第十七話 量産剣ボンソード試作中
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「ハヤト様の騎竜ですか!?」
システリナ王女が驚いた声を上げて確認してくるので頷いて返す。
正確にはまだ乗ったことは無いが、【上位騎手】などの職業もあるので直に乗りこなす予定だ。
「ええ。もう少し練習が必要ですが、セイペルゴンに騎乗できれば世界神樹ユグドラシルの元までたどり着けると考えています」
とはいえ、今はまだ乗りこなすことは出来ていない。
というのも【上位騎手】ではレベルが足りないのか職業の格が足りないのかどうもうまくいかないのだ。
オレが掴まっているだけでいいのかと思いきや、飛ぶ為にはセイペルゴンが魔力を使っているらしく、オレが騎乗するとその飛行魔力を練りにくくなるらしい。
ラーナの話ではそれは【騎手】系の職業の格が足りないときなどに起こる現象だと教えてもらったので、今後は最優先で【上位騎手】の育成をするつもりだ。
しかし、それでも話を聞いたシステリナ王女の反応は劇的だった。
「は、ハヤト様、それは本当に!? 世界神樹ユグドラシル様の下まで行けるのですか!?」
「はい。調教する前は世界神樹ユグドラシルの近くに住んでいたみたいですから、出来ないことはないと思っています。もちろんスタンピードの発生原因も出来れば見つけたいと思っています」
「あ、ああ。人を導きしユグドラシル様、感謝いたしますわ」
その言葉を聞いてシステリナ王女一行のセイペルゴンを見つめる目が怯えから希望に変わる。
システリナ王女なんて神に感謝の祈りを捧げ始めてしまったほどだ。
いや、神に感謝するのは分かるけれど、ユグドラシルって神はスタンピードの元凶かも知れないよ? 勘違いだったら怖いので言わないけれど。
あと【上位騎手】のレベル上げは難航中だ。
セイペルゴンには乗れないので馬に乗ってレベル上げをしているのだが、これが遅々としてレベルが上がらない。
周囲にいる魔物が弱すぎるせいで経験値が全然貯まらないのだ、スタンピードクラスの魔物の群れが来なければレベル上げは無理そうである。
それはさておき、視察を再開する。
セイペルゴンがジッと見つめているけど構っている暇は無い。
決して近づくと頬ずりされるのが怖いわけではない。今は視察が大切なのだ。
システリナ王女一行もセイペルゴンが気になるようでチラチラ見ながらではあったが、無事に北側での視察を終えて今日はそのまま終了になった。
翌日は住宅地と、その外側に広がる農地を案内した。
すべてが同じ形をしている住宅地にシステリナ王女が目を白黒したり、フォルエン王国に比べ、まだまだ改良の余地がある農地にシステリナ王女一行からアドバイスを受けたりして有意義な時間を過ごした。
今後はシステリナ王女が子育て中のラーナに変わりサンクチュアリの内政を行っていくことになる。
もちろん他国の姫を100%信用するわけにも行かないので、オレとラーナも内政に加わるが、基本的な役割としてラーナは子育てを中心に行い、オレは防衛やスタンピードの討滅、それに例の“凶兆”の対策なども進めていくため、実質大きな権利をシステリナ王女に任せることになる。
まあ、ルミもシステリナ王女に付ける予定だし、彼女の性格からしてめったなことには成らないと思う。システリナ王女、まじめだからね。
「サンクチュアリは、とんでもないところでした。もう何度驚いたか分かりません」
二日の視察を終えたシステリナ王女が思わずといった様子でそう呟いた。
まあ、その気持ちは理解できる。
上級職業というのは、いや理術職業、伝説職業の力はハッキリいってチートだ。
元は何も無い荒れ果てた荒野だった土地に町を築き、国を作り、そして相応以上の武力まで保持してしまった。
普通にしたら何十年、何百年かかるか分からない物をたった一年で作り上げてしまったのだからシステリナ王女からしたら堪ったものではないだろう。
だが、そんな場所でもシステリナ王女の力は必要だ。場所は作れても、それを維持管理するにはやはり人手がいる。オレとラーナだけでは手が回らないのだ。
「明日からは政務の引継ぎをします。シアがんばってね」
「了解したわ。あと、ルミさんもよろしく願うわ」
「は、はい。システリナ殿下のお力になれるようがんばります」
政務関係の引継ぎはラーナが子守の合間をみながらでも出来るからと引き受けてくれた。
ルミと一緒に明日から早速事に当たるらしい。
ということはオレは時間が出来てしまったな。
何をしようか。
そうだ、フォルエン王国に納品する武器の類でも作成するとしよう。
武器が変われば訓練も変わる。
身体に馴染ませる必要もあるし早ければ早いほど良い。
翌日、ラーナとシステリナ王女一行、そして後ろに着いていくルミを見送り、オレはサンクチュアリの外に出ていた。
作成する量が量だし、下手に武器に子どもが触れたらと考えると外で作ったほうがいいからね。
「さて、始めるか――『空間収納理術』」
アイテムボックスを開いて中身を取り出す。出てくるのは無数の骨、骨、骨。
これは魔物から採取した大量の骨だ。
オレの武器作成は大体が骨や甲殻の削りだしで作る。
だが、『粘成融合』を覚えてからはやり方に多くのバリエーションが生まれた。
まだ検証、実験段階ではあるが、その中でも魔物の骨と魔物の骨を『粘成融合』した“骨合金”とでも言う素材にオレは注目している。
この同じ物同士を合わせて作る素材系は元々の資質を強化する。
骨ならより強固に、硬く折れにくくなる。といった具合だ。
そして、骨素材は『空間収納理術』に大量にあまっている。これだけあれば余裕でフォルエンの兵全員に武器を配れるだろう。
「――『粘成融合』『粘成融合』『粘成融合』」
目の前に積まれた骨に『粘成融合』をかけて粘土のように捏ねる。
強度に偏りがあるといけないので出来るだけ均等になるように。
気分はピザ屋やパン屋さんかな。
生地は軽くオレの身体を越すほど大きいけれど。
だいぶ均等になったらその粘土の一部を千切って剣の形に整えて硬化させ、【鍛治師】や【造形技師】、【研技師】の能力を使って仕上げれば、立派な長剣が完成だ。
オレはこれを量産型長剣ボンソードと名付けた。
ただこれだけだと衝撃が手に直接響いてとても振れた物ではないので、毛皮などを使って柄を添え、【付与術士】の『衝撃緩和付与』を使ってエンチャントしてっと、これで衝撃は手に響かない。
この『衝撃緩和付与』は剣自体に付与すると攻撃の衝撃まで緩和してしまうので本来は防具なんかに付与するアーツだ。ただ、剣の柄に毛皮などを巻いて付与してやればクッションになる。
後は鞘か、カッコいい物が良いが、あまり懲りすぎると後が大変だ。
これは量産品だからね、シンプルにいこう。
骨粘土からまた引きちぎって形を整え、鞘を作る。
骨合金を使うのは少し勿体無いとは思うが、木材は貴重だし、何より鞘が剣に負けて穴が開いたら大変だ。
ある程度強度の高い素材じゃないと鞘が壊れてしまう。
イメージ通りに鞘が出来ると剣を差し込み動作を確認する。
「――こうしてっと、最後に軽く彫刻して…、これで完成かな。うん。良い出来だ」
出来上がった量産型長剣ボンソードを眺めてオレは満足する。前にラゴウ元帥に見せた試作品より高性能に仕上がっている。オレも腕が上がったな。
ラゴウ元帥とイガス将軍用に煌びやかな装飾をしたデザインの新型も用意しておこうかな。ラゴウ元帥専用剣、イガス将軍専用剣だ。忘れた中二心を振るわせるネームだな。
さて、量産品の設計図も出来上がったので、量産を開始しよう。
今日中に百は作りたいなぁ。
「――『高速空間解放理術』」
『空間収納理術』から大量の骨を吐き出しながら、オレは量産に取り掛かるのだった。




