第十九話 凶兆の前触れ
読んでいただきありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
それは突然に、何の前触れも無く起きた。
《システムメッセージ》
《世界神樹ユグドラシルとの接続が切断されました》
《職業覚醒システムは凍結されます》
「――――何?」
そこからともなく聞こえたそれは、まるで警報にも似た緊張感を与えた。
心臓を鷲掴みにされたような感覚に足下がおぼつかなくなる。
――職業覚醒システムが凍結される? そんな馬鹿な…!
「ッ! ――『火生成』! ――『紅蓮百火』! ―――『火炎暴走』!!」
咄嗟に“火魔法”や“火理術”を使うと、いつも使うように炎の嵐が吹き出した。
魔法や理術が使えなくなっていなくてホッとする。
落ち着いて、ようやく我に返って青ざめる。
思わず“火”系の魔法理術を使ってしまったけれど、ここが長剣ボンソードを作っている荒野で良かった。町でやってたらシャレにならなかった。
いくら動揺していたとしても考え無しに試すのは気をつけよう。
ざっと辺りを見渡すが特に変わった様子は無い。
ただ、ログには先ほどの“システムメッセージ”というのがしっかり残っていて、それが夢では無いことを教えてくれる。
「いったい何が起こったんだ? ――いや、とにかく、戻ろう。ラーナや子どもたちが心配だ」
何やら落ち着かなくて、来たばっかりだったがすぐに帰宅することを決めた。
この感覚は日本に居た頃に震災を味わったときに似ている。とにかく早く帰って家族の無事を確認したい欲求に駆られた。
「馬は――」
後ろを見ると、足を畳んでへたり込み怯えている様子の馬がいた。
最近は【上位騎手】のレベル上げの為、移動に馬を利用していたのだが、先ほどの思わず撃ってしまった炎の嵐に怯えて縮こまってしまったらしい。
「あ、ごめんよ。もうあんなことはしないから。サンクチュアリに急いで帰らなければいけないんだ、動いて欲しい」
【調教術師】の力を借りて優しく馬に言うことを聞かせて立ち上がらせる。
「よし、走るぞ。全力で着いてこい」
時間が無いので騎乗はしない。オレが走った方が早いから。
まるで犬を散歩させるような格好で馬を走らせ、オレは手綱を持ちながらそれに併走する。
10分もせずにサンクチュアリに着く。
サンクチュアリの中は、閑散としていた。
いつも騒がしかった子どもたちも見当たらず、誰も外を出歩いていない。
慌てて『長距離探知』を発動させると、住民のほぼ全てが城に集まっている事が分かった。
馬を連れてそのまま城に向かう。
「みんなただいま。今帰ったよ」
「あ、はやとしゃまー」
「ハヤト様が帰ってきたよー」
「おかえり-」
城の北側にある大広場には、多くの子どもたちが集まっていた。
この子たちサンクチュアリの住民には何か大きな事件や災害があった場合、まずこの広場に避難するようにと覚えさせてある。その教えが生きているな。
あのメッセージからまだ15分くらいしか経っていないのにサンクチュアリのほぼ全ての住民が集まっていることから見ても、みんなしっかりと教えが根付いているとわかる。
それと同時にみんなにもあの声が聞こえていて、かつ子どもでも避難が必要なほどの大きな事件や災害なのだと認識するような、異常事態が発生していると改めて思い知った。
「ハヤト様、あの声はいったいなんだったの?」
9歳の子どもが聞いてくる。しかし、残念ながらオレはその答えることはできない。
ここに向かうまでに色々考えて、いくつか気がついたことがあったけれど、ここで教えるわけにはいかない。まずはラーナに相談しなくては。
「ごめんね、もうちょっとだけ待っていてもらえるかな? 今ラーナを連れてくるから。そうしたら話すよ」
「…うん。わかった」
ごめんね今は時間があまりないんだ。こういう災害時は初動が肝心だ、急いで対策を練らないといけない。
馬を他の子どもに預けると、今度は6歳の女の子が服を引っ張ってくる。
「ハヤト様、怖いの。早く戻ってきてね?」
「わかった。すぐ戻ってくるからちょっとだけ待っていてね」
「リーちゃんそういうときは誰かに抱きしめて貰うのが良いって前ラーナ様が言っていたよ」
頭を撫でて手を離して貰うと、近くに居た9歳っ子が妙なことを言いながら6歳っ子を抱っこして連れて行った。
またラーナは女子会でいろいろ拡散したらしい。なぜ女の子はこう、恋バナが好きなのだろうか。
おっと、今はそんな事を考えている場合ではなかった。急いで城に向かう。
「ただいま帰りました」
「――ハヤト様!」
人の気配があるラーナの部屋にノックして入ると、ラーナがセトルを抱きながら駆けてきたので慌てて抱き留める。
「ら、ラーナ。走ったら危ないですよ」
「ですが、ハヤト様を見たら、つい……」
ラーナのその姿がさっきの炎の嵐を起こした自分とダブった。身体が少し震えている。
多分、ラーナも落ち着かないんだと思う。取り乱す彼女をぎゅっと抱きしめ、片手で髪を撫でて落ち着かせる。
「申し訳ありませんでした。みっともないところをお見せしてしまいました」
「いいえ。自分とラーナは家族です。いつでもどこでも頼ってください」
「……はい」
震えが少し収まったみたいだ。
ラーナの腕に抱かれたセトルはジッとオレを見つめている。この状況でこの落ち着きよう、この子は大物になるかもな。
ラーナとセトル。二人が無事で良かった。
ホッと息をついたタイミングで部屋に同伴していたシアが声を掛けてきた。
「こほん。仲の良いところ申し訳ありませんが、話を進めさせていただいてよろしいですか?」
「あ、ああ。失礼しました。問題ありません、まずはサンクチュアリの状況を知りたいです」
ラーナを腕に抱き留めたまま話を進めるとシステリナ王女の眉間がピクリと動く。
そして、何故か諦めたように一度目をつむり、話し出した。
「では、今から20分ほど前。何か大きな存在、とでも言いましょうか、その声が突如としてサンクチュアリに…、いえ人々の耳に直接語りかけました」
「確認しています。外に居た自分にも、おそらく同じ声が届きましたから」
「なるほど。声はサンクチュアリだけでは無かったのですね」
システリナ王女が手元の紙にメモを取る。
「次に、サンクチュアリの住民のほとんどが何やら不吉な物を感じ、気持ちが落ち着かなくなりました。中には恐慌状態になった子も居ます。しかし、それも近くに居た子どもたちが宥めて沈静化したようです」
その報告にそうだろうと頷く。サンクチュアリの子どもたちはお互いを助け合いで生きている。通貨が無いので損得で動くなんてことはしない。困っている人が居たら皆で支える。それがサンクチュアリの生き方だ。
「そのあとすぐに住民は自主的に避難を始め、すぐに大広場に集まりました。ほぼ全ての住民の避難が完了。今のところ混乱は見られていません」
「了解です。サンクチュアリが何事もなくてホッとしました」
「ふふ、これもハヤト様の薫陶の賜です。みんなハヤト様の教えた事をちゃんと理解していたのですよ? シハ王国でも何度もスタンピードが来襲しましたが、国民の避難というのはすごく大変なのです。こんなに早く、それも自主的に集まってくるなんて、さすがはハヤト様です」
ラーナが熱っぽい上目遣いで見つめながら褒めてくれる。なんだかくすぐったい。
しかし、サンクチュアリの子どもたちやラーナたちに何事もなかった事が分かって本当に良かった。
「ありがとうラーナ。――では、次は自分が報告しますね」
ラーナにお礼を言ってからシステリナ王女に向き直った。
誤字報告いつもいつもありがとうございます!
おかげさまで、誤字報告に支えられて作者は毎日投稿出来ています!




