第十六話 『視察』 大広場・セイペルゴン
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「『職業覚醒』……?」
オレの伝技の一つを教えると、呆然とシステリナ王女が呟いた。
「一日三人まで職業に覚醒させる能力…? 覚醒した職業が戻ることも無い? そんな、そんな永続的に職業に目覚める能力なんて聞いたことも無いですわ。でも、現にこんなに幼い子たちが覚醒しています…。では本当に?」
あまりの衝撃に自分の世界に入ってしまい考えていることが口から漏れてしまっている。
後ろに居る従者も衝撃に目を見開き、誰もシステリナ王女を止めることもできない。
再起動まで時間が掛かりそうなので、とりあえずほったらかしにしてしまった子どもたちを褒めてあげよう。
みんなで能力を使ってくれている所を見せてくれたからね。
「みんな、アーツを使うのとても巧くなっているね」
「うん!」
「みんなで頑張ったの~」
「でもまだまだハヤト様みたいにうまくいかないよー」
「ね、ハヤト様教えてー」
子どもたちが自分の工作を持って集まって来た。しかし、今はシステリナ王女一行を案内している途中なのでアドバイスくらいにとどめさせて貰おう。
「少しだけ教えるね。職業を巧く扱うコツは“囁きに耳と身体を傾けること”。みんな工作する時こうしたらうまく出来るんじゃないか? ってなんとなく分かるでしょ? それは職業が教えてくれるからなんだ。だからもっとたくさん職業に聞くのが巧く上達する近道なんだよ」
要は職業の事を教師にして学べと言うわけだ。
初心者で技術も何も無い者が職業の補正を得たからと言ってもそんな簡単に巧くなる、なんてことは難しい。
基礎も何も知らないからね。
しかし、知らないなら聞けば良い。
職業は囁きによって身体をどう動かしたら良いのかその動作や、やってはいけない事などを教えてくれる。
職業をうまく扱うにはその教えをよく聞いて、時には身体ごと身を任せて教えて貰うのが最も効率が良い、とオレは思っている。
この子たちはまだ、職業の囁きに対して、こうかな? こうやるのかな? と自分で試行錯誤している。なので、もっと意識して囁きを聞く事、身を任せる事、とアドバイスした。
「うーん」
「むずかしい」
「でも少し分かる、かもかも?」
「うん、頑張ってみる」
「「「「ハヤト様ありがとうー」」」」
「どういたしまして。みんなもがんばってね」
子どもたちが持ち場に戻ってうんうん唸りながら工作を始めると、後ろからシステリナ王女が声を掛けてきた。再起動は出来たらしい。
「ハヤト様、その能力は異常です。これまでの常識をひっくり返しかねません。ハヤト様が何故あれほど機密と強調していたのか得心がいきました」
「ええ。これは非常に有用で、そしてとても厄介でもあります。システリナ王女が聡明な方で自分も安心しました」
どうやら、フォルエン王国の為に使わせて欲しいとは言わないようだ。
正直助かる。
フォルエン王国とは今後とも末永く付き合いたいとは思っているが、『職業覚醒』はやり過ぎだ。下手をすれば争いの火種になりかねない。そして一方的な蹂躙になるだろう。
オレは今や一国のトップだ。短慮なことはできない。
が、しかしだ。もしシステリナ王女がこの能力をフォルエン王国の為に使おうとするなら、オレは彼女をこの国から出られないようにしなければならなかったかもしれない。
それがわかっているのだろう、彼女はすごく悩ましげな表情を浮かべていた。
職人街の視察はこれにて終了だ。大体の所は回れたように思う。
「北側は職人街ではないのですね」
「ええ。スタンピードが来る北側は大広場となっています。建築物や施設はあまりありません」
城を中心に囲む職人街は実は凹型の地形をしている。これは北側からスタンピードが迫るため、というのもあるが、城から演説などをするため国民の招集場所として大広場が配置されている。
最悪戦場になることも想定されるため邪魔になる建築物や埋設インフラは極力配置していない。一掃した後の復旧を考えると何も無いのが理想的なのだ。
「北側も出来れば拝見させていただいても構いませんか?」
「もちろんです」
と言うわけで一応北側も視察することになった。
まあ大広場とはいえ何も無いわけじゃ無い。ラーナと式を上げた礼拝堂風結婚式場や城に引っ越す前に住んでいた屋敷。それに教会や馬宿などが建っていたりする。
礼拝堂風の結婚式場は宴会ステージなどに早変わりするので今のうちに見せておいた方が良いだろう。
とそんな事を考えながら北側の大広場に出たところ、何やら白く清らかに光る巨大建造物らしき物体が鎮座しているのを見つけた。それに多くの子どもたちが群がりアスレチックにして遊んでいる。おい、なんでこいつがここに居る?
「は、ハヤト様! あ、あの。あれはなんですの!?」
「え? ああ、あれはアスレチックですよ。子どもの遊び場です」
「どう見てもドラゴンなのですが!?」
何でも無いようにごまかそうとしたがシステリナ王女には通じなかった。
システリナ王女が大きなお声を出されたことでドラゴンがこちらに気がついたみたいだ。
「ガル?」
「ひっ!?」
「で、殿下お下がりください、ここは危険です!」
慌てて三人の従者がシステリナ王女を囲い、ドラゴンとの間に割り込んで視線を遮る。
「まあまあ、安心してください。アレは自分が調教したドラゴンです。人に危害は加えませんから」
「なっ!?」
割って入るオレの言葉にシステリナ王女一行は信じられないと言わんばかりにこちらを向く。
「ほら、子どもたちがあんな風に上り下りして遊んでいても追い払われることもありません。おとなしいドラゴンですので安心してください」
「は、ハヤト様、そうはおっしゃいましても…」
自分の目で見ているのに彼女たちの警戒は解けない。まあ、うん。そうだね。
体長30m近くある巨大生物であり、世界で最も強いドラゴンだからね。そう簡単に警戒は解けないと思う。
しかしなんで北の大広場にあいつが居るんだい?
いつもは外壁に近い場所で寝ているはずだけど…。
思い当たる節は無いが、居てしまったものは仕方が無い。
こちらを見つめるドラゴンにジェスチャーでおとなしくしててと伝えておき、とりあえずシステリナ王女一向にドラゴンを紹介することにした。
「ドラゴンの名前は“セイペルゴン”。普段はサンクチュアリの守護を任せている自分の騎竜ですね。性格は、昔はやんちゃでしたが調教した今ではとてもおとなしく、自分やラーナの言うことをよく聞く頭の良いドラゴンです。調教してからは人を傷つけた事は皆無ですので、そこまで警戒しなくて大丈夫です。いざというときは自分が引導を渡しますので」
“セイペルゴン”というのは聖竜帝から取った。
なんとなく良い感じの名前なんじゃ無いかなと思っている。
セイペルゴンは元は邪竜王という種族でこの世界の覇者だったが、オレとラーナに負け、身体を浄化されて邪が抜け落ちて何故か進化し、聖竜帝に生まれ変わった存在だ。ただ生まれ変わったとき同時に記憶の大部分も抜け落ちてしまい、邪竜王の時に意味深風に言っていた重要情報が聞き出せなくなってしまった。
とはいえ何かの拍子で思い出す可能性もあるし、聖竜帝になっておとなしくなったためサンクチュアリの守護兼子どもたちの遊び場として残してある。
もちろん何かやらかしたら討伐するつもりである。




