1.射露玖 鳳武頭
(____春。それは出会いと別れの季節と呼ばれる。
卒業式という儀式を終えた学校は、しばらくすると新たな生徒を迎え入れる。
着慣れない制服に身を包む新入生たちは各々、桜が彩る爽やかな風を感じて、これから同級生となる男女を見て、青春のひと時を運ぶ廊下を歩いて、明るい学校生活になってくれと期待を膨らませているだろう。
約1名を除いては…………)
「『事件』とは、弱く欲深き人間同士の争いなり。
『推理』とは、見えないものを可能性と知識で射貫く計算なり。
『真実』とは、時に無惨に斬りつけ、時に光へと斬り開く両刃の剣なり。
かつて、あらゆる事件の者がいた。推理によって謎を嘲笑う者がいた。全ての
射露玖 鳳武頭 であるっ!
…… 」
一般人。この言葉が一番似合わないのは俺であろう。
こうして上から見ると地をはっている(歩いている)人間ども(新入生)がどれだけ小さな存在か……(お前もだ)。
「はぁ、はぁぁ、、まぁ君早いよぉ、はぁ」
息を切らしながら走り寄ってきた少女は、膝に手をついてこちらに訴えかけてくる。
「すまない、助手よ。
だが、覚えておけ。一瞬の積み重ねが成功を生み、時として一瞬がその成功を崩すのだ。あと俺の名は射露玖鳳武頭だ」
「ふ〜ん、、、分かった」
「本当に分かっているのか?」
「分かってるよ! つまり、、、まぁ君は一瞬成功した探偵さん」
「俺は一発屋の探偵じゃない! やっぱり、分かってないっ。あと俺の名は射露玖鳳武頭だ!」
「えへへ〜、それにしても今日は色々上手くいったね」
「ああ、どうやら奴らも大したこと無いみたいだな」
「そうだね。そこのドアは外から鍵を閉めたし、鍵がかかってたところにこのダミーの鍵をかけといたから、ここにいることは誰にも分かるはずないよ。
分かるとしたら、そこを飛んでるカラスさんくらいかな、、、なんてね」
そう言ってゆきは余裕の笑顔を向けてくる、が、、、なぜか安心できない。
「、、、それで、ダミーの鍵は何個用意したんだ?」
「一つしか用意できなかったんだぁ」
「つまり、助手が今持っている鍵がその一つしかないダミーの鍵ということか?」
「、、、そうだけど?」
「、、、」
「、、、もしかして、まぁ君何か閃いたの? 影に潜んでこっちの様子を伺う敵の存在とか?」
「おいおいおいおいやめろやめろやめろっ。閃くどころか嫌な予感しかしない!」
この小柄で可愛げな少女は名和 徹という。肩に少しかかるくらいの黒髪ツインテールで、いつも上目遣いで、一人称がユッキー。名前の漢字は固いが、読みと性格は柔らかすぎるくらいだ。俺の幼馴染で、唯一の助手(友達)である。
俺のジャケットを握ったユキの視線の先は屋上の出入り口。
「はぁ、もうこの居場所が組織の一味(教職員)にバレてしまったというのか!?」
「マァ君があんなに大きな声で叫んでるからだよぉ」
「お、俺のせいかよ!(当たり前だろ) まあ、こんなこともあろうかと準備はしてきたから安心しろ」
「じゅんび?」
「まず、あれをかぶれ! ぎりぎりまで引き付けてから俺の合図で行くぞ、いいなっ!」
「了解なのです」
俺はジャケットの内ポケットから出した仮面を装着し、ユキは黒いベールの帽子をかぶった。
と、ついにドアの鍵が組織の一味によって破られた。一気に3人がこちらへ走ってくる。
「「「 君たちは…………新入生じゃなか!? 危ないからこっちへ来なさいっ 」」」
「それはできない!? まだ我らの正体を明かす時ではないのだ!」(さっきバリバリ大声で正体を叫んでいたのでは?)
「「「 ……何を言っている? いいからとりあえずっ 」」」
「…………Go!!」
「「「 っ!? 」」」
俺の合図と同時に、白い煙が辺りを一瞬で覆った。視界を失って立ちすくんでいる彼らの脇を抜け、出入り口へ一直線。
「ふぅ、組織が送り出したやつもこの程度か。大丈夫か、ユキ? 急ぐぞ、ほら、手」
「……うん!」
ちなみに、俺の名前は射露玖鳳武頭。あえて違う名を名乗れと言うのなら刃田 真(こっちが本名)。学生ながら影で探偵をしている(正しくは表立って探偵に憧れている)。謎と真実を探しながら、黒幕の組織や怪盗と闘っているのだ(あくまで妄想)。ユキは俺の優秀な助手である(設定)。
周りの人々は俺のことを『中二病』と呼ぶ(重症)。
*
ここは私立花桜中学という。
今日は中学の入学式なのだ。俺とユキは同じ1年A組になった。やはり最高の探偵と助手として切っても切れない何かで結ばれているのだろう(たまたま)。
______ところで、青春といえば何か?
スポーツ?
友情?
恋?
いや、何より謎解きだ!(ただの探偵ごっこ)
しかし!!
ここには大きな問題がある。この学校は部活が強制加入なのにも関わらず、謎解き部、もしくは探偵部というものが存在しないのである! (全国見ても多分無い)
小学校までは部活もなく、下校して推理小説を読んだりミステリー系のアニメやドラマを見たりしていたが、中学ではそうはいかない。
だが案ずるな! この射露玖 鳳武頭が考え抜いた最善の解決策がある。
それはっ、新しい部活を作ることだっ!!
*
キーン・コーン・カーン・コーン キーン……
今日は入学式のため一年生は午前放課。しかし帰る前に行かなければならない所がある。それは図書室! 学校の価値は図書室の本の数とセンス、と言っても過言ではない(あくまで偏った価値観)。
廊下や階段を登ったり降ったりしながら思考をフル回転させ、ようやく図書室を突き止めた(単純に迷った)。見つけるのに時間が掛かったがそれもそのはず、図書館は最上階なのだ。
白塗りのコンクリートと引き戸が並ぶ廊下からすると浮いたように見える、深々とした焦げ茶の木扉。観音開きの片方を引く。
冷たい銅のノブから、木と木が擦れる振動が手に伝わってくる。
背表紙が植物の細胞のように整列し、壁と化している。棚だけでなく床、机も暗めの色の木で揃い、そこに天窓の光芒が差し、閑閑たるぬくもりに思わず長い呼気がこぼれる。最上階だからなのか、教室より天井が高く、本棚は十数段ある。
「よしっ、ユキよ。調査を開始するぞ!」
「りょーかいっ」
ユキがピンッと指を張って敬礼する。右と左に別れて調べ始めた。ざっと1万冊はあるので、かなり重労働だ。
目は段を追い、指先が背表紙を隣へ隣へなぞる。
………………あった!!
思わず声が出てしまった。
そう、探していたのはコナン・ドイルの「シャーロック・ホームズの冒険シリーズ」だ。図書室の奥の方の棚の1番下段にあった。
感動し(ヌフフと微笑み)ながらしゃがんで手に取ろうとすると、誰かと肩が当たった。驚いて横を見ると長い茶髪の少女と目が合った。
そいつがしゃがみながら開いていた本は……
アルセーヌ・ルパン!
時々出てくる( )は中二病発言の翻訳、及びツッコミだと思ってください。
できるだけ毎日更新しようと思います。
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