第二十一話 対世界神樹ユグドラシル遠征会議
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方針は決まったが、それを会議する前にまずは国民に説明だ。
城の北側にある大広場には全国民が非難し、身を寄せ合って不安そうにしている。
システリナ王女の報告によれば今のところ危険は無しとの事なので、国民は解散してもいいだろうと結論付けた。
城のバルコニーからラーナと自分が立ち、国民がそれに注目する。
セトルはまだ幼いのでルミに預けシステリナ王女の眠るベッドに向かわせた。
オレが『清聴』のアーツを発動すると、ざわめきが収まり、声が良く届くようになる。
ラーナも【王】系統で同じようなアーツを使って国民の注目を集めたようだ。
「――みなさん、突然の声に驚いたでしょう。しかし、その声に惑わされず、みなさんがここに無事避難できたこととてもすばらしく思います。みなさんがここに集まれたのはハヤト様の教えの賜物でしょう。これからもハヤト様の言うことをしっかり聞き、自分の命を大切にしましょう。――先ほどの声の影響ですが、今のところ何も影響はありません。魔物が現れたということもありません。今のところは安全でしょう――」
国民のほとんどが幼い子どもなので、その子どもにも理解できるように噛み砕いて話すラーナ。
職業覚醒について、国民にはまだ秘密にする。これを言うとパニックになりかねない。
それで一応は納得したのか、安心とは程遠い雰囲気ではあるが子どもたちが少しずつ解散していった。しかし相当数の子どもたちは身を寄せ合いその場から動かず、セイペルゴンの身体に身を寄せている――ってセイペルゴンいたのか君。完全に置物と化していて気が付かなかった。いや、子どもたちが身を寄せすぎていたため隠れてしまっていたようだ。
うん、まあ。セイペルゴンの近くにいれば大抵の大事が起きても大丈夫だろう。
とりあえずこの場はこれで良さそうだ、と部屋に戻った。
これから、方針のためにするべきことを会議する必要があるのだ。
システリナ王女はもう目覚めただろうか…。
「では、世界神樹ユグドラシル調査のための会議を行います。進行はわたくしシステリナ・エルヴァナエナ・フォルエンが行わせていただきますわ」
ラーナの部屋に戻ろうとしたらシステリナ王女の従者が現れて会議の場を設けたので会議室へ移動を願いますと伝令に来た。
それに従い、今までほぼ放置されていた会議室に入ると、そこには顔色は悪いシステリナ王女を始め、ルミ、メティ、エリー、セイナ、ミリア、チカ、シノン、従者三人が席についていた。
システリナ王女は相当無理をしているみたいだ、そう声を掛けると、
「こんなときに寝てなんて居られません」
と返ってきたので、せめて『沈静』を掛けさせてもらった。
気休めかもしれないが、これで少しは落ち着く事が出来るだろう。
会議室に同席するメティからシノンまでの六人は実は国民の中でも幹部候補みたいな位置づけだ。何か作業を子どもたちにさせるとき、大体この六人の内誰かがリーダーになり監督する。
よって、城塞都市サンクチュアリの今後の方針を決定させる大事な会議の時は、こうして参加してもらっていたりする。
とはいえまだまだ未熟なのでほとんど聞き専だ。
セトルは産婆のババさんが見ているようだ。
システリナ王女が立ち上がり進行役をつとめ、会議が進みだす。
「過去80年に渡り、一度として人類が踏み入れたこと無い聖地。世界神樹ユグドラシル様の聳える地。これまで人類は幾度として世界神樹ユグドラシルへの遠征を行ってきました。しかし、そのすべてが失敗に終わっています。よって世界神樹ユグドラシルになにが起こっているのか、そこに何があるのか誰にもわかっていません」
まずは問題点の洗い出しからだ、システリナ王女が言ったとおり、世界神樹ユグドラシルには幾度も遠征を行ってきた。その中には超越者が複数参加した部隊もあったそうだ。
だが、そのどれも、誰も帰ってくることは無く失敗に終わっている。
しかし、今は状況が違う。
その遠征集団が邪竜王によって滅びたのだとすれば、心配事が一つ減る。何しろ邪竜王は聖竜帝に進化してオレの手元にいるからだ。とはいえセイペルゴンに過去の記憶はほとんど無いようだし、覚えているはずもないか。
一応邪竜王クラスの魔物がいるという想定で話を進める。
「ハヤト様がほぼ単独で邪竜王を討伐したのは聞き及んでおります。では、邪竜王クラスの魔物が出たときはハヤト様が単騎で討伐する。ということでよろしいですか?」
「その認識で構わないですよ」
「と、なると。…仮にハヤト様が遠征役を務めると仮定して、補給はどうでしましょうか? それにいくらハヤト様でも戦い続けられるわけがありませんから、どこかで休める場所を確保しなければ」
「『空間収納理術』に食料入れておけばいいですし、建物ならすぐに建てられますよ」
「……本当に規格外ですね。ですがそれならば遠征自体は可能、ということでよろしいでしょうか?」
「そうですね。自分一人なら、おそらくは可能だと思いますが……」
自分で言うのもなんだが、オレは強い。
しかもこの世界に着てから二ヶ月間、魔物の跋扈する大地でサバイバル生活を送っていたため遠征するのは問題なかったりする。しかし――、
「問題なのは世界神樹ユグドラシル様の聖地がどこにあるかという事ですね。その記録も時の流れに埋もれてしまいました。地図なども紛失し残っている資料はほとんどありません」
ラーナの言葉に頷く。そう。誰も世界神樹ユグドラシルがどこにあるかを知らないのだ。
何しろここは大陸南のほぼ外れの地。世界神樹ユグドラシルは大陸の北の方に聳えているらしく、移動に数ヶ月単位で時間がかかると思われる。そのため誰も世界神樹ユグドラシルの場所を伝聞でしか知らないのだ。
地図なども戦争に使われることがほとんどの軍事機密であり、それも近場の情報しか載っていない。しかも北に関しては100年以上前の物しかないらしい。正直役に立たない。
「確実に探索が必要になるでしょう」
「そうですね。とても時間が掛かると思います」
国も町もすべて滅んで人は住んでいない土地だ。誰かに道を教えてもらうことも出来ない。ということは、この巨大な大陸でどこにあるともわからない世界神樹ユグドラシルを探索する必要がある。
探索にどれほど時間がかかるかもわからない。ひょっとすれば年単位の時間がかかる可能性だってあるのだ。
しかし、こちらはその時間をあまり持っていない。
「時間をかければサンクチュアリが干上がってしまいますわ。この都市はハヤト様に大きく依存しているのですから」
ラーナが難しい顔をする。
遠征することは出来る。
しかし、それにはとても無視できない問題があった。
オレがサンクチュアリを離れたとして、防衛はセイペルゴン任せる事になる。しかしそれはあまりにも不安だ。
スタンピードが発生したとして、その対策、偵察、完全討滅など、ミッションをパーフェクトに熟すことを、はたしてセイペルゴンに出来るだろうか?
さらに問題なのは、城塞都市サンクチュアリのライフライン、これのいくつかがオレに依存している点だ。
特に水はかなり依存している。
城塞都市サンクチュアリには川は無く、ため池も無い。そして井戸も無い。
ではどこから水を調達しているのかといえば、オレが毎朝“水魔法”系を使いサンクチュアリで使う水を出しているのだ。
一応は【水術士見習い】という水魔法が使える職業に覚醒している子も居るが、たった六人しかいない。とても、サンクチュアリの水源を担えるものではなかった。ある程度国民に職業覚醒者が揃ってきたら【水術士見習い】を増やす予定だったが、職業覚醒が出来なくなるとは想定外だった。
他にも、燃料のスライムオイル作り、そして食料の倉庫役など、オレの能力に依存しているものは多い。
オレがサンクチュアリを離れていられるのは良いところ一ヶ月程度だろう。
これが今まで原因は見えていても遠征できずにいた最大の理由だ。
今日はみんなで知恵を出し合い、この問題を解決するのが議題だった。




