9.予告状
登場人物
ルーベン王国
・王子
ケヴィン・デ・ウァーハエツ
<通称:王子、ウァーハエツ>
(マコトが転移)
・王子側近メイド
ヒーサ
<通称:ヒーサ>
(ユキが転移)
「王妃様っ! このようなものが届きました」
「誰からなの?」
「えぇと、アルシーノ・ルパンと書かれています」
!?
ルパン! まさか、予告状か? ちょっと早すぎないか?
王妃が落ち着いた様子で一枚の紙を見るが、読んだとたん表情が変わった。力が抜けた王妃に手から手紙を奪い取って見てみると、確かに一番下に「 愛瑠椎乃・琉判(仮)」と書かれている。仮、てのはよく分からないが。
真ん中に大きな字で簡潔にこう書かれている。
--今夜、魔法の鏡を--
怪盗からの予告状とあって、俺は憎い気持ちもあったが、その一方でその堂々たる態度に「カッコいい」とも思ってしまった。
「これ、もしかしてシノちゃん?」
ユキの一言でやっと思い出した。ルパンを名乗っていたシノの存在を(いや、君が勝手に名付けたんだよ)
しかし、シノは誰に転移したのだろう?
「王妃殿、ルパンのことならわたくしにお任せ下さい!」
「あ、ありがとうございます。でも、ルパンて誰かしら?」
「え? あの有名な怪盗ですよっ」
「……うーん、私は聞いたこと無いわ」
あ〜、ここはまだルパン集も売られていない時代か、もしくはルパンがいない世界か。そうだと分かれば必然的にその予告状を書いたのは、ルパンを名乗るシノということだ。
では、シノが転移したのは……「白雪姫」?? それが一番しっくりくるが……
それか、よくある悪役令嬢に転移したとか? だとすると王妃?……
まあ、まずは魔法の鏡を見なければならない!
「王妃殿、鏡を拝見したいのですが……」
「分かってますわっ! あまり大きな声で言わないで下さいます?」
「申し訳ありません」
王妃が廊下をさっさと歩き始める。俺とユキは2人で顔を見合わせながらワクワクしてついて行く。
「マァ君、魔法の鏡って本当に喋るのかなぁ〜?」
「そんな訳ないだろっ? 何か語ったとしてもそれはトリックだよ」
「もぉぉ、夢を壊さないでよぉ」
「おっほん、ちょっと鏡を見ていただく前に言っておきたいことがあるのですけど」
やはり王妃は俺とユキが仲良くするのは気に入らないようできつい口調で話す。
「私の魔法の鏡はね、鏡に朝日が照らす時にしか喋りません。それに、1日1つの質問にしか答えてくれない。でも、その答えは真実そのものなのです!」
「ふ〜ん、結構特殊なのですね。今はお昼過ぎだから声は聞けませんね。あのぉ、それは魔術師からでも教えてもらったんですか?」
「ま、まぁそんなところですね。では、お見せしますわ」
連れて来られたのは一番下の端っこの部屋だった。周りは足音もしないほど人がいない。
不気味な音で扉が開く。中は掃除が行き届いた綺麗な部屋だ。ただ、少し薄暗い。ユキに腕を握られなが恐る恐る中は入る。
今まで行った美術館より豪華で大きな絵や像が並ぶ。その中でひときわ輝いているものが「魔法の鏡」である。
金の枠は僅かな光で眩しいほどに輝き、全体に細かい彫刻が施され、所々に暗く光る宝石が散りばめられている。
そして真ん中に大きく広がる鏡。向こうにも世界があるのではないかという感覚に陥ってしまうほど、すべてをそのまま映している。
その優雅で魅惑的な姿に、俺とユキは感動の声を漏らしてしまった。確かにただの鏡ではない気がする。
「近くで見てよろしいですか?」
「うーん、まあ、いいですけど……」
俺は念入りに鏡を睨む。鏡越しに王妃と目が合わないように気をつけながら……
その視線がこっちから外れた隙を狙って鏡を指で軽く叩いてみた。
意外に軽い音だ。王妃がその音を聞こえたらしくこっちに向き直ったので、何も無かったかのように鏡に熱い視線を向ける。これも探偵のスキルの一つ、「ごまかし」である(スキルでも何でもない)。
「……うっ…………」
……んっ!? なんだ? 鏡から微かに声がしたような…… まさか魔法の鏡が喋ったのか? しかもこのお昼過ぎの時間に?
「ウァーハエツ王子、どうかなされましたか?」
「……いえ、何でもありません」
鏡から少し離れていたユキと王妃にはさっきの声が聞こえなかったようだ。
と、いきなり閉めておいたドアを勢いよく開き、いかつい武装をした兵士が入って来た。
「王妃っ!! なぜその鏡を外の人間に見せておられるのですかっ!」
あれ? こいつなんで鏡について知っているんだ? しかもさっき面会の間で王のすぐ横にいた家来じゃないか! …………
*
(マコト、こと、ウァーハエツ、こと、探偵王子 射露玖 ・鳳武頭 の頭の中で全てが繋がり始めているのだった。
そして、シノ、こと、怪盗 愛琉椎乃・瑠判 も動き始めていた。)
時々出てくる( )は中二病発言などの翻訳・説明、及びツッコミだと思ってください。
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