している。共和国のバーバリアン級巡洋艦は210Bレーザー砲であるため、威力が全く違うのだ。


 バーバリアン級巡洋艦の装甲は対光学兵装に特化しているため完全な不利という訳ではないが、正面切って戦うには厳しいのである。


 だが、前方の帝国軍がラミレス級駆逐艦であれば話は違う。

 ラミレス級駆逐艦の主砲は190Bレーザー砲で、バーバリアン級の方が優っている。

 無論、装甲もバーバリアン級の方が厚く、かなり有利に戦えるはずだ。

 ただし、速度性能はラミレス級駆逐艦の方が優れているため、撃沈するには早い段階から距離を詰める必要がある。


「サリィ、小隊各艦に通達。距離3600ミリスにて主砲150Bで射撃開始。その後、装填完了次第順次発射だ。ヴォル、当てなくていい。チャージでき次第直ぐに撃て」


 サリィは直ぐに僚艦と通信をつなぎ、ヴォルはシュルツの言葉に小さく頷く。


 ミハエル・ヴォルは《シーホーク》の火器管制を担っている。サリィの幼馴染だが、性格は対照的で寡黙である。周囲をよく見ており、意外にもお節介焼きだ。


「キョリ3700ミリス、3650、40、30」


 副艦長のホーグが距離をカウントする。

 数値が小さくなるのに反比例し、環境の空気は張り詰めて行く。

 僚艦の《ガリア》、《ワーケン》も同様だろう。


 そしてホーグは距離3600ミリスを報じた瞬間、シュルツの「撃て」の一声と共に3本の光線が発射された。

 その光は《シーホーク》の一瞬装甲を照らし、宇宙空間を突き進む。


 十数秒後、再度レーザーが発射され、僚艦も次々に射撃する。


「敵艦、増速!速度2300、2400、2500、尚も加速中」


「よし、かかった!サリィ、小隊各艦に通達。射撃停止。敵艦をラミレス級駆逐艦と判断、最大戦速で突撃せよ。距離2800ミリスで射撃開始」


 帝国軍のナムレス級巡洋艦の最大戦速は2000ミリスである。よって、2500ミリス以上の速度で突っ込んでくる敵艦はラミレス級駆逐艦ということになる。


 シュルツはこの判別のためにあえて主砲威力を150Bに制限し、射撃した。

 これは、共和国軍のモスキート級駆逐艦の主砲が150Bレーザー砲だからである。

 モスキート級駆逐艦は帝国、連邦のあらゆる艦種よりも速く、帝国軍は逃げられる前に補足するべく全速力で追撃を始めたのである。

 だが、それは地獄の門へ突撃と同義であった。


「主砲射撃開始!2500ミリスでミサイル発射。2000まで距離を詰めろ」


 帝国軍哨戒艦艇と232小隊間の距離が2800を切った瞬間、232小隊は210Bでの全力射撃を開始した。

 この段階でようやく帝国軍は騙された事を悟るも、最早手遅れだった。


 帝国軍駆逐艦が反転しようものなら、その薄い背面を執拗に狙われ続ける事になる。

 この距離では、逃げ切るよりも先にバーバリアン級巡洋艦の砲火に囚われることになるのは明白であり、帝国軍駆逐艦部隊はこの不利な戦闘へ身を投じざるを得なかった。


「敵艦に命中、効果あり。《ガリア》被弾。損害軽微」


 ホーグは戦況を報告する。


 《シーホーク》の放ったレーザー砲が帝国軍駆逐艦に命中し、装甲を赤熱させ、一部を蒸発させた。

 同時に被弾した《ガリア》も艦正面を真っ赤にさせながら射撃を続ける。


「敵艦、ミサイル一斉発射」

「アイギス起動、迎撃開始」

 ホーグの報告にシュルツは素早く対応し、一斉にアイギスを作動。宇宙空間を更に明るく照らし出す。

 各艦5基、合計15基のアイギスから飛び出したレーザーは次々と帝国軍のミサイルを撃ち抜いて行く。

 濃密な弾幕を前に帝国軍のミサイルは連続して爆発して行く。


 バーバリアン級巡洋艦の装甲は対光学兵装に特化しているため、ミサイルの連続着弾は致命的な損害を被る恐れがある。

 シュルツは冷や汗をかきながら、その光景を見つめていた。


 帝国軍のラミレス級駆逐艦は150発のミサイルを搭載しているため、合計450発のミサイルが次々と飛来する。

 危ない瞬間もありながらも、どうにか迎撃に成功していた時、ついに距離が2500ミリスを切った。


「ミサイル発射。お返ししてやれ!」


 次の瞬間、大量のミサイルが一斉に放たれ、帝国軍駆逐艦に襲いかかる。


 バーバリアン級巡洋艦は100発のミサイルを搭載しているのに加え、今回は2箇所のパイロンにハニカムを着けているため、合計800発のミサイルが発射できる。

 さらに、ハニカムは多数のミサイル発射機を備えており、大量のミサイルを同時発射する事ができた。


 帝国軍のラミレス級駆逐艦の装備する各艦2基、合計6基のアイギスは懸命に迎撃するも、その能力を超えていることは明らかだった。


 次々に命中するミサイルに帝国軍駆逐艦は炎に包まれる。さらには共和国巡洋艦からのレーザー砲も連続して着弾し、ラミレス級駆逐艦の前面装甲は限界を迎えつつあった。


「主砲撃ち続けろ。手を止めるな」

 シュルツは確実に帝国軍駆逐艦隊を追い詰めて行く。

 ラミレス級駆逐艦の主砲は190Bレーザー砲であり、バーバリアン級巡洋艦と言えども油断はできない。


 帝国軍の一矢報いようと発射され続けた主砲も遂には射撃不能となり、共和国巡洋艦からの一方的射撃にさらされる。

 バーバリアン級巡洋艦の主砲よって装甲が蒸発して行く。

 帝国軍の誇るダンデム特殊装甲は高熱によって表面構造が変化し、実弾兵器への高い抵抗を示す。

 だが、この数のミサイルを防ぎきる事は出来ず、装甲は破壊され、船体への損害は止まらない。


 そして、ミサイルの何倍もの大きさの火球が宇宙空間に出現した。


「敵艦、爆沈!あとは2隻のみです!」


 ホーグは敵艦を撃沈した事に興奮したのか、普段よりも大きな声でシュルツに知らせる。


「よし、攻撃停止。降伏勧告を送る。サリィ、通信繋げられるか」


「は、はい!オープンチャンネルで接触します」


 もう勝敗は明らかだ。これ以上戦闘を続けても帝国軍哨戒部隊に勝ち目はない。

 帝国軍人が誇り高いとはいえ、この状況なら降伏に応じるだろう。


「繋がりました。どうぞ」


 帝国人との初の会話が降伏勧告とはな。これも軍人の業というやつか


『こちらは第232小隊旗艦シーホーク艦長ドーリアン・シュルツです。最早貴隊に勝ち目はありません。機関を停止し、降伏していただきたい。ルナリアス協定に基づいて丁重に扱う事を約束します』


『こちら第113駆逐隊隊長バルガ・ギロ。我ら帝国軍人が共和国に降伏する事はない。帝国軍人の誇りにかけて最後の瞬間まで戦い続ける。帝国の理念を解する事もできない者に、降伏などあり得ない』


「帝国の理念だと?平和、平和といいながら他国に戦争を仕掛ける国に殉じると言うのか」


「艦長、帝国軍は既に通信を切断しています」


「クソっ、国のためを思うなら、生きてこそそれが果たせるのではないのか!?」


 そんなに死にたいなら自分だけで死ねばいい。部下の命まで巻き込んで–


「敵艦、こちらに志向中!主砲エネルギーチャージを確認!?まだ動くようです。艦長、攻撃を!」


 沈黙したと思われていた主砲が再度稼働し、ホーグは慌てる。シュルツに考える時間は残されていなかった。


「クソっ、全艦、攻撃開始!敵はまだ戦闘能力を残している。最後まで油断するな」


 全身を赤熱させた帝国軍駆逐艦は共和国への怒りを示しているかのようだった。

 先にエネルギーチャージを始めた帝国軍だったが、やはり万全ではないのだろう。先に射撃を始めたのは共和国軍巡洋艦だった。

 すでに全身を真っ赤にしたラミレス級駆逐艦は2発の210Bレーザー砲の直撃を受けた。

 限界を迎えたダンデム特殊装甲は共和国軍のレーザーを受け止めきれず、ラミレス級駆逐艦の船体を中央まで食い破った。

 次の瞬間、爆煙をあげ艦体は2つに分離。そのそれぞれが大きな火球を形成して宇宙空間に消えていった。

 最後の1隻となったラミレス級駆逐艦は、僚艦の最後を見届けながらも共和国軍巡洋艦に指向し続ける。

 そして、最後の反撃が共和国軍を襲った。


「キャアッッ」

「うわっ、前面装甲に被弾!190Bどこじゃない、250Bの威力はありましたよ!?前方のミサイル発射機破損しました!」


 想定よりも格段に大きな威力を目の当たりにサリィは思わず叫び声をあげ、ホーグは大きく取り乱した。


「サリィ、ホーグ、油断するなと言ったはずだ。ヴィル反撃だ。次で確実に沈める」


 シュルツは敵の隊長と思われるバルガ・ギロの覚悟を垣間見た。

 本来190Bが最大出力のレーザー砲に約250Bものエネルギーをチャージしたのだ。

 ラミレス級駆逐艦が無事であるはずがなく、艦首の射撃孔は完全に融解し、周辺の前面装甲は内部から蒸発、分離していた。さらに艦体後部では艦内部からの連続した爆発が発生。速度は1000ミリスを切り、尚も低下していた。


 シュルツはこれを受けて再度降伏勧告を送ろうとするも、艦上部から数発のミサイルが発射された事を見て断念する。


 ヴォルは射撃を躊躇ったのか、チャージ完了後も射撃する事なく、最終確認を求めるようにシュルツを見つめた。


「クッ、敵艦にはまだ交戦の意思がある。攻撃しなければならない。ヴォル、撃て」


 シュルツは静まりかえった艦橋で命令する。


 そしてヴォルは了解の意を送り、主砲を放った。


 《シーホーク》から放たれたレーザーは速度の落ち、回避もままならないラミレス級駆逐艦に命中した。

 命中したレーザーは内在するエネルギーを以て、殆ど効力を失った前面装甲を軽々と貫通。

 艦体内部でその力を解放した。

 ラミレス級駆逐艦は艦体下部まで一気に焼き尽くされ、小規模な爆発が連続して発生。

 それらが後部の爆破と結合するかのように艦全体を包み込んだ。


 輝く炎が消えた後にはただ黒く変色し、3つに分かたれたラミレス級駆逐艦が漂っていた。

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